第22話 召喚と海
浜辺へ戻った俺たちは、そのまま砂浜へ腰を下ろしていた。
海風が吹き抜け、波の音が静かに響く。
目の前にはどこまでも広がる海。
綺麗だとは思う。だがその海の底には、ルナとノアでも厳しいと言う化け物がいる。
海って、見た目ほど穏やかな場所じゃないんだな。
普通に戦って勝てる相手ではない。
かと言って放置して被害が広がるのも困る。
「……試してみるか」
俺は砂浜へ魔法陣を展開する。
「『我の声に応え、“力と水に特化”したその姿を現せ』」
魔力が一気に吸い取られる感覚。
巨大な魔法陣が青白く輝き、その中心からゆっくり影が現れる。
「……アザラシ?」
出てきたのは、アザラシのような見た目の魔獣だった。
ただし普通のアザラシより二回りほど大きい。
体表は淡い青銀色で、ヒレの先には薄く水色の模様が浮かんでいる。海辺に現れても違和感がないどころか、むしろ海そのものに溶け込んでいた。
魔眼で確認する。
種族:レヴィアシール
状態:良好
適正魔法:水魔法・地魔法・身体強化
「レヴィアシールか」
今回は聞いたことのある種族だった。
確か海系魔獣の中では比較的有名な上位種だ。
「なあ、レオルド。こいつって珍しいんじゃないのか?」
ロベルトがおそるおそる聞いてくる。
「ん? 今回はそこまで珍しくないだろ?」
「いやいや、レヴィアシールってアクアシールの上位種って言われてるやつだろ!?」
「まあ、そうなんだけど」
どうも俺の感覚がおかしくなってきている気がする。
ルナが希少種で、ノアが伝説級だったせいで、上位種くらいなら普通に感じてしまう。
慣れって怖い。
「とりあえず契約できるか確認しないとな」
俺はレヴィアシールへ近づく。
「俺と従魔契約を結んでくれるか?」
するとレヴィアシールは、こくこくと体を上下に揺らした。
了承らしい。
「名前は……リヴでどうだ?」
『リヴ。いい名前。ありがとう、ご主人』
頭の中へ穏やかな声が響く。
三頭目ともなると念話にもだいぶ慣れてきたな。
「ああ、よろしく。俺はレオルド。こっちがロベルト、ライオネル、ラナ。こっちはルナとノアだ」
『よろしく』
リヴはのんびりした性格らしい。
そのまま砂浜へ腹這いになり、気持ち良さそうに尻尾を揺らしている。
『おっきいねー。よろしく』
『リヴ、よろしく。ノアよ』
ルナとノアも特に敵意はないようだ。
「リヴ、早速で悪いんだけどシェルクラブの変異種討伐を手伝ってほしい」
俺がそう言うと、リヴは首を傾げた。
『ああ、あのシェルクラブ?』
「知ってるのか?」
『うん。でも、あれならもう長くないと思う』
「……え?」
『僕が行かなくても明日のお昼くらいには死ぬんじゃないかな』
思わぬ言葉に全員が固まった。
「それってどういうことだ?」
『突然変異種だから』
リヴは当然のように言う。
『突然変異した魔物は寿命が短いんだ。普通の魔獣と違って身体が耐えられないから』
「そんな特徴があるのか……」
初めて知った。
まだまだ知らないことだらけだ。
『今頃、動くこともできず潮に流されてるんじゃないかな』
「討伐の証拠だけでも必要なんだけど、どうしよう」
『証拠ってどこを持っていくの?』
「大体は甲殻とか魔石とか」
するとリヴの表情が少し真面目になった。
『海の中で解体はやめた方がいい』
「なんで?」
『変異種は毒を持ってるから』
さっきノアも言っていたな。死んでいた変異種に毒があり食べるのはやめた方がいいと。
『変異種はね、種族関係なく体内に毒が溜まるんだ。傷つければ漏れ出す』
「……海の中でやったら?」
『この辺りの魚、数年単位でいなくなる』
ぞっとした。
そんな危険なものなのか。解体せず放置してきたけど正解だっだようだ。
「一体、死んでる変異種は見つけたんだけど」
『あ、やっぱり死んでたんだ』
リヴは納得したように頷く。
『あれなら僕がここまで持ってくるよ』
「え?」
『それと東にいるやつは放置でいい』
「いいのか?」
『あれ、この辺りの“主”だから』
主。つまり海域の頂点個体。
『倒したら数年は生態系崩れるよ』
「なるほど……」
それならルナでも厳しいと言ったのも納得だ。
「教えてくれてありがとう。じゃあ死んでる変異種だけ頼めるか?」
『任せて!』
リヴは勢いよく海へ飛び込んだ。
数分後。
巨大なシェルクラブ変異種を引きずって戻ってきた。
「改めて見るとでかいな……」
近くで見ると威圧感が凄まじい。
これが海中を動き回っていたら、確かに漁船くらい簡単に壊せそうだ。
「地上なら解体しても平気なのか?」
『毒に詳しい人と浄化魔法が使える人がいる場所がいいかな』
「毒に詳しい人と浄化魔法が使える人?」
『変異種の毒って、魔力そのものみたいな感じだから。解体した瞬間、毒が霧散すると思う』
なるほど。
つまり知識のない場所で触るのは危険ということか。
「ライオネル、毒に詳しくて光魔法使えて、しかも口が硬い人知らない?」
俺が聞くと、ライオネルは呆れた顔をした。
「何故俺に聞く」
「いや、王子だし」
「元だ」
「でも王族じゃん」
ライオネルは盛大にため息をついた。
「……知ってはいる。だが動かせるのは父上と母上だけだ。俺の頼みは聞いてくれない」
「そっか」
まあ、勝手に王位継承権放棄して旅に出てるしな。
「じゃあカゲ」
そう呼ぶと、背後の空間が揺れた。
音もなく黒装束の人物が現れる。
ラナがびくっと肩を跳ねさせ、ロベルトも驚いた顔をした。
「今の話聞いてただろ? 国王陛下と王妃陛下に伝えてくれるか? 来年の収穫祭頃には王都へ戻る予定だから」
「御意」
短く答え、カゲは再び音もなく消えた。
流石、陛下直属。
「……なあレオルド」
「ん?」
「カゲって王族しか動かせないはずなんだが」
「え? そうなの?」
「そうだ」
「じゃあ俺、ライオネルより王族っぽいってことかな?」
冗談で言った瞬間、ライオネルが露骨に不機嫌そうな顔になった。
「お前なぁ……」
拗ねた。
さて、解体も今は無理。
とりあえずこのシェルクラブ変異種は異空間へ収納しておくか。
後はギルドへ戻って報告だな。
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