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跡取りになれなかった公爵嫡男は、前世の夢だった“自由な旅”を選ぶ  作者: みのり
一章 目覚めと旅立ち

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幕間 息子の旅立ち(ランハード公爵視点)

 私には二人の息子がいる。

 長男のレオルド。

 次男のリュシカ。

 二人とも私の自慢の子だ。


 長男であるレオルドは、幼い頃からよく努力する子だった。

 勉学も礼儀作法も弱音を吐かず、必死に学んでいた。


 きっと幼いながらに理解していたのだろう。

 自分がランハード公爵家の長男であり、いずれ私の跡を継ぐ存在なのだと。


 だからこそ、鑑定の儀の日――火魔法の適正がないと分かった時、あれほど深く傷ついてしまった。


 あの日のことは今でも後悔している。

 目を離さず、もっと側にいてやるべきだった。

 レオルドは鑑定の儀の後、屋敷の池へ飛び込んだ。

 発見された時には既に意識がなく、高熱まで出していた。


 三日間。

 あの子は目を覚まさなかった。

 医者は命に別状はないと言っていたが、それでも最悪の事態が頭を過ぎった。


 もし、このまま目を覚まさなかったら。

 もし、後遺症が残ったら。

 考える度に胸が締め付けられた。


 だから、目を覚ました時は心の底から安堵した。

 後遺症もなく、身体も徐々に回復している。

 本当に良かった。


 目を覚ました後、私はレオルドと今後について話した。

 火魔法の適正がない以上、公爵家当主にはなれない。

 だが、あの子は優秀だ。

 文官としても十分やっていける。

 王宮勤めという道もある。


 そう思っていたのだが――。


『旅に出たいです』


 返ってきた答えは予想外のものだった。


 だが、不思議と納得もした。

 あの子は昔から、冒険譚や各地の本を好んで読んでいたからだ。


 妻は当然反対した。

 危険だ、と。

 せめて王都で働いて欲しい、と。

 それでも最終的には、レオルド自身の意思を尊重した。


 条件として、騎士団長の息子ロベルトを同行させること。

 そして、次の目的地へ行く前に必ず一度戻ること。

 その二つを約束させ、旅立ちを認めた。


 旅立ちの日。

 レオルドは笑顔で「行ってきます」と言った。

 あの笑顔を見て、少しだけ安心した。


 ――その数時間後までは。


「東門の門番をしております!」


 そう名乗る男が、公爵邸へやってきた。


「レオルド様より手紙を預かっております!」


 ……早くないか?

 困ったことがあれば連絡しろとは言った。

 だが、旅立って数時間で届くとは思わなかった。

 何かあったのかと急いで手紙を開く。


『王都の冒険者ギルドで人身売買の疑いあり』


 短い。

 驚くほど簡潔だった。


「……人身売買?」


 そんな報告は上がってきていない。

 そもそも冒険者ギルドが関わるとは考えにくい。

 だが、レオルドは無意味な嘘をつく子ではない。

 私はすぐに調査を命じた。

 すると、不自然な点がいくつも見つかった。

 近年、王都で行方不明になった者が毎年数十人。

 しかも、その多くが冒険者登録直後の者たちだった。

 偶然にしては出来すぎている。


「これは……黒だな」


 背後に貴族がいる可能性も高い。

 さらに調査を進める必要があった。


 そして数日後。

 再びレオルドから手紙が届いた。

 ――王家直属の“カゲ”経由で。


「……何故カゲ?」


 嫌な予感しかしない。

 恐る恐る手紙を開く。


『第一王子ライオネル殿下と合流。帰りそうになかったため、次に帰る時も共に行動する』


 また簡潔だった。

 いや、そうじゃない。


「殿下、何をしているのですか!?」


 思わず叫んだ。


 その頃、王宮では大騒ぎになっていた。

 第一王子ライオネル殿下が失踪。


 しかも『王位継承権を放棄し、第二王子へ譲る』とだけ書かれた手紙を残して。


 王宮中が混乱していたというのに。

 まさか息子の旅へ同行しているとは誰が思う。


 私は急ぎ国王陛下へ謁見を申し込んだ。

 陛下も王位放棄の件は初耳だったらしく、大層驚かれていた。


 とりあえず、来年の収穫祭頃までは戻らないだろうという話になり、引き続きカゲに護衛兼監視として付いてもらうことになった。


 ……帰ってきたら説教だな。

 主に殿下へ。


 レオルドは恐らく止められなかっただけだろう。


 それより問題は冒険者ギルドの件だ。

 調査を進めた結果、背後にはシューベルト伯爵家の影が見えてきた。

 以前から黒い噂の絶えない家だったが、決定的な証拠がなく手を出せずにいた。

 だが、今回の件で動かせるかもしれない。


「……レオルドには感謝せねばならんな」


 旅立ったばかりだというのに、既に大事を持ち込んできている辺り、あの子らしいと言えばあの子らしい。


 願わくば――。

 どうか無事で。

 元気な姿で帰ってきて欲しい。


 それだけが、今の私の願いだった。

読んでいただきありがとうございます!

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