第14話 ランダム召喚
依頼の薬草採取を終えても、まだ日は高かった。
このまま宿へ戻ってもよかったのだが、俺にはどうしても試しておきたいことがあった。
「なあロベルト」
「ん?」
「召喚魔法、試してみたい」
その言葉にロベルトが一瞬固まる。
「……今?」
「うん。街中だと危ないし、人がいない場所でやっておきたい」
召喚魔法。
俺が持つ四つの適正魔法のうち、唯一まだ試していない能力。
何が出るのか分からない以上、街中では使えなかった。
「まぁ、確かに今しかないか」
ロベルトも納得したように頷く。
俺たちは街から一時間ほど離れた場所まで移動した。
周囲には草原と小さな林しかなく、人の気配もない。
「ここなら大丈夫かな」
「暴れたら頼むぞ」
「それは俺も思ってる」
苦笑しながら深呼吸をする。
召喚魔法の呪文は、公爵邸の書庫奥深くに隠すように置かれていた本に載っていた。
何であんな場所にあったのかは分からない。
ただ、あれがなければ俺は今も召喚魔法を試せずにいただろう。
魔力を意識し、静かに詠唱する。
「――我、汝と契約を希望する者。我の声に応え、姿を現せ」
詠唱が終わると同時に、足元へ巨大な魔法陣が浮かび上がった。
淡い光が広がり、風が揺れる。
「おぉ……」
ロベルトが感嘆の声を漏らす。
やがて光の中心から、一匹の魔獣が姿を現した。
「……猫?」
そこにいたのは、少し大きめの黒猫だった。
艶のある黒い毛並み。
金色の瞳。
身体つきはしなやかで美しい。
ぱっと見は、ただの綺麗な黒猫。
だが、魔眼で見た瞬間、俺は目を見開いた。
種族:ヴェルノクス
状態:良好
適正魔法:闇魔法・身体強化
(……は?)
いや、待って。
ヴェルノクス?
確か魔獣図鑑で見たことがある。
伝説上の種族。
存在しないと言われている上位猫系魔獣。
つまり――。
(めちゃくちゃヤバいやつじゃないか!?)
「なあ、レオルド」
隣でロベルトが黒猫を見ながら聞いてくる。
「こいつ何の種族だ? 俺、見たことねぇぞ」
「……ヴェルノクス」
「へぇ……って何だそれ?」
「伝説上の種族」
「は?」
ロベルトが固まる。
「魔獣図鑑に載ってた。存在しないって言われてるやつ」
「マジかよ!?」
ロベルトが一歩下がる。
「いや、ちょっと待て!? そんなの出てくるとか聞いてねぇぞ!?」
それは俺も聞きたい。
召喚魔法、怖すぎないか?
「契約できなかったらどうなるんだ、これ。襲ってきたりしないよな?」
「俺が知りたいよ……」
すると。
『人間』
突然、頭の中へ直接声が響いた。
「うわっ!?」
思わず肩が跳ねる。
黒猫――ヴェルノクスは、優雅に座りながらこちらを見ていた。
『わたしを呼び出したのはお前?』
「そ、そうだけど……」
契約もしていないのに念話できるのか。
流石伝説級。
「一度召喚魔法を使ってみたくて。まさか伝説上の種族が出てくるとは思わなかった」
『人の間ではそうなっているのね』
黒猫はふむ、と面白そうに目を細める。
『わたしたちは人が踏み入らぬ山奥へ移り住んだからね。見つからないのも当然よ』
「なるほど……」
『それに、わたしも暇だったのよ』
尻尾をゆらりと揺らした。
『だから召喚に応じたのよ』
何か凄いことをさらっと言われた気がする。
『何なら契約してあげてもいいわよ?』
「……え?」
思わず聞き返す。
『暇だと言ったでしょう?。短き人の寿命の間くらい、あなたたちの力になってあげる』
何その超上から目線。
でも嫌な感じはしない。
「いいのか?」
『ええ。それに、わたしと契約すればノクスキャットとエーテルキャットも無条件で呼び出せるわよ』
「え、それまた凄くない?」
確かどっちもヴェルノクスの下位種族だったはずだ。
『当然よ』
黒猫は偉そうに胸を張る。
『召喚魔法とはそういうものよ』
「へぇ……」
知らなかった。
「じゃあ契約しようかな」
『ええ』
「名前を付ければいいんだよな?」
『そうよ』
黒猫を見つめながら少し考える。
黒。
夜。
静かな雰囲気。
「……ノア」
『ノア?』
「うん。どうかな」
すると黒猫――いや、ノアは満足そうに目を細めた。
『良い名ね』
その瞬間、契約魔法陣が浮かび上がる。
『これからよろしく頼むわ、ご主人』
「ああ、よろしく」
こうして二体目の契約魔獣が誕生した。
「それと紹介しておくよ。こっちは友人のロベルト。こっちが従魔契約してるルナ」
ルナが嬉しそうに前へ出る。
『黒猫さんだ! よろしく、ノア!』
『ええ。よろしくね』
「よ、よろしくな」
ロベルトはまだ少し緊張していた。
無理もない。
伝説上の種族だからな。
「さて、そろそろ街へ戻ろうか」
依頼報告もしないといけない。
「ノアは元いた場所へ戻れるんだよな?」
『……なんで?』
ノアが不満そうに耳を動かす。
『一緒に行ってはだめなの?』
「いや、街に魔獣連れてくのは問題ないんだけど」
俺はルナの首輪を見せた。
「これ付けないといけないらしい」
すると。
『嫌だ』
ノアが即答した。
しかもルナと同じ反応である。
『可愛くない』
『ねー』
何故か意気投合している。
「可愛いのがいいの?」
『当然よ』
ノアが真顔で言う。
『ルナが付けているようなのはないの?』
「ギルド行けばあるかも」
『なら聞いて』
どうやら本気らしい。
そこでふと気になる。
「あのさ、一応聞いていい?」
『何?』
「二人ってメス?」
『何、分からなかったのか?』
ノアが呆れたように言う。
『当然メスよ』
「あ、やっぱり」
ロベルトが小声で呟く。
「見た目じゃ分かんねぇな……」
いや、本当に分からない。
猫や狼型魔獣ってぱっと見じゃ区別つかないんだよ。
「ごめん。とりあえず首輪探してくるから、一回戻ってもらえる?」
『仕方ない』
ノアが優雅に立ち上がる。
『契約は済んでるし、呼びたければ念じなさい』
「分かった」
次の瞬間、ノアの姿は光となって消えた。
俺たちは街へ戻り、依頼報告を済ませる。
その後、例のマッチョ受付へ向かった。
「すみません。ルナと似た感じの従魔用首輪ってありますか?」
「あー、それ最後だったんだよな」
「そうですか……」
「予備で欲しがったのか?」
「いえ、その……もう一体契約して」
小声で答えた瞬間。
受付のお兄さんの動きが止まった。
「……お前」
ゆっくり顔を上げる。
「さてはテイムと召喚魔法持ちだな?」
「え」
「ちょっとこっち来い。相棒の坊主も一緒だ」
何故か俺たちはギルド奥の部屋へ連れて行かれることになった。
(え、何されるの俺たち……?)
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