表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
跡取りになれなかった公爵嫡男は、前世の夢だった“自由な旅”を選ぶ  作者: みのり
一章 目覚めと旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/46

第12話 はじめての契約

 傷だらけのアルヴェルグ希少種を前に、俺は異空間から一本のポーションを取り出した。


「ハイポーションか?」


 ロベルトが覗き込んでくる。


「うん。手持ちで一番効果が高いやつ」


 本来は人間用に調合されたものだ。

 魔獣にどれほど効くかは分からない。

 だが、このまま放置するよりはずっといい。


「ちょっと染みるかもしれないけど、我慢してね」


 そう声をかけながら、白銀の毛並みへゆっくりとポーションをかける。


 すると――。

 淡い光と共に、裂けていた傷口が目に見えて塞がっていった。


「うわ……」


 ロベルトが思わず声を漏らす。

 深く裂けていた背中の傷は、あっという間に薄くなり、最後にはどこに傷があったのか分からないほど綺麗に消えていた。


「すごいな、ハイポーション」


「公爵家品質だからね」


 とはいえ、傷は治っても体力までは戻らない。

 アルヴェルグの幼獣は眠ったまま動かなかった。

 だが、呼吸は先ほどよりずっと安定している。


「とりあえず命は助かったかな」


「だな」


 ロベルトが空を見上げる。


 夕陽はかなり傾いていた。


「そろそろ街の門閉まるぞ」


「……今日は野宿か」


 初日から野宿になるとは思わなかった。


 苦笑しながら、俺たちは野営準備を始める。

 と言っても、俺の場合準備というほど大変ではない。


 異空間からテントを取り出す。

 既に組み立てた状態で収納してあるため、そのまま設置するだけだ。


 ロベルトが呆れたような顔をする。


「やっぱ反則だろ、その魔法」


「便利なのは認める」


 さらに食料も異空間から取り出す。

 公爵邸を出る前、料理人たちが作ってくれた食事を大量に収納しておいたのだ。

 時間停止機能のおかげで、全部出来立ての状態のまま保存されている。


 普通の旅人なら保存食か現地調達。

 夜は交代で見張りを立てるのが基本らしい。


 だが俺には空間魔法がある。


「結界展開」


 魔力を流し込むと、周囲に透明な膜が広がる。

 これで悪意を持つ者からはこちらが認識できなくなる。

 完全無敵ではないが、野営には十分すぎる性能だ。


「本当便利だな……」


 ロベルトが感心したように呟く。


「空間魔法ってこんな何でもできるもんなのか?」


「俺も知らない。でも旅との相性はかなりいいと思う」


 テントの中へ入り、食事を並べる。


「とりあえず、あの子が起きるまで待ちながら食べよう」


「あいよ」


 食事中、アルヴェルグの幼獣は眠ったままだった。

 だが食べ終わる頃、小さく身体が動く。

 白銀の耳がぴくりと揺れ、ゆっくり瞳が開いた。

 淡い氷色の瞳。

 警戒するように周囲を見回し、そして俺たちへ視線を向ける。


「目、覚めた?」


 一瞬だけ身体を強張らせる。

 だが、敵意は感じない。


「体調はどう? まだお腹空いてるなら何か食べる?」


 その瞬間、ぴくりと耳が反応した。


 そして――。

 じゅるり。

 口元から涎が垂れた。


「……相当空いてたんだな」


 ロベルトが吹き出す。


 俺も苦笑しながら、異空間から鍋を取り出した。

 肉を柔らかく煮込んだスープだ。

 怪我人――いや怪我魔獣にも優しい料理を選んだつもりである。

 皿へ盛り付け、そっと前へ置く。


「熱いから気をつけて」


 するとアルヴェルグの幼獣は、待ってましたと言わんばかりに食べ始めた。


 ものすごい勢いだった。


「あ、おい、落ち着いて食べろって」


 心配になるくらいの速度で食べ進める。


 結局、一杯目は一瞬で空になった。


「……おかわりいる?」


 ぱたぱたぱたっ!

 尻尾が凄い勢いで振られる。


「分かりやすいな」


 ロベルトが笑う。


 結局、その後三杯もおかわりを出すことになった。

 ようやく落ち着いた頃には、アルヴェルグの幼獣は満足そうに伏せていた。

 その姿を見ながら、俺は少し考える。


「なあ」


 声をかけると、幼獣が顔を上げた。


「お前、行くあてあるのか?」


 返事はない。

 だが、じっとこちらを見ている。


「ないなら、俺と従魔契約しないか?」


 ロベルトがこちらを見る。


「従魔契約?」


「うん」


 テイム魔法は無理やり支配するものじゃない。

 相手が拒否すれば成立しない。


「契約してくれるなら、ちゃんと食事も用意する。傷だって治す」


 アルヴェルグの幼獣は静かにこちらを見つめる。

 そして次の瞬間――。


 淡い光が額に浮かび上がった。

 複雑な魔法陣。

 従魔契約の証だ。


「……承諾、してくれたのか」


 胸の奥が少し熱くなる。


「ありがとう」


 そっと頭を撫でる。

 ふわふわしていて気持ちいい。


「これからよろしくな」


 そして少し考えてから、名前を口にした。


「お前の名前は――ルナだ」


 その瞬間。


『ルナ……!』


 頭の中へ直接、幼い声が響いた。


「うわっ!?」


 今度は俺が驚く番だった。


『いい名前、ありがとう、ご主人様!』


 嬉しそうな声だった。


『ご飯も、傷も、ありがとう』


「……喋れるのか」


『うん!』


 ルナが嬉しそうに尻尾を振る。


「ああ、俺はレオルド。こっちはロベルト」


『ロベルト、よろしく!』


「うぉっ!? 何だ今の!?」


 ロベルトが飛び上がる。


「頭の中に声が!?」


「契約したから念話みたいに聞こえるんだと思う」


「びっくりするだろ普通!」


 ロベルトが本気で驚いていて、思わず笑ってしまった。


「よろしくな、ルナ」


『うん!』


 嬉しそうに返事をするルナ。

 白銀の尻尾がぶんぶん揺れていた。


 こうして俺たちの旅に、新しい仲間が加わったのだった。

読んでいただきありがとうございます!

面白いと思ったら⭐︎を押していただけたら投稿の励みになります☆彡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ