07-08 我は在りて有る者
火の街、城塞都市コーフダンジョンの十一階層『奈落』の隠し部屋。
五芒星の転移魔法陣の光が消える。
出口も入り口もない閉ざされた真っ白な大理石の柱が立ち並ぶ宮殿のような場所。
白大理石の床に解、永久、繭、ドラキュラ伯爵、人狼ガルム、鬼女ベニの六人は立っていた。
色のない真っ白な空間で、唯一血のような真っ赤な絨毯だけが異彩を放つ。
その先の白い革でできた玉座に座って、たった一人で待ち構える男。
「天乃解。随分と手こずったみたいじゃないか」
白髪、白眼、白いスーツ。解そっくりの顔立ちの男。
「如月創だ。俺の影たちを回収してくれて、ご苦労だった」
創はニヤリと笑う。
「頼まれてないけどな。本体の人格が知れる様な随分とイカレた連中だったよ」
解は不敵な笑いを浮かべる。
「まあ、君も含めて不良品だからな。俺の意志に関わらず時間が経つほどに歪みが蓄積される。大聖女マユ、君ならわかるだろ」
創は繭へと視線を送る。
「ふわー、真っ白な解さんだ……」
大聖女マユ、現世の吉澤繭、キビ村のマユ。三つの記憶が彼女を混乱させる。
「っ……。大聖女マユ……、どうしたんだ」
創の顔に初めて焦りの色が浮かぶ。
「あっれっ、違いました。かつての勇者、そして今は大魔王の創君でした。私の意志に関わらず、時間が経つほどに人は育つものです」
繭は聖女の笑みを讃える。
「イレギラーの不良品、キビ村のマユに意識を食われたか。まったくもって世界は想定外を生み出してくれる。これだから修正が必要なんだ」
白髪、白眼、白いスーツ。解そっくりの顔立ちの男。
如月創は玉座の横にある人の頭部大の水晶玉に手を触れる。
その瞬間、水晶玉は純白の光を発して眩く輝く。
「大聖女マユの記憶と魂のバックアップだ。天乃解を回収したら、蓄積した歪みを綺麗にしてやるから待ってな」
創の言葉に解の中で怒りの感情が高まっていく。
「人を『物』みたいに……。歪んだのは創……、お前の方だ」
解はこぶしを強く握る。
「師匠、こいつ。師匠と違って救えないタイプのクズですよ」
永久の狐耳が怒りでピンと立ち上がる。扇のように広がる九尾。
「全式神、緊急召喚!変化、属性ビーム砲」
その瞬間、一本の尻尾を残した八本の尻尾が射出され、如月創を取り囲むように飛翔する。
「包囲飽和攻撃!」
木属性式神、蝶花が放つ毒霧ビームが、
土属性式神、豊花が放つ炸薬ビームが、
水属性式神、翡花が放つ高圧水ビームが、
金属性式神、月花が放つ水銀ビームが、
火属性式神、焔花が放つ獄炎ビームが、
雷属性式神、雷花が放つ電撃ビームが、
風属性式神、風花が放つ真空ビームが、
氷属性式神、雪花が放つ冷凍ビームが、
白髪、白眼、白いスーツ。解そっくりの顔立ちの男に向かって走る。
九尾永久、渾身の攻撃がさく裂した。
「神の御霊よ、無垢なる鏡の力を借りて在りし力を跳ね返し給え『八咫鏡』」
創の座る玉座の横にある人の頭部大の水晶玉から、後光を背にして光り輝く大聖女マユの精神体が浮かび上がる。
その手に握るものは現世、日本の三種の神器の一つ、八咫鏡。
鏡の裏にヘブライ語で刻まれている『エイェ・アシェル・エイェ』。その意味は諸説あるが『我は在りて有る者』。
式神の放ったビームが反射されて自らを穿つ。
「ぐっわっ!……第二次大戦後のドサクサで伊勢神宮から盗まれた神器、八咫鏡……」
永久は膝をついて口から血の塊を吹き出す。真っ赤な血は床に敷かれた赤い絨毯に吸い込まれる。
「永久……!」
解は永久を抱きかかえる。
「師匠っうー。あれ、チートすぎですよ。ごふっ、ごふっ、ごふっ」
口から血の塊を吹き出しながら、みるみる血の気が引いていく永久。
「繭、頼む」
繭は永久に駆け寄り、光り輝く手で永久を癒す。
永久の血の気が戻っていくにつれて、繭の顔に疲労が浮かぶ。
「繭、そこまでだ。それ以上の力を使うと繭の体に巣くうガン細胞を止められない。伯爵、ガルム、ベニ。繭と永久を頼む」
ドラキュラ伯爵が繭に寄り添い、人狼ガルムと鬼女ベニが永久を抱えて後ろに下がる。
人狼ガルムと鬼女ベニが今日の為に準備したエルフ族特製の回復ポーションを二人に飲ませる。
「そこまでだな。我流六気操師、天乃解。今のお前じゃ俺たちを倒せない」
如月創は玉座から立ち上がる。右手には六 振の最後の一つ、妖刀『鬼神創』。
「っ……」
解は自身の妖刀『鬼神解』の柄に手をかけた。




