07-01 怪獣モッシー
火の街、城塞都市コーフ(現世気相:山梨)に向かってウィンド・バイクを走らせるパーティーメンバー。
「師匠、あの山、富士山ですよね。でもなんか形が浮世絵みたいにデフォルメされてる!」
大きさもさることながら、永久は形の異常さに驚く。
「なんだろうな。現世の陰陽師の秘蔵書では葛飾北斎は半妖怪だって記載があったから、案外、異界から転生したのかもしれないな」
解は現世と異界を行き来する存在が結構いるんじゃないかと思い始めた。
科学や物理が支配する現世と魔法が支配する異界。気相で繋がる人々。きっとそこには何らかの意図や意志が関わっている。
全てが終わったらじっくり調べるのも面白いなとちょっと思う。
「解さん、湖ですよ」
「お師匠、水陸両用のウィンド・バイクなら全然問題ありませんよ。突っ切りましょう」
先導する鬼女ベニと人狼ガルム。
「了解」
解は短く答える。
「師匠、ここもリゾート開発できそうですね。グフフ。ウィンド・バイクはホバークラフトの原理だからメチャ儲かりますよ」
永久らしいと解は思う。
「そうだな。現世の気相で繋がるこの世界。日常の不満やストレスが現世の妖魔を生み、災害を起こしているなら、異界のリゾートやアクティビティで解消できるかもしれない」
解は繭を横に乗せたサイドカー付きのウィンド・バイクを加速させ、湖に滑り込む。
ドドドドド。バヒューンー!!
風魔法を応用した魔道具、解のサイドカー付きと、残り四台のウィンド・バイクが、吹き出す風の白い波を引き連れて湖面を進む。
馬車やロバしか移動手段のないこの世界で、モータリゼーションと同じことを起こすと言うことは現世の自動車メーカーの売り上げを独り占めできるほどの可能性を秘めている。
道路整備もレールも必要ないウィンド・バイクは、それだけで金の成る木である。
「ダンジョン制覇で一攫千金なって比じゃないからな。現世の経済規模を参考にすれば、異界経済の十分の一になるような莫大な財産も夢じゃない」
解はニヤリと笑う。
「解さん。ダンジョン無双なんてもんじゃないな。みんなでギルド冒険者を辞めて実業家にでもなるか」
ドラキュラ伯爵は笑う。
「ふわわわわ。孤児院をビルにできます。無償の学校だって作れそうです」
繭が笑顔になるのは解にとって何よりもうれしい。
解は心の中で強欲商人ゴウと桜龍会の女親分サキをどう育てようか思案する。
一行のウィンド・バイクが湖の中ほどに差し掛かった時、行く手の海面がみるみると盛りあがる。
ズッパーン。
巨大な波の中から首をもたげる。
「「っ……」」
先導する人狼ガルムと鬼女ベニの乗るウィンド・バイクは、左右に分かれてそれを避ける。
「あれはネッシーかな?イギリス旅行のついでにネス湖まで会いに行ったけど出会えなかったんだよな」
ドラキュラ伯爵は懐かしむ。
「師匠、ネッシーって何ですか?どうみても恐竜ですよね」
「歴史の生き証人みたいな永久でも知らないことがあるんだな。ああ、ネッシーは首長竜プレシオサウルスの生き残りと言われている。でも、あいつは現世で昭和の時代で新聞沙汰になった山梨県本栖湖の怪獣モッシーだな」
ドラキュラ伯爵と永久、解は慌てることなく余裕の会話。二人にとってこの程度の巨大生物は慣れっこになっている。
「ふうわー。おっきい。解君、傷つけたらダメですよ。寂しそうな気を感じます」
繭の口調がマユと混じってちょっと微笑ましい。
「もちろんだよ。こんな恰好の観光資源、大切にしないとな」
解はサイドカーにすわる繭にほほ笑む。
くうううー。
怪獣モッシーは巨大な口で鳴く。
「師匠、背中にモリがたくさん刺さってます」
永久は顔をしかめる。
「繭、モリを抜いてくるから、治療をよろしく」
クルクルクル、すとん。
解は繭を抱えてウィンド・バイクから飛び、怪獣モッシーの背中に着地。
腕に闘気を纏ってモリを抜いて回る。繭が抜いた後を治療する。
くうううー。
「漁師と仲良くなろうとでも思ったのか?でもなー、お前、デカいからみんな魔物と勘違いされるんだよ。恨まないでくれないか」
解は優しく語りかける。
くうううー。
「解君、治療完了です。でも、また漁師にいじられたら可哀そうです」
繭の手の光がゆっくりと消えていく。
「そうだな。こいつ魔物じゃなくて恐竜だから、口から火とか吐けないしな。ただデカいだけみたいだから、浮上したら恰好の的だしな。ドラキュラ伯爵、なんかいい方法ないか?」
解は考え込む。
「うむ。性格は素直だけどオスなんだよな。眷属化は難しいけど、その必要もないな」
くうううー。
「ふふふ、解君。私、大聖女マユの記憶が戻ったから呪文が使えるようになりました」
繭は両手を大きく左右に広げる。
「神の御霊よ、虹となりてこの者に近づく全ての敵意を癒し給え『友愛』」
大聖女の最上位魔法が、いくつもの虹の輪となってふんわりと怪獣モッシーを包み込む。
くうううー。
「師匠、繭ちゃん。もう、チートを超えて女神ですね」
永久は唖然。差がつく一方。心はトホホ。
「そうでもないです。この魔法は複数には使えないし、対象の性格によっては弾かれちゃうんですよ。悪い子には使えないんです」
繭はニッコリと笑った。
この後、この湖は強欲商人ゴウと桜龍会の女親分サキの手によってリゾート開発され、怪獣モッシーは子供たちの人気者となる。
地元漁師たちは旅館経営を始めたり、貸ウィンド・バイク店を始めたりとリッチになって行く。
水上スキーやウインドサーフィンなど解が現世から持ち込んだ遊びも加わり発展を遂げる。
そんな未来のことは、さて置いて解のサイドカー付きと、残り四台のウィンド・バイクは怪獣モッシーに見送られながら快調に湖面を走りゆく。
ドドドドド。バヒューンー!!




