06-11 聞くものを引き付けて離さないその声
「旦那、本当にセイレーンの塔へ行かれるんですか?近辺の商人に聞いたところ、塔は海洋にあって潮の流れが複雑で商船では近づくことさえ無理と言う話でっせ」
強欲商人ゴウは腰が引けている。そしてさり気なく自分をメンバーに含めない言い回し。
「ゴウ、だからこそのホバークラフト型ウィンド・バイクだろ。海上に浮いて走るから海流の影響を受けにくい」
解の説明に強欲商人ゴウの脳内レジスターは回りだす。
チーン!
「なるほど、確かにそうですね。って、ことは海に接する帝都トキオや城塞都市チーバ、城塞都市ヨーコの海難救助艇と売れるってことですね」
「いいね!それ、それとだな。帝都トキオには競馬レースがあるらしいな。俺がいた世界では同じようにボートレースってのがあってな、ウィンド・バイクレースなんてどうだ、ゴウ」
「っ……。旦那もう天才すぎです。あっしのかみさんのところ、桜龍会で帝都トキオの競馬レースを仕切っておりやす」
ギャンブルビジネスは恐ろしく儲かる。強欲商人ゴウの心に火が灯る。
「忙しくなるな。ところで新婚旅行はいいのか?」
解はニヤニヤ。
「旦那、あっしもサキも金が趣味でして」
強欲商人ゴウもニヤニヤ。
「城塞都市ヨーコの自警団がアータミの漁港に、旦那のサイドカー付きと四台のウィンド・バイクを用意しております。地図はこちらで……」
道案内でついて来いと言われないか不安なD級冒険者のヘナチョコ、ゴウ。
「サキと二人で引き続き情報収集とウィンド・バイクレースの件を頼む。あっ、それとだな」
ジジー。
解は無限収納ファスナーのつまみを引いて時空の狭間から、港町ヨーコのダンジョンで手に入れた、宙に浮く海藻と空中を泳ぐソード・フィッシュの魔石を大量に取り出す。
「キビ村鍛冶屋、タキに渡して解析を頼む。うまくいけば空を自在に飛べる魔道具が作れるぞ。ウィンド・バイク量産工場を増設しろ」
解はニヤリと笑う。
「旦那、もう人使いが荒すぎでっせ。望むところですが」
強欲商人ゴウの脳内レジスターは回りっぱなしとなる。
「ゴウ。前にも話した通り、恐らくこの世界は、この先、大災害に見舞われるかもしれない。金持ちと権力者しか生き延びられない世界にしたくないだろ。その時に金は必要だ。頼りにしている」
解はゴウの肩を叩き、耳打ちする。
「わかってますよ。旦那」
「それとだな。まだ時間はあるから桜龍会の女親分サキさんとの新婚旅行、最後まで楽しむんだぞ。その為の金は出し惜しみせず使いたいだけ使え、別予算だ。仕事はそれからでいい」
ちょっと泣き顔になる強欲商人ゴウを置いて解は仲間の元へと歩き出した。
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ドドドドド。バヒューンー!!
海上を浮かび飛ぶ風魔法を応用した魔道具、五台のウィンド・バイク。
カモメが舞う青い空、ゆったりと流れる白い雲、その先に浮かぶ入道雲。
「解さん、どうやらセイレーンの塔はあの嵐の雲の中ですね」
解が現世で陰陽師の備品からパクったインカムから先導するドラキュラ伯爵の声が響いてくる。
「らしいな。八十年も全貌が分からないわけだ。みんな振り落とされるなよ。突っ切るぞ」
「「「「了解」」」」
解たちのウィンド・バイクは加速し、次々と積乱雲の中に突っ込んでいく。
「マユ、頼む」
回復師マユは聖魔法で防御結界を展開。みんなを雷雨から守る。
嵐を突き抜けた先にセイレーンの塔はあった。
見上げる先が霞むほどの高さの人工物。
「師匠、これ。東京スカイツリーより高いですよね」
小さな永久が見上げるとさらに巨大に見える。
「足腰が鍛えられそうだな」
解は苦笑い。
「「……」」
人狼ガルムと鬼女ベニは呆然。
「ふわー、解さん。綺麗ですね」
マユは感動で瞳をキラキラ。
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セイレーンの塔の島に上陸する六人。
五台のウィンド・バイクを手分けして解の時空の狭間へと押し込んだ直後。
ギ、ギ、ギ、ギー。
タイミングを見計らったかのようにセイレーンの塔の扉が開いた。
天空から響き渡るセイレーンの歌声。
ララララー、ララララー、ハアアアー、フウウウー。
どこか懐かしく、もの悲しく、聞くものを引き付けて離さないその声。
「見られているな」
「そうですね」
近くで見ると更に巨大に見えるその塔を見上げる解と永久。
「「っ……」」
人狼ガルムは狼耳と尻尾を展開、鬼女ベニの額から二本の角が伸びる。二人は既に戦闘形態に移行。
「ふっ……」
マユはフラフラと解にもたれかかる。
「マユ、どうした」
解はマユの肩を両手で優しく支える。
「この声、聴いたことが……。ちょっと眩暈がして、その、ごめんなさい……」
マユは静かに気を失った。
「師匠、マユちゃん大丈夫なんですか?」
「マユは俺の部屋で休ませる」
ジジー。
解は無限収納ファスナーのつまみを引いて、時空の狭間の自分の部屋のベッドにマユをそっと横たえる。
呼吸は正常。顔色も悪くない。解はマユの寝顔を確認して外に出る。
「ドラキュラ伯爵、先導してくれ」
「了解した。解、彼女を塔の上に連れて行く理由があるんだな」
ドラキュラ伯爵はいつになく真剣な顔をする。
「ああ……。人魚族の黒魔術師セイレーン。大魔王プロトニを倒した勇者のパーティーメンバー……。会えばわかる」
五人になったパーティーメンバーはセイレーンの塔の入り口に進む。
ララララー、ララララー、ハアアアー、フウウウー。
セイレーンの歌声が彼らを誘っている。




