06-10 風呂上りは牛乳の一気飲みなのです
無事に水の街、城塞都市ヨーコの街の海上ダンジョンを攻略した解、永久、マユ、人狼ガルムと鬼女ベニ、ドラキュラ伯爵の六人は近くにあるアータミに温泉旅行に来ていた。
「ふぅぅぅー。やっぱり日本の温泉は最高ですな」
何かと活躍の少ないイケおじ紳士、ドラキュラ伯爵は湯舟に浸かって一言。
「師匠、肩の傷。本当に完治してますね。マユさんの癒しの力は規格外ですね」
人狼ガルムは感心している。
「そうだな。マユがいるから、このパーティーはムチャできるようなもんだからなぁー」
硫黄の匂いと湯煙立ち昇る岩場の露天風呂で解は両腕を伸ばす。
一方、木の衝立を隔てた向こうから、永久、マユ、鬼女ベニの子供がはしゃぐ様な会話が響いてくる。
「っ……。ベニさん、メチャメチャ肌、綺麗じゃないですか!どんな手入れしてるんですか?」
「永久ちゃん、何処さわっているの!」
「えへへ、つるつるでフカフカだからついなのです」
「ほわー、ベニちゃんの肌、ツルツルです」
「ちょっと、マユちゃんまで。もう、エイ!」
ジャバ、ジャバ!
「やった、ですね」
ビチャ、ビチャ!
「うふふ、じゃあ私も」
チャプ、チャプ!
「あっちは何やら盛り上がってますなー」
イケおじ紳士、ドラキュラ伯爵の顔は熱でとろけ気味。
「お師匠、こっ、この衝立。湯舟の半分で切れてますよ。こっ、この露天風呂……。混浴……」
途端に挙動不審になる人狼ガルム。
「「「……」」」
沈黙する三人の男衆。響き渡る隣からの女子メンバーのはしゃぎ声。空をゆっくりと流れる雲。
「そろそろ、上がるか」
のぼせてもいないのに顔を真っ赤にする解。
のんびり、ゆったりした時間が過ぎていく。
お風呂上りの浴衣に着替えて、腰に手を当て牛乳瓶を傾け一気飲みする永久。
「プッハー、やっぱり、風呂上りは牛乳の一気飲みなのです。伯爵も飲みます?」
永久は牛乳瓶の紙の栓に爪を立てる。
「ほう、日本の温泉、あるある、かな?江戸にもドイツのバーデン・バーデンでも見ない風習だな」
ドラキュラ伯爵はイケおじ顔で興味津々。
「グフフ。伯爵は江戸の陰陽師にこっちに追放されたから、昭和文化を知らないんですよね」
「俺ら、知ってるよ。なあ、ベニ。アニメの再々放送で見たもんな」
「そうそう。ババ臭いって、みんな言ってたよ」
鬼女ベニの言葉に反応する永久。
「ババ……、ぬぐぐぐ。おりゃー」
手に持つ牛乳瓶の紙栓を指で強く押し込む。
ちゃぷっ!
跳ね出た牛乳がベニの浴衣の胸元を濡らす。
「っ……。やったな古だぬき!」
「ぬぐぐぐ、お狐様や」
睨み合う永久と鬼女ベニ。
二人を残して他人の素振りで立ち去ろうとする四人。
「ちょっと、師匠。おいてかないでくださいよー」
駆け出す永久と鬼女ベニ。
休憩室で平和なひと時を過ごす解と永久、マユ、人狼ガルムと鬼女ベニ。
「師匠、なんか一人だけメチャモテてますけど」
女性の観光客はもとより、温泉宿の女主人、中居さんまでイケおじドラキュラ伯爵を取り囲んでイチャイチャ。
飛び交うハートマークと、男性陣の嫉妬の視線。
「あれっ?じっくり見たらドラキュラ伯爵さんて……」
鬼女ベニまで顔を赤らめる始末。
「っ……。伯爵、なんか特別なフェロモンとかチート能力使ってないですかね?」
人狼ガルムは気が気じゃない。
「ああ、あれな。高身長、伯爵爵位、ダンディなマスク。滲み出る包容力ってやつな」
解はソファーに寝ころび読書していた本から目を外して人狼ガルムに伝える。
「くっ……。お師匠……」
人狼ガルムは半泣き顔。
解は読みかけの本をパタンと閉じる。
「来たか」
廊下をドタドタと走る音。
強欲商人ゴウと桜龍会女親分サキが駆けつける。
「旦那、やっぱりありましたよ。あっしはてっきり、都市伝説の類かと思ってましたが……、セイレーンの塔」
強欲商人ゴウは乗り気じゃない。
「しかし、解さん。相手は相当の難物らしいですよ。八十年近く、人族とは接触してないようです」
女親分サキは顔を歪める。
「人魚族の黒魔術師セイレーン。大魔王プロトニを倒した勇者のパーティーメンバー……。会いに行くか」
解は立ち上がる。
解の膝から閉じた本がポトリ。
題名は『勇者英雄伝説の光と影』著者、セイレーン。
「師匠、それ帝都トキオ剣術魔法学園の本じゃないですか。貸出禁止のラベルついてますよ」
永久の顔は引きつる。
「ああ、これな。永久、アラン・グラント学長には内緒だぞ」
ジジー。
解は無限収納ファスナーのつまみを引き、時空の狭間へその本を投げ入れた。




