06-09 達人の刹那
顔面突き!
袈裟斬り、すくい上げ、同はらい!
心臓突き!
足払い、水平斬り、小手!
空気の揺れ一つない流れる様な、短髪頭の武道着姿の男、闘の刀裁き。
その静かなる猛攻の全てを紙一重、剃刀一重の間合いでさばききってなお、重心が全くぶれない解。
木の床のつなぎ目の段差一つが、衣服のつなぎ目の引きつり一つが命取りになるような危うさ。
カッコーン。
二人の床を蹴る音と鹿威しの音だけ、武道場内に鳴り響く。
「ほう、ここまでの心得があるか」
間合いを外して飛びのく闘。
「貴公、誰に習った。それとも、それも我流か?」
「……。どうかな」
解は下段に鬼神解を構える。
対する闘は上段に構えて対峙する。
睨みあう二人。制止する時間。
カッコーン。
鹿威しの音と共に闘の足が木床を蹴る。
ビューン。
まるで妖刀鬼神闘が伸びたかのように錯覚するほどの振り下ろし。
柄を持つ左手の僅かな力加減で太刀筋を変えられる変幻自在の一振り。
ガキン!!
飛び散る火花。
解は初めて妖刀鬼神闘を妖刀鬼神解で受けた。
すかさず飛び出す解の回し蹴りが闘の膝を狙う。
闘はバックステップでたやすくそれを躱す。
それを追って繰り出される解の妖刀鬼神解の猛攻は残像を残してすべて躱される。
瞬きを忘れ、息をのむA級冒険者で構成された解のパーティーメンバー。
互いに闘気を内に秘めた戦い方は、演舞と言うより一撃必殺の技の応酬。
派手さも、目くらましも、剣筋の切り替えさえ隙になってしまうような達人の刹那。
カッコーン。
鹿威しの合図と共に二人は加速する。
A級冒険者で構成された解のパーティーメンバーの誰一人として目で追うことのできない瞬殺の攻防。
闘と解の姿は闘気で膨らみ、筋肉は盛り上がり、目じりは吊り上がる。
内に貯めた闘気が同時に爆ぜる。
ドーン!
ぶつかり合う闘気が爆音を発して空気をビリビリと震わす。
静から動へ!二人の戦いは変化する。
互いの剣先が空気を刻む。
空間ごと相手を切り伏せる闘気の刃が床や木壁を削る。
人狼ガルムがその激しさに後ずさって転ぶ。
意識を取られた、その一瞬の隙をついて妖刀鬼神闘の剣先が解の左肩先に食い込む。
ニヤリと笑う短髪頭の武道着姿の男、闘。
「っ……」
解の肩の筋肉が妖刀鬼神闘の剣先をがっちりと抑え込んで、引くことも押すこともできない。
ズサッ!
解の妖刀鬼神解が横に閃き、闘の体を上下に両断。
「負けたか……。筋肉が伸びきって硬さを失った瞬間を狙うとはな……」
崩れ落ちる闘。
「悪いな。俺の探求は武だけに留まらないんでね」
闘の体は光の粒となって妖刀鬼神闘へと吸い込まれていく。
ゴトリ。
冷たい武道場の木床に落ちて転がる妖刀鬼神闘。
「解さん……」
マユが立ち尽くす解の元に走り抱きつく。白く発光する手を肩の傷口にそっと当てて癒す。
「ちょっと、マユちゃん!くっつきすぎだよ」
永久が吠えた。
解とマユの顔はみるみる赤くなる。
人狼ガルムと鬼女ベニ、ドラキュラ伯爵の三人は顔を逸らして苦笑い。
カッコーン。
鹿威しの音だけが静寂を破る。
こうして、六振りの妖刀の内、五本が解の元に揃った。
未攻略の最後のダンジョンは火の街、城塞都市コーフ(現世気相:山梨)。
ダンジョンの通称は『奈落』。
謎の男、如月創へと一歩ずつ近づく解とそのパーティーメンバー。
新たな一歩を踏み出した。
「マユちゃん!師匠のケガ、もう直っているよね。いつまでくっついてんの?」
納得いかない永久。
「ふわー、なんでだろね」
マユは解の左手をギュッと引き寄せる。
「あぁー、ああー。もう」
永久は解の空いている右手に飛びついた。




