06-04 ありがとう。またよろしく
港町ヨーコのダンジョンの七階層、八階層、九階層はブチ抜きの巨大なプールの様相を呈していた。
百メートル級の巨大な青いクジラのような魔物が悠々と尾びれを振って回遊し、外周を螺旋階段のようにダンジョンが続く。
三階層分の魔物が数百匹一斉に攻撃できる態勢である。
「ヤバいな、これ。囲まれたらひとたまりもない」
先陣を切る人狼ガルムは螺旋階段から下を除く。
「そうね。洞窟型なら各個撃破できるけど、剣士タイプの冒険者にはちょっときついわ」
鬼女ベニは美しい顔を歪ませる。
「師匠、底に海賊船がありますね。金銀財宝が山積みとか」
「まあ、行ってみればわかるさ」
「解さん。パーティーの配置を変えるか?」
ドラキュラ伯爵は魔眼カメラの入った工具セットを持ち上げて示す。
「はあっー。凄くきれいですね」
マユは相変わらずである。
ピッシャー。
クジラ型の魔物が解たちのパーティーに向かって潮を吹いた。
突然の洪水に見舞われたようなとんでもない水量。このままいけば全員が足を取られ、濁流に飲まれて吹き飛ぶのは必至。
「っ……。創気神 一柱建立、凪」
解が丹田に力を込めると、足元に六芒星が浮かび上がり「凪」の文字が光る。
その文字から黒い光の柱が立ち上がり、消えた後に漆黒のワンピースを纏った前髪パッツンの女児。
黒いベールが解たちのパーティを包み込むように広がる。
巨大クジラ魔物の噴いた荒れ狂う水流が、黒いベールの内側で制止する。
「「「「っ……」」」」
「かっ、解さん。なんか人が出てきましたけど!」
鬼女ベニは口をあんぐり。
「真っ黒なワンピースの女の子!?」
人狼ガルムは呆然。
「ふわー、可愛い女の子です」
マユは目をキラキラ。
「眷属?使い魔?式神?」
ドラキュラ伯爵は仰天。
「あっ、紹介してなかったな。我流六気操術の六気神の一柱、解気神、凪だ。彼女が空間のすべての運動エネルギーを奪った」
漆黒のワンピースを纏った前髪パッツンの女児はテト、テトと歩いて振り向いてにかッと笑ってVサイン。
「わっ、凪ちゃんだ!また会えたね!グフフ、V」
永久は解気神、凪に向かってVサイン。
「このまま、凪に先導してもらってダンジョンを進むか」
凪はコクコクと頷き、螺旋のダンジョンの道をテト、テトと歩き始める。
飛び込んでくる魚型の魔物も、甲殻類型の魔物も凪を中心としたドーム状の空間に突き刺さると時間が止まったかのように制止する。
ズサッ、ポト。ズサッ、ポト。ズサッ、ポト。
解は止まった魔物を一刀両断。魔物は魔石になって落ちる。
「師匠、これもう。草刈りと変わんないですね」
「おい、凪の歩くスビードに合わせて歩かないと彼女のフィールドに入って運動エネルギーを奪われて動けなくなるぞ」
「「「っ……」」」
人狼ガルムと鬼女ベニ、ドラキュラ伯爵の三人は恐る恐る凪の後に続く。
「なんだよあれ。C級魔物の群れもかたなしだな」
「そうね……。一斉に襲ってきて、囲まれたから狩りたい放題とか、もう、一網打尽……」
人狼ガルムと鬼女ベニはひそひそ話。
「師匠、なんかクジラさん怒って無茶苦茶、潮噴いてますけど」
クジラ型巨大魔物は狂ったように潮を噴くが、全て凪を中心としたドーム状の空間に止められる。
クジラ型巨大魔物、激おこ!最後の手段、大質量を活かした体当たり攻撃。
ほわりん。
クジラ魔物の鼻先が凪のドーム状の空間に突き刺さって停止。
「ドラキュラ伯爵、魔眼カメラいくつかくれないか」
解はドラキュラ伯爵から魔眼カメラを受け取り、止まったクジラ魔物の鼻先を目掛けて、
ズブリ!
と突き刺す。
「いいね、迫力の映像が撮れそうだ。こいつは生かしておこう。ドラキュラ伯爵、眷属化できるか?」
「っ……。まあ、できなくもないが……。まあ、素直そうだし。頑張ってみるけど」
ドラキュラ伯爵、スタスタと歩いてクジラ魔物の鼻先をカプリ。
巨大飛行艇型魔眼カメラの誕生である。
その間に群がる三フロア分の魚型の魔物と甲殻類型の魔物を永久が月花丸(三日月剣)で収穫。
マユの持つ無限収納袋はアーモンド大のC級魔石でキラキラとなっている。
「そろそろ、運動エネルギーの採りすぎで凪のお腹が限界だな」
「ゲフ」
お腹ポッコリの漆黒のワンピースを纏った前髪パッツンの女児は可愛くゲップ。
「凪、そろそろ帰るか?」
解は前髪パッツンの女児の頭をナデナデ。
「凪、ありがとう。またよろしく」
凪はテトテトと歩き、解の作り出した六芒星の中へと帰っていった。




