06-03 次も生き残るぞ
巨大なダンジョンフロアを尾を振りながら宙に浮かんで悠々と泳ぐフライング・シャーク。
白い歯茎をむき出しにしてノコギリ状に並んだ歯を見せながら大きく開く。
人間はおろか牛や馬でさえ丸のみにするほどの巨大である。
うりゃー!
人狼の耳をピンと立て、尻尾でバランスを取りながら戦闘狂と化した人狼ガルムは妖刀『鬼神邪』を引き抜き何度も切りかかる。
ガキン!ガキン!ガキン!
しかし、巨大な歯は刀の刃をたやすく防ぐ。前方から見るとまるで口の魔獣と戦っているようだ。
少しでも気を許せば、頭から食われかねない。
人狼ガルムを囮に、鬼女ベニは砂を蹴ってフライング・シャークの横手に回り、妖刀『鬼神瘴』で尾びれを斬りつける。
バシッ!
フライング・シャークは巨大な尾びれを振って鬼女ベニの体を打ち払おうとする。
触れただけで皮膚を持っていかれるような、やすりのような固いサメ肌が妖刀『鬼神瘴』を弾く。
「っ……」
鬼女ベニに気を取られ、彼女に追い打ちをかけるために体を弓なりにするフライング・シャーク。
その一瞬見えたこぶし大のフライング・シャークの瞳に人狼ガルムは『鬼神邪』を突き立てる。
ズブリ!
剣先が眼球の中に突き刺さり、苦痛に暴れるフライング・シャークが腹を見せた瞬間、鬼女ベニがやわらかい腹部の皮膚を切り裂く。
城塞都市ヨーコの冒険者ギルドより中ボスの弱点は入手済みである。
ズザッー。
フライング・シャークの体は腹の傷口からみるみる腐り果てて骨が崩れ落ちる。
「師匠、初見の魔物でも連携して倒せましたね」
「ああ、無駄な動きもなく、いい戦いだと思うよ」
解と永久は二人の成長ぶりに感心して顔を見合わせて頷く。
人狼ガルムと鬼女ベニはグータッチで勝利を祝う。
砂に落ちた小石大のB級魔物の魔石はそれ一つで金貨百枚。並みの冒険者なら、数ヵ月は遊んで暮らせる金額である。
さて、いよいよ七階層。ここから下は城塞都市ヨーコのA級冒険者でもめったに足を踏み入れられない地。
「師匠、ヨーコの冒険者は中ボスを倒した後、七階層止まりなのはなぜですかね?」
「ああ、ここまで来るのにだいぶ疲弊して、先に進むメリットと戻れなくなる危険を天秤にかけて引き返しているらしい」
「そうですよね。せっかく中ボス倒して、しばらく遊べる魔石を手に入れて、死んじゃったじゃつまらないですよね」
「そうだな。なあ、永久。この異界のダンジョンって何のためにあると思う?呼吸ができたり、魔物が魔石を落としたり、あまりに人間に都合が良すぎないか」
「そうですね。ラノベもアニメも、ゲームも、その辺はテンプレで処理してますからねー」
「羽が無くても空を飛ぶサメがいるなら、飼いならせば空飛ぶ乗り物にしたりできるし……、そもそも物理法則が成り立っていない」
「難しいことはわかりませんね。ただ、魔法を含めて陰陽道も物理法則は結構無視ですからね。師匠の我流六気操術なてもはやチート級の掟破り。グフフ」
「物理法則や化学法則も案外、俺たちがそう思い込んでるだけかもな……」
「師匠、世界は広いんですよ。地球が丸いなんて知らなくても平安時代は普通に生きてましたし、チョコは美味いんですよ。てことで、休憩しましょうよ」
ジジー。
解は無限収納ファスナーを引いて時空の狭間の部屋にストックしてある超高級チョコレートを取り出して皆に分ける。
「うわっ……。師匠!これ、この賞味期限の日付!?」
永久はチョコレートのパッケージに記された数字を示して解に耳打ちする。
「っ……。永久、皆には内緒だぞ」
「師匠、通りで無限にチョコが湧いて出るわけですね」
「ああ、まあ、そう言うことだ」
「師匠、このダンジョンの大ボス部屋に如月創の影はいるんですかね」
「ダンジョンアタック自体は城塞都市ヨーコのギルド依頼だが、まあ、いるな。気相が告げている」
解はニヤリと笑う。
「師匠、この旅が終わったら師匠は現世に帰るんですか?」
永久は少しばかり寂しそう。
「ああ、関東大震災は予兆でしかない。それを防いでもほっとけば日本は滅ぶからな」
「そうですか。日本の内閣総理大臣、冨士岡洋はそれを知った上で各国の要人を東京湾の地下空洞に集め、陰陽師千人を使ったんですね」
「そう言うことだ。まあ、薄々感づいてましたけど……。私は師匠と異世界スローライフを望みます!でへへ」
解は美味しそうにチョコを頬張るマユの方をチラ見して答える。
「そうだな。次も生き残るぞ」
「そうですね。生きて、師匠のチョコを貰います」
「よし、魔眼カメラ設置完了したぜ」
ドラキュラ伯爵がふぅと額の汗を拭う。
横にいたマユはすかさずタオルを渡し、解はチョコを投げ渡す。
こうしてA級冒険者で構成された異色のチートパーティーは七階層への階段を下った。




