05-17 くっ……、マゾかよ
プライド、ズタズタ。圧倒的強者の崇高な演出が、まるで三流コメディ。
「くそっ、くそっ、くそっ」
歌舞伎男、妖は何度も足で床を叩くが、ゴブリン楽団の音響効果を失ったその様は単なる地団駄にしか見えない。
そんな子供じみた残念な男に向かって、九尾永久は走る。
「借りるよ」
スチャ!!
「おうっ?」
人狼ガルムの持つ『鬼神邪』が永久の右手に!
『鬼神邪』、それは触れたものを戦闘狂にする妖刀。
城塞都市サーイのダンジョンの最下層で、ピエロ男・邪の『怨嗟』が宿った一振り。
「あれっ?」
鬼女ベニの持つ『鬼神瘴』が永久の左手に!
『鬼神瘴』、それは触れるだけで全てを腐らせる妖刀。
城塞都市チーバのダンジョンの最下層で、黒ローブの男・瘴の『怨嗟』が宿った一振り。
一瞬、永久の腕が影のように伸びたように見えた。
「「っ……。鬼爪」」
「室町時代の酒呑童子にその技、教えたの私だからね」
平安時代、鎌倉時代、南北朝時代、室町時代、安土桃山時代、江戸時代、明治時代、大正時代、現代と永久の生きてきた時代は長い。
酒呑童子が歴史に登場するのは室町時代以降。妖怪としては桁違いに先輩なのである。
永久は刀を水平に持ち、それを軸にクルッと回る。
「全式神、緊急召喚!変化、属性ビーム砲」
その瞬間、一本の尻尾を残した八本の尻尾が射出され、歌舞伎男 妖を取り囲むように飛翔する。
「包囲飽和攻撃!」
木属性式神、蝶花が放つ毒霧ビームが、
土属性式神、豊花が放つ炸薬ビームが、
水属性式神、翡花が放つ高圧水ビームが、
金属性式神、月花が放つ水銀ビームが、
火属性式神、焔花が放つ獄炎ビームが、
雷属性式神、雷花が放つ電撃ビームが、
風属性式神、風花が放つ真空ビームが、
氷属性式神、雪花が放つ冷凍ビームが、
縦横無尽に歌舞伎男 妖の体を突き抜ける。
もうこれでもというくらいのめった刺しビーム。
「あんなA級……いるかよ」
人狼ガルムは口あんぐり。
「チートすぎて笑えない……」
鬼女ベニは眼球半飛び出し。
「あっちゃー、戦わなくて良かったな」
ドラキュラ伯爵は竜女、ラフレシアドラゴンの頭をナデナデ。
「ほわっー」
マユは目をパチクリ。
「お狸神……!?」
聖女アンナ・マレッサは両手を合わせて祈りのポーズ。
「聖女様、あのー。一応、あんな丸顔でも『お狐』だそうです」
解は頭を抱える。
それにしてもあの攻撃スタイル……。永久の奴、ロボットアニメも沼ってたか……!同じオタクとしては負けられない。
と、言うのが解の心の声。
プシュー。全てのビーム攻撃が止んだ。
毒で溶けた穴、爆発して吹き飛んだ穴、切り口がシャープな穴、どろりと血が流れる穴、燃え盛る穴、火花を散らす穴、内側に引き込まれたような穴、凍りつく穴。
穴、穴、穴、穴、穴、穴、穴、穴!
ズタボロハチの巣状態の歌舞伎男 妖は倒れない。
「トドメ!」
永久は空中回転して『鬼神邪』と『鬼神瘴』を同時にふるう。
ガキン!
歌舞伎男 妖は永久の全力の二振りを、一刀で受けて初めて永久の顔を見詰めてニヤリ。
「問われて名乗るもおこがましいが、我が佩刀の名は妖刀『鬼神妖』六 振の一つ、肉体に受けた痛みを無効化するモノなり」
妖の類は再生能力も高く、現世の妖気が集合して実体化した半精神体の者が多い。
妖気の拡散を防ぐために肉体に宿ることが常だが、ドラキュラ伯爵のように、一時的なら複数の蝙蝠などに体を分割するような事例もある。
半精神体の『神』に近しい存在だが、肉体がある以上、痛みを感じる。痛みは思考や行動を疎外し、急所を狙われる危険を孕む。
痛みを無効化はシンプルだが、それゆえに厄介な能力と言える。
「くっ……、マゾかよ。痛みは無効化できても……、弱点はあるんだろ?」
永久は後ろに跳ね飛んで二刀を構える。
「さあ、再開しようか。九尾永久」
如月創の影、歌舞伎男、妖と千年妖怪、九尾永久は歌舞伎座のような舞台の上で睨みあう。




