05-16 吸血族の方がずっと洗練されている
「あれっ?行かないのか?」
解は人狼ガルム、鬼女ベニの背中を押す。
プルブルブル。
膝がガクガクの二人。気持ちがあっても、野生の本能が踏み出すことを拒否しているようだ。
「師匠、いくら何でもムチャぶりが過ぎますよ」
永久は苦笑い。
「しょうがないな。出番ですよ。お願いします」
解は横を向き何もない空間にお辞儀をする。
タン、タン、タン、タン。ダン、ダ、ダン!
何もない場所から床を足で叩く音。
「問われて名乗るもおこがましいが、我が名はアンナ、帝都トキオの聖女が一人、アンナ・マレッサとは妾なり」
タン、タン、タン、タン。ダン、ダ、ダン!
フード付き妖学迷彩マントを持ち上げた聖女アンナ・マレッサ様が眼をカッと見開き、首をかくかくしながら見得を切る。
「別に問ってないけどな」
解は残念な人を見る目で頷く。
「ふわー。お師匠様だ。カッコいいでーす」
マユが驚きで目を見張る。
「なっ、何で聖女様がここに!?」
「ああ、お忍びでダンジョンの冒険がしてみたいって言うから、帝都トキオを出るとき無限収納ファスナー『時空の狭間』の俺の部屋に隠れてもらった」
「っ……。解さん、ボス部屋の入り口前で無限収納ファスナー引いてゴソゴソ出入りしていたのは……トイレ……」
鬼女ベニは騙されたと思った。この人、仲間でも平気で騙せる危険人物だと今頃になって気づく。
「師匠、じゃ……。えっ、じゃマユちゃんと!そうなの?私てっきり、師匠はヘタレだからミートのホテル・フロンティア部屋でファスナー部屋に一人で引きこもったかと……」
永久はあからさまに動揺する。九本の尻尾がプルプルと小刻みに震えている。
「聖女がいる部屋には入れないだろ。アンナ・マレッサ様、鬼村では、マユの看病ありがとうございます」
解は苦笑いしながらネタ晴らし。
「……」
永久はマユの顔を見上げる。
「くっ。真っ赤」
意味不明すぎる突然の聖女の登場で舞台の上の歌舞伎男 妖はフリーズ。傀儡にしたダンジョン主ラフレシアドラゴンに指示を出すのを忘れる始末。
「それより、聖女、よろしくお願いします」
聖女アンナ・マレッサは両手を合わせて高く上げる。
「神の御霊よ、光となりて彼らを救い給え。『浄化』」
回復師の最上位魔法が水平な光の輪となって衝撃波を伴いながら広がり走る。
ラフレシアドラゴンの額の巨大な魔角がポトリ。
グ、ガガガガ。
舞台の上の歌舞伎男 妖の方を睨みつけている。余程、傀儡にされたのが気に入らなかったのだろう。
まあ、ダンジョンボスのプライドズタズタだからなぁー。と解は思う。
パタ、パタ、パタ。
ボワッ!
ラフレシアドラゴンの後ろに回る一匹の蝙蝠。ドラキュラ伯爵は人型に戻ると巨大なラフレシアドラゴンの首にカプリ!
ドラゴンの体はみるみる縮み、人型へと変化する。花で全身をあしらった美しい竜女に!!
「魔蟲なんて野暮なもの使って無理やり支配しなくても、眷属化の歴史は長い。吸血族の方がずっと洗練されているからな」
ドラキュラ伯爵はマントを翻して、花の竜女の細い腰に手を添えて牙をチラリ。
「なんて麗しいお方。ご主人様とお呼びしても……」
ポッと顔を赤くする花の竜女。
「もちろんだとも。私は美しい女性は何時だってウエルカムさ」
見つめ合うドラキュラ伯爵と竜女。
「「「「「っ……」」」」」
この展開には流石に舞台上の歌舞伎男 妖も解、聖女、人狼、鬼女も声が出ない。
ついでに、歌舞伎男 妖の後ろで楽器を担当していたゴブリンたちの魔角もポトリ。
蜘蛛の子を散らしたように逃げ消えるゴブリンたち。
効果音が消えて静寂が広がる中、永久だけが一人俯いて、ぶつぶつと小声でつぶやく。
「師匠が……、マユちゃんと……。一つの部屋で……。ヘタレのクセに……。なんてこった」
永久の耳がピーン、九本の尻尾がクジャクのように広がる。
「師匠、何か知りませんが無茶苦茶ムシャクシャするんですけど。師匠、如月創に能力バレするの控えたいですよね。ポンコツボスは私が全力で相手していいですか?」
こうしてダンジョン最終戦は開始されるのだった。




