05-15 解はダンジョンボスの前でズッコケた
ボス部屋は、宇宙船スタイルから一転、まるで歌舞伎座のような純和風空間だった。
「「「「「「っ……」」」」」」
場違いな場所に飛び出したパーティーメンバー六人は呆気にとられる。
派手な歌舞伎衣装を身にまとい、白地に赤と黒の隈取を施した鬼が三味線と和太鼓に合わせて踊っている。
「師匠、何ですかねこれ?」
「さあ、さっぱりわからんな」
永久と解は首をかしげる。
「テレビで見たことある感じね」
「そうだな。で、何なんだこれ」
人狼ガルムと鬼女ベニはポカンとする。
「江戸の歌舞伎座行きたかったんだよなー」
ドラキュラ伯爵は現世の思い出に浸る。
「ふぅわー、変な鬼?」
マユは目をパチクリ。
タン、タン、タン、タン。ダン、ダ、ダン!
歌舞伎男は木の床を足で叩きながら舞台の前へとにじり寄る。
「問われて名乗るもおこがましいが、我が名は妖如月創の影が一人、酒呑童子別名、茨木童子なり」
タン、タン、タン、タン。ダン、ダ、ダン!
眼をカッと見開き、首をかくかくしながら見得を切る。
「別に問ってないけどな」
「ラスボス、かなりのポンコツですね」
解と永久は頷く。
「くっ……。これだから無教養の冒険者は嫌いなんだよ!まあ、いいや。せっかく準備したんだから楽しんでもらわなきゃ」
シラケ顔の歌舞伎男がポンと手を叩くと、舞台の両サイドに設置された六枚の巨大なディスプレーが点灯する。
暗闇の中で鬼角型の寄生魔蟲を頭につけた無数のチンピラたちが麻薬患者のようによだれを垂らしている。
彼らが持つ大きな袋がゴニョゴニョと蠢いている。
「クックックック。これが分かるかい。フハハハハ。帝都トキオと五つの城塞都市の地下施設だよ」
歌舞伎男の声に合わせて三味線や太鼓が鳴る。
「さあどうする。あの袋の中には千を超える魔蟲を詰めてある。これを街中にばら撒けば全てが我が奴隷。お前ら個人がどれだけ強くても止めようがない。さあ、我と共に地獄と化す街を楽しもう。ククククク」
歌舞伎男は口を押えてあざ笑う。
「いいディスプレーだ。サーイの街で手に入れた魔眼カメラにつなぐなんて賢いな。貰っていいか?」
解はニヤリと笑って返す。
「くっ……。状況が理解できていないのか」
歌舞伎男は解の顔を見て残念そうな顔をする。
「理解できていないのはそっちだろ。あの魔眼カメラは開発したばかりで高いんだよ。そんなものをポンポンと大金をはたいて大量に買いあさる奴がいたら普通調べるだろ」
解はちょっと得意げ。
「ぬぐっ……。だとしても、もう手遅れだ」
「そうかな。街のチンピラが集まる場所なんて裏社会を牛耳る親分たちにバレバレだと思うがね」
バン!バン!バン!バン!バン!バン!
六つの巨大ディスプレーの中に映る部屋のドアがそれぞれ蹴破られる。なだれ込む極道者たち。驚愕する魔角チンピラ。
白いローブを纏った回復師が極道者たちに守られながら扉の無くなった入り口を潜り、両手を合わせて高く上げる。
「「「「「「神の御霊よ、光となりて彼らを救い給え。『浄化』」」」」」」
六つの巨大ディスプレーはホワイトアウトした。
「フフフ、聖女アンナ・マレッサ様の弟子たちです。無理言って各都市に派遣してもらいました」
マユはちょっと得意げ。
各部屋の光が収まると、巨大ディスプレーの中では各城塞都市の親分たちが右手でサムズアップ。
もちろん帝都トキオの巨大ディスプレーには和服姿の桜龍会女親分サキがモニターいっぱいでニンマリ笑って右手でVサイン。
「かっ顔、でっか。って、それより師匠。親分たちの左手……」
永久はニンマリ。
「っ……。請求書!?」
解はダンジョンボス、歌舞伎男の前でズッコケた。
「なっ、ならば貴様らを魔蟲で支配するまでよ!そこの回復師役が『浄化』を使えないのは、お前らの会話を魔眼カメラでチェック済みだからな」
バン!
歌舞伎男が足で舞台を叩く。
バシッ!
観客席の照明が一斉に灯る。浮かび上がってきたのは巨大な魔角に支配されたS級魔物。
木の街、城塞都市ミートの本来のダンジョン主、ラフレシアドラゴン。
毒々しい多肉質の大形の花びらを首に生やしたエリマキトカゲを巨大化したような植物竜。
単に竜としての強さだけでなく、尻尾から枝分かれした触手は強力な鞭となり、先端には毒針。
口からは腐臭ガスを吐き、鱗は鉄の剣やA級攻撃魔法では傷一つつかない。
そんな化け物中の化け物が魔蟲で強化された、正にクイーン・オブ・化け物だった。




