01-06 蹂躙って……イメージ違います
粗末な和服を着た村の女性に連れられて、村長宅から出てくるウエディングドレス姿の永久。
「っ……」
解は一瞬、見とれてしまって言葉を失う。
顔を赤らめながら向かい合い、真っすぐ解の瞳を見つめる永久。
「師匠……、今なら花嫁を奪って逃げれますよ」
「はあっ。なんでさ」
「こんな美人のドレス姿をみたら師匠だってほっとけないでしょ」
「なんでウエディングドレスなんだ。白無垢、文金高島田に角隠しじゃないと『狐の嫁入り』らしくないぞ」
「えぇー、どうせ私は狐ですとも。半妖怪のお狐様ですよーだ」
「まあ、まあ。そう怒るなよ。コホン、コホン。えっ、と、まあ。似合ってるよ」
顔を赤くして目を逸らしうつむく解を見て「ウブ可愛い」と思う永久だった。
花嫁衣裳の永久を神輿に乗せて村人総出で鳥居をくぐり、いざ蜘蛛神神社へ。
「師匠、直ぐにつかまって人質になりそうな村人をこんなに連れて大丈夫なんですか。それに私が本気出したら巻き添えで全員死亡なんてことも……」
「気にするな。俺が結界を張って全員を守るから問題なし」
解はのほほんと笑顔で答えて続ける。永久はこう言う奴ほど、いざとなったら何もしないんじゃないかといぶかしむ。
「村人によっては娘を差し出した親や兄弟、反抗して戦って死んだ者の家族。恨みを持つものだって多い。恨みは『邪気』を生み、いずれ災いとなる」
「師匠、御免なさい。てっきり陰で観戦チケットを村人に売りさばいているのかと思ってました」
急に真面目な話をする解に、永久は自分が恥ずかしくなって自ら告白して謝る。
「くっ……。その手があったか。魔物は死ぬと魔石になって死体も残らないらしいから、グロなし、始末の手間なしのエンターテイメントだ。娯楽がなさそうなこっちの世界には持って来い。街に着いたら一儲けできるかな?」
「……」
言うんじゃなかったと神輿の上で、師匠はこんなやつって思い出して反省する永久だった。
社と言うにはあまりにちっちゃい祠の前に到着して神輿をおろして逃げ去る村人。
解は村人に見えないように、木々の下草の影に潜み我流六気操術を発動する。
「妖気神、一柱建立、化」
解が丹田に力を込めると、足元に六芒星が浮かび上がり「妖」の文字があやしく光る。
その文字から月夜の桜の着物を纏ったショートカットの女児が現る。
彼女が手にもつ三味線をバチで叩くと、吹き上がる『妖気』が透明なベール状の結界となって村人たちを包み込む。
「さてと、これで良し」
解は茂みから出て事の成り行きを見守る。
シュル、シュル、シュル。
社のご神木である杉の巨木の枝から五メートルはあろうかと言う真っ黒な蜘蛛が下りてくる。
「ほほう。今年の嫁は例年に増して美しい」
逆さになって言い放ったかとおもったら、地上に降りて人型になる。黒の平安装束をピシッと決めたイケメン男子。
ヤッター!メッチャやる気でるじゃん。二枚目で高慢な奴をいびるのってテンション上がるんだよね。正直、蜘蛛とか触るのもきもいし。
パシーン。
挨拶もなくいきなり永久の張り手が男の頬に飛ぶ。
「「「っ……」」」
安っぽいメロドラマみたいな展開に村人たちはこぞって息をのむ。
が、相手は腐ってもS級魔物、ピクリとも動じない。
「いきがいいな。嫌いじゃないぞ」
男の背中から各二本、元あった腕と合わせて六つの手が自分を平手打ちした永久の右手をつかむ。
「式神、氷属性・雪花召喚。変化、虫スプレー」
永久の頭に狐耳が飛び出し、お尻には九本の尻尾。
その一本が蜘蛛退治用に売られているホームセンターのスプレー缶に変わって永久の左手に。
シュ、シュ、シュー。
蜘蛛男の体に向かってふり掛ける。
「どうだ。コチンコチンで動けんだろ。凍らして虫を撃退する日本らしい製品からヒントを得た永久特製兵器だよ」
蜘蛛男の六本のゲジゲシの腕は固く凍る。
「やっぱ、キモイわ。これ」
コン。
永久がスプレー缶のお尻で叩くと、小気味いい音と共に崩れ去る。
腕をなくし、体が凍って動けないイケメン顔を輪郭が分からなくなるくらいに、上下左右の連続タコ殴り。
ダダダダダダダダダダダダダダダダ……。
永久のとんでも蹂躙に村人男子こぞってドン引き。
「くくっ。なんだ。やっぱり、ブ男じゃん」
「なめやがって。この女狐が。ぐぉぉぉぉぉ」
蜘蛛男は人型を捨て巨大な蜘蛛に変身。桁違いの妖気が集まり、失った腕もすっかり元通り。
お尻を足の間から前に向けると永久に向けて鋼鉄の矢のような勢いで蜘蛛の糸を飛ばす。
永久はヒラリ、ヒラリと最小限の動きでそれを交わす。
村人たちの歓声が永久の耳に心地いい。
「バカが。かわされるのは計算済みよ。千年妖狐、九尾永久」
「どうして私の名を……」
「敵を知るのは戦略の基本。日本の陰陽師でソコソコだったのはお前くらいだ。よりによってへなちょこ陰陽師に異界追放されるとは思わなかったけどな」
土蜘蛛が足を使って尻の糸を引く。
「ほれ。これが見えないか」
「あ、れ、れぇー」
永久の後ろから唯一、結界の外にいる師匠こと天乃解の棒読みのセリフ。
蜘蛛の糸にグルグル巻きにされた解がご神木に引き上げられ、ミノムシみたいにブラーン、ブラーン。
「っ……。師匠、何やってんですか」
「見ての通り、高みの見物」
逆さ吊りになった解はニコッとほほ笑む。
「師匠……」
永久はガクッと首をうなだれる。
「俺の糸は、鉄の鎧すらバラバラに刻むことができる。さらに絞りつぶすこともできる。どっちがいい?」
土蜘蛛はゆっくりと糸を操る。
「くははは。守るものがあるってのは、不便だなぁ……って、あれ、ぴくりともしない」
「師匠にそんなチンケな技が効くわけないだろ」
シュ、シュ、シュー。シュ、シュ、シュー。
シュ、シュ、シュー。シュ、シュ、シュー。
シュ、シュ、シュー。シュ、シュ、シュー。
シュ、シュ、シュー。シュ、シュ、シュー。
ちょこまかと土蜘蛛の周りを超高で速走り回り、八本足を凍りつかせる。
「くっ、卑怯だぞ」
「どっちが。師匠から蹂躙せよって命を受けててね」
「式神、金属性・月花召喚。変化、月花丸」
永久の尻尾がまた一つとれて花びら型の三日月剣に変わる。
ニヤリと笑って足の付け根に月花丸を振り下ろす。
ズサッ。
「ぐわっ」
「ははは。根本は凍ってないから痛いだろ。再生するから永久に切り刻めるな。無限激痛だね」
ズサッ。
「ぐわっ、頼む」
「命乞いする花嫁を何人食らったんだ。これはその人たちの痛みの分」
ズサッ。
「ぐわっ、やめてくれ」
「今度は、その家族や友達の心の痛みの分」
ズサッ。
村人、ドン引きだったが怒り再燃。拳を握って応援。
「ついでに現世で食らった人々の分」
「ぐわっ、何でも言うことを聞くから」
ズサッ。
「ぐわっ、金もやる」
ズサッ。
「ぐわっ、女もやる」
ズサッ、ズサッ、ズサッ、ズサッ。
「女に女やってどうすんだ」
「ぐわっ、ぐわっ、ぐわっ、ぐわっ。あんまり胸が薄いからそっちかと……」
「師匠の命令だけと蹂躙やめ。ぶっ殺す!」
いつの間に降りてきたのか解が横に立つ。
「永久さん。やり過ぎだろ。あーあー、かわいそうに」
ずぶっ。
「ぐわっ!!!」
「グロっ。師匠、何やってんですか。土蜘蛛の目を引っこ抜くなんて……」
あー、師匠。ボッチ、オタクこじらして対妖魔サイコパスだった!?
「マグロの兜焼きとか、イセエビの生き作りとさして変わらないと思うが……。罪がない分、そっちの方が残酷だぞ」
「師匠……。食文化は色々あるんですよ」
「食事と言えば、永久、知っているか。土蜘蛛ってな、人間を糸でぐるぐる巻きにして、生きたまま口から溶解液を流し込んで、チューチュー吸って食べるんだそ」
くっ、師匠以上の天然サイコパス!土蜘蛛、同情の余地なし。
「師匠…、こいつ、現世で既に千人はチューチューしてましたから、このくらいの拷問は当然ですね」
しかし、解はその時すでに土蜘蛛、本体への興味を失っている。
「それよりだな。ほら、この目、実に面白い。抜き取っても生きてるぞ。そうだ、八個もあるから『気』の道で繋げば外敵監視カメラが作れるな」
もはや痛みで泡を吹いて気絶している土蜘蛛の目を順番に抜き取っていく鬼畜我流六気操師。
「師匠、再生してますよ」
「取り放題だな。永久、式神化は中止だ。監視カメラ作って村の産業にすれば儲かるぞ。金さえあれば護衛なんてどうにでもなるし」
この後、魔眼カメラなる魔道具が出回って「ダンジョン配信」と言う新しい娯楽が生まれるのだが、その話はいつの日かってことで。




