05-09 最上級ホテル・フロンティア
木の街、城塞都市ミートの最上級ホテル・フロンティア。
回転ドアがくるくると回り、貴族らしい着飾った男女が出入りしている。
解、永久、マユ、人狼ガルム、鬼女ベニがチェックインカウンターの受付相手にガヤガヤ、ワチャワチャと賑やかにしている。
五人を前にして長生きと言われるドワーフ族の貫禄をにじませた女支配人メリナ・アーキアは困惑していた。
最上階のペントハウスを予約した未成年集団、全員が冒険者ギルドA級のライセンス持ち。
しかし、問題はそこじゃない。
ダンジョンで高位魔物を倒せば、一回のクエストでにわか成金。若さに任せて豪遊なんてことはまれにあることだ。金さえ払ってもらえばドンちゃん騒ぎも問題ない。
女支配人メリナ・アーキアは、ホテル・フロンティアがまだ街宿だった頃の焦げた宿帳のページをこっそりとめくる。
八十年ほど前に突如として起きた魔族侵攻。世界は血に濡れ、各都市が焼け野原となった忌まわしい出来事。その時の記憶が今でも生々しい。
今はまだ誰一人気付いていないが、約八十年前の現世は第二次大戦。欲望や野望、失意や怨念。人類史上最も気相が荒れた時代の一つである。
あった。
勇者ソウと大聖女マユ……。突然、現れて大魔王プロトニを倒して世界を救って消えた伝説の英雄。しかし、人族なら百歳近い高齢のはず……。
「メリナ、行ってくるよ。必ず帰ってくるから心配しないで」
「メリナさん、大丈夫ですよ。世界は私たちのものですから」
そう言って旅立っていた二人を見送った宿は、ミートの森や街とともに焼け落ちた。
そんなはずはない、他人の空似。ドワーフ族から見れば人族の顔はのっぺりしていてみんな同じに見える。
女支配人メリナ・アーキアは焼け焦げた宿帳を静かに閉じた。涙から一粒、表紙を濡らす。
「どうしたのマユちゃん、ボーっとして。あのおばさん知っているの?行くよ。最上階のペントハウスだって、グフフフ。楽しみ過ぎる」
永久がマユに声をかけて、手を引く。マユは初めて会ったはずの女支配人にどこか懐かしさと温かさを感じて不思議に思った。
「そっ、そうですね。楽しみです」
チーン!
「師匠、エレベーターがありますよ」
「魔力で動かすのか。現世でも中世後期のヨーロッパにはすでにあったらしい……」
「師匠、その話、長引きます」
「っ……」
相変わらずの永久と解のにわか漫才。
「すごい!」
エレベーターどころか、高い建物さえ初めてのキビ村出身のマユは、設置されたガラス窓から見下ろす大通りが小さくなっていくのに目を見張った。
チーン!
「んんん?何で開かない。師匠、このエレベーター壊れてます!」
「部屋直結のペントハウスの場合、鍵を開けないと部屋には入れないんだよ」
解はフロントで預かったルームキーを回す。
プライベートルームの部屋数はちょうど五つ、ダブルベッドを備えたメインの寝室が一つとシングルベッドのゲストルームが四つ。
巨大なリビングダイニングを囲むように配置されている。もちろん全室バストイレ付。
「これなら、打ち合わせも問題ないな」
解は満足そうにダイニングテーブルを叩いてニッコリ。
パタ、パタ、パタ。
暖炉から現れる一匹の蝙蝠。
ボワッ。
イケおじ紳士風黒マントのドラキュラ伯爵が立っていた。
ドラキュラ伯爵を偵察に送り込んでいることは事前に人狼ガルム、鬼女ベニに伝えてあるので現世出身の二人はあまり驚かない。
「解さん、戻りました。ミートのダンジョンはやっぱり黒です。ちょっと探し疲れましたので詳細は明日にしましょう。ちゃんと寝ないとお肌があれますから」
パタン。
牙をチラ見せしてイケおじ紳士風黒マントはゲストルームのドアを開けて消えた。
残った部屋は四つ。
「あっ、こんな高級ホテル初めてだし、払ってもらって金の分、堪能しないとな。俺らもお先に失礼します」
パタン。パタン。
人狼ガルム、鬼女ベニが、それぞれゲストルームへと消える。
「「「っ……」」」
残ったのはダブルベッドを備えたメインの寝室が一つとシングルベッドのゲストルームが一つ!
「じゃ、俺はゲストルームで」
立ち去ろうとする解。
「グフフフ。お金を払った師匠がゲストなんて変ですよ」
永久は先回りして最後のゲストルームに飛び込み、ドアを閉めて内鍵をかける。
パタン。ガチャ。
ドアを背にして、唇を噛む永久。千年妖狐と人間じゃ敵いっこない。年老いた解の最後を、若いままの姿で見送る苦しさを想像するなんてできない。
「「っ……」」
顔を真っ赤にして立ち尽くすマユと解。
前世の孤児院で吉澤繭と一つの毛布を分け合って眠った幼き日の夜の思い出が解の頭を過ぎる。
大丈夫、昔はいつものことだった。正確には現世の吉澤繭とここにいるマユは同一人物ではないが、気相は同じ。
くっ……。なんか女性の甘い香りがするし。
「解さん。あの、その。私、端っこで寝ますので……」
マユは解の上着の裾を摘まんだ。




