05-07 いつも冷静な解ですら心が少し踊った
木の街、城塞都市ミート(現世気相:茨木)。植物系ダンジョンの魔石に支えられる街。
解、永久、マユの三人の帝都トキオの剣術魔法学園のアラン・グラント学長が事前に連絡していたらしくその計らいもあり、城門の通過は意外とスムーズだった。
人狼ガルムと鬼女ベニに至ってはミートのギルド証で、ほぼ顔パスである。それだけ亜人種の労働依存度が高いと言える。
「師匠、アラン学長との連絡が伝書鳩ってちょっとズッコケですね。魔法世界っていったらやっぱり梟じゃなきゃ」
現世から追放された人狼ガルムと鬼女ベニはクスクス笑う。
「師匠、私、空飛ぶ箒が欲しいです。宅配便とかボール追っかけるゲームがしたいです」
現世ネタが人狼ガルムと鬼女ベニに受けたことでちょっと調子に乗る永久。
沈んだ気持ちで生きても、楽しく生きても時間は過ぎていく。それなら楽しい方がいいに決まっている。永久の生き方の基本だ。
「空飛ぶ箒!?!?」
目が点のマユに、解に頼んで無限収納ファスナーから箒を出してもらって永久は説明する。
「箒の柄にまたがって、呪文を唱えると飛べるんだよ」
「まあっ。お尻が痛くなりそうですね」
マユは顔をしかめる。
「永久、箒の前後ろが逆だぞ」
「えっ、でも映画もアニメもボサボサが付いているのが後ろですよ。師匠」
「そっちの方がほうき星みたいで飛びそうだから、知らないうちに逆転したんだ。ちなみにほうき星の尾は太陽風に押し出されてるから進行方向とは関係なく……。うんぬんかんぬん……」
ぐっ……。また始まった。師匠のうんちくは長ったらしくて、その上、難解。
ゲッソリするので必要事項を勝手に類推してぶった切りにかかる永久。強引に話題を切り替える。
「師匠、それよりいっぱい亜人種の人たちが歩いていますね。ワニみたいな人、ちょっと可愛いし、バニーちゃんはちょっとエロいし、なんかもう東京チューチューランドの着ぐるみみたいです。場所は千葉だけど!」
ついに人狼ガルムと鬼女ベニは腹を抱えて爆笑。マユも意味が分からないが笑っている。
解はしゃべり足りなかったが諦める。永久は本当にいいムードメーカーだ。久しぶりに狐耳と九本の尻尾を出しているので気分が高揚しているのかもしれない。
「そうだな。永久の仲間もいるかもしれないぞ」
解は永久の頭を撫でる。
「妖狸はこの辺じゃあまり見ないな。なあベニ」
「そうね。ガルムの言う通り、妖狸は恥ずかしがり屋だからね」
くっ……。地雷踏んでるし。解は永久から一歩後ずさる。
「ぐっぐぐっ。あのですね。ガルムさんとベニさん!聞き捨てならないんですけど、私これでも妖狐なんだけど!」
ほほを膨らます永久の顔は丸くなって益々狸顔。
「「えっ!!」」
永久は拳をぐるんぐるん回して二人を追っかける。ほぼアニメのワンシーン。
「こういう時は『テンプレ』って言うんですよね」
フフフと笑うマユ。変な言葉が伝染している。困ったものだと思う解。
賑やかに城塞都市ミートの通りを進む五人。すっかり夜になったというのに人通りは多い。解は宿屋を探す。
帝都トキオの剣術魔法学園は全寮制だったので良かったが、五人で無限収納ファスナーの『時空の狭間』で過ごすのはさすがに不都合だ。
帝都で強欲商人ゴウにある程度こっちの通貨を融通してももらっているので心配ない。
何しろ衛生管理が中世ヨーロッパレベル。そこそこ高級なホテルじゃないと綺麗好きな解にはちょっとキツイ。それに亜人種連れだと差別されたりするかもしれない。
戻って来た人狼ガルムにそれとなく尋ねる。
「ガルム、ホテルか宿を取って拠点にしようと思うが、いいところを知らないか」
「……俺らミートの冒険者ギルドの上の宿屋にしか泊まったことないしなー。あそこは雑魚寝だし……」
人狼ガルムはマユの方を見て苦笑い。
「ふえっ?私、村暮らしでしたから全然大丈夫ですよ」
本人はOKでも、こんな美人を血の気の多いむさくるしい冒険者が集うギルドの宿屋に泊めたら恐ろしい争奪戦が始まるに決まっている……。
ガルムは、ちょっと解をうらやましく思うと共にマユの天然さに呆れる。
「解さん、そうですね。A級冒険者なら、個室を備えたそれなりのホテルがあります。ちょっとギルドにいって受付嬢に聞いてきます」
人狼ガルムはインカムを耳につけて風のように走って消えた。
残った四人はミートの街を見て回る。
「師匠、植物系ダンジョンの街だけあって薬屋が多いですね。マユちゃんの回復薬とかあるといいですね」
異世界観光は現世以上に刺激的。どんな驚きが待っているのか、いつも冷静な解ですら心が少し踊った。




