05-06 ボコったのか。あの村井のクズを……
永久も人狼族のガルムと鬼族のベニも一言も発しない。
「ちょっとそこで待ってな」
重い空気の中、解は森の茂みの陰に消える。
ジジー。
解は無限収納ファスナーを大きく開いて二台のウィンド・バイクを時空の狭間から引き出す。
「マユ、大丈夫か?一応、この部屋だけ時空の時間経過を八倍にしたからそこそこ眠れたかと思うが」
解のベッドで眠るマユを起こす。
「はい。創気はまだ戻っていませんが、ぐっすり休んだので気分はいいです」
「そうか。今日はマユに助けられたな。ありがとう」
「そんな。私の役割ですから。やっと役に立てる人になれた気がして……」
解はマユが眠っている間に起きたできごとを簡単に説明する。
「そうですか」
おおよそ、想像していたのだろう。マユは瞳を閉じて一言つぶやいた。
ジジー。
無限収納ファスナーを閉じて解はウィンド・バイクの元に永久と人狼のガルム、鬼女のベニの三人を呼ぶ。
「ガルム、お前、このウィンド・バイクやインカムを見てあんまり驚かないんだな」
「俺ら、あっちの世界から追放されたのが五年前だから……。こっちに来て同属の養父に拾われ、仲間の村で家族ができました」
人狼のガルムは鬼ベニを見る。
「俺ら?あっちの世界……?五年前。もしかして、現世の陰陽師式神養成妖魔施設に囚われていたのか」
「やっぱり知っているんですか。解さんもあっちの世界の人ですよね」
平安の世より陰陽師は妖魔を式神として使役する。
人狼族も鬼族も普段は人の姿で街に紛れ住む半妖怪。
人の遺伝子の中に太古から組み込まれている因子が妖気に触発されて覚醒し、一定の確率で定期的に生まれる。
その妖気を捉えて陰陽師は妖魔狩りをおこない、幼子は式神養成妖魔施設、老人など弱いものは抹殺、強すぎて倒せないものは異界へ追放する。
平安の世、安倍晴明の時代から現代まで連綿と続く陰陽師の影の歴史である。
蛇足だが妖魔に姿が覚醒しなくても異才を発揮する者は意外と多い。大リーグで活躍するスポーツ選手や芸能人、イリュージョニストなんかも少なからずその類のチート能力である。
人狼のガルム、鬼女のベニは二人そろって解に右の手の甲を見せる。
陰陽師の使う五芒星が浮かび上がり、その中心に『式』の文字。
「そうなんだ!じゃ、先輩だね。私もそこに、チョコッといたことあるよ。冨士岡って髭の政治家に自由にさせてもらったんだよ。そいつ今は日本の総理だけど」
永久が狐耳をぴくぴくさせる。
「誰の式神にさせられたんだ?」
「陰陽師頭領、村井健ってクズ」
人狼のガルムは下を向いて吐き捨てる。
「「っ……」」
解と永久は顔を見合わせて苦笑い。
「統領なのに妖力が弱すぎて、術式で俺らを押さえきれなかったから、ベニと二人でボコったら、手下の陰陽師達にこっちの世界に追放されました」
「ボコったのか。あの村井のクズを……」
解と永久は顔を見合わせて大笑い。キョトンとする人狼ガルムと鬼女ベニ。
「あのー、解さん。俺らも一緒に連れて行ってもらえませんか。俺ら、普段は城塞都市ミートの冒険者ギルドで二人パーティーを組んでます。二人ともA級剣士です」
「城塞都市ミートの冒険者ギルドには亜人種がいるのか?」
「ええ、兎人や竜人なんかも普通にいます。ミートのダンジョンは植物系魔物なんで魔獣と間違って冒険者通しの同士討ちとかならないんで城壁の周りに亜人種の村ができやすいんです」
「師匠、久しぶりのテンプレですね。じゃ、私も耳と尻尾はOKですね。グフフフ。一気にパワーアップです」
永久はいたずらっぽく笑う。マユはキビ村と帝都トキオくらいしか知らないから、聞く話すべてが新鮮だったので、ただ頷くばかり。
「そうか。助かる。ガルム、お前、ウィンド・バイクを運転してみるか?」
「えっ、良いんですか」
仲間を失ったガルムの顔に少しだけ笑顔が戻る。その男の子らしい目の輝きを見て闇落ちしないと安心する解。時間がかかるが心の傷は癒せなくもない。
「グフフフ、それじゃ、師匠のタンデムは永久の席ですね。で、ガルムさんのタンデムはベニさんですね」
腰を振りながら九本の尻尾を揺らし、変な踊りをする永久。
五人の間にほんの少し笑い合う日常が戻った。




