05-03 嫌な予感が膨らんでいく
回復師マユが瀕死の人狼を治療している。白く光り輝く両手から創気が注がれる。
傷の回復と共に狼だった姿が人へと変化していく。
「やっぱり人狼。近くに村がありそうだな」
解は森の奥を睨む。
「師匠、凄い血の匂いが森から漂ってます。おそらく村は壊滅していると思います」
「そうか。永久、つらい気持ちにさせてしまったな」
半妖怪の妖狐と人狼は東洋と西洋の違いはあるが狐と狼で種族としてそう遠くない。
陰陽師の密書には討伐隊が妖狐の村に向かって殲滅し、生き残った猛者が九尾狐になったとの史実が記されている。
永久は語らないが、これは人間視点であって実際は妖狐と言うだけで蹂躙された被害者の怨念が九尾狐を生み出したのではと解は思っている。
「師匠、許せないです」
くっと歯を食いしばる永久。狐耳が飛び出し、九本の尻尾が伸びる。今にも飛び出していきそうな勢いである。
「うっ……」
その時、マユの治療が完了し、人間の姿となった人狼が意識を取り戻す。
「俺……。あれ、傷が治ってる!?」
人狼は自分の体をペタペタとさわって不思議がる。
「もう大丈夫ですよ」
マユは優しく人狼にほほ笑む。
「聖女アンナ・マレッサ様!?」
人狼ガルムは自分が死にかけているのを知っていた。並みの回復師ではとても回復できない致命傷を何度も負った。そう考えるのが妥当である。
「違いますが、聖女アンナ・マレッサ様に指導を受けました。マユと言います」
人狼ガルムは女神のような美しさに一瞬目を奪われるが、直ぐに首を振って意識を戻して森を睨む。
「せっかく助けてもらったのにお礼もできなくて……俺、ガルム。行かなきゃ」
走り去ろうとする人狼の前に解は立ちはだかる。
「無駄死にだぞ」
「それでも行かなきゃ……。近くの村の鬼が突然襲ってきて。母さんも、父さんも、姉さんも……。食われて。あいつら、喰らう度に強くなって……。くっそー」
ガルムと名乗った人狼は悔し涙を流す。
……おかしい。帝都トキオの剣術魔法学園の図書館の書物では、人狼と鬼は共にA級。互角のはずだ。一方的に蹂躙されるなど、あり得ない。
両者ともはるか昔に陰陽師や西洋除霊師などによって異界へ追放された妖怪の子孫。縄張りはあるが互いに人語を話し、森に村を作って生活している。小競り合いはあったとしても、全面戦争で傷つけあって人間に付け入られるようなドジはしない。
「ガルムと言ったな。その鬼、どこか変なところなかったか」
人狼ガルムは考え込む。
「額だけじゃなくてそこら中に角が生えてて……」
木の街、城塞都市ミート(現世気相:茨木)。ダンジョンの魔物は植物系がほとんどである。
そんなミートから少し離れた街道で遭遇した人狼。ドラキュラ伯爵と同じ、現世に由来する欧米系の妖怪。何かがズレていると解は思った。
金の街、城塞都市サーイ(現世気相:埼玉)のダンジョン魔物は動物系だったが、それらを追い出しダンジョンスタンピードを発生させたピエロ男邪は狂戦士だった。我流六気操術での気相は邪気。動物系のダンジョンなら本来は闘気のはず。
魔石でできた巻貝型の鬼角に潜む寄生魔蟲……、現世の酒呑童子が使った妖怪の技、鬼爪……。
土の街、城塞都市チーバ(現世気相:千葉)のダンジョンで黒ローブの男瘴死霊使が使った合成獣……。
解の中で嫌な予感が膨らんでいく。
「くっ……。妖気を食らって鬼角寄生魔蟲を人工的に量産しているやつがいる」
「師匠、行きましょう」
「ああ、マユの護衛を頼む」
解は無限収納ファスナーを大きく開いて二台のウィンド・バイクを時空の狭間へと格納する。
人狼ガルムは何が起きたのか理解できなかったが、今はそれどころではない。一刻も早く森の中を確認したい。気持ちだけが焦る。
こうして人狼ガルムについて解、永久、マユの三人は森に踏み込んだ。




