05-02 私、この目で見ましたもん
二台のウィンド・バイクが木の街、城塞都市ミートに向けて街道を突っ走る。
「師匠、ウィンド・バイク。便利ですけど風の音で会話ができないのが残念ですね。会話する魔道具とかないんですか!」
永久は解のウィンド・バイクに並走して怒鳴る。
「確かに。それっ!うけとれ」
解は無限収納ファスナーを開き、小さなパーツを三つ取り出して永久に投げ、一つをサイドカーに座るマユに手渡す。
「陰陽師の備品、インカムじゃないですか」
永久は素早くそれを耳にセットする。
「何でもかんでも魔道具である必要はないだろ」
身振りでマユにインカムの付け方を教えながら言った。
「っ……。そうですね」
「解さんと永久ちゃんの声が聞こえます!」
こんなもので楽しそうにしているマユが微笑ましい。
「師匠、これ城塞都市ミートのダンジョンでも役立ちそうですね。パクったんですか」
解は無限収納ファスナーを叩きニヤリと笑う。
学園での思い出話をしながら三人は街道を進む。
なんとなく田舎の田園風景を予測していたが、異世界の定番、麦畑だった。現世のコメ離れが影響しているのかもしれない。まあ、城塞都市にご飯と言うのも似合わないのだが。
河原も川もおかまいなしのウィンド・バイクは突っ走る。
街道は次第に平地から山道へと変わる。
「いかにも鬼がでそうな森に入りましたね」
解と永久はウィンド・バイクのスロットルを制御してスピードを押さえる。
「鬼と言えば桃太郎伝説だな。マユは知らないと思うけど」
「何ですかそれ?」
マユは頭に疑問符を浮かべる。解は幼き日に孤児院で吉澤繭に絵本を読んでとせがんで眠った夜を思い出す。
「川から流れてきた大きな桃から生まれた桃太郎が犬、キジ、猿を伴って鬼ヶ島へ鬼退治に行って、貧しかった育ての親に宝物を持ち帰ったって昔話さ」
解は繭との思い出にちょっとほっこりとした気分になる。
「何いってんですか師匠、桃太郎伝説は桃から生まれた桃の妖怪が犬、キジ、猿の妖怪を引き連れて島に座礁した欧米船の乗組員を蹂躙して船の財宝を奪ったって話ですよ」
「っ……?」
「当時の日本人はチビだからチリチリヘアの大きな白人が怖かったんでしょうね。難破して日に焼けて肌は真っ赤、服はボロボロ、言葉も通じない。命の綱の赤ワインを飲む姿を血をすすっていると勘違いした村人たちが、当時の陰陽師に頼んで、式神化した妖怪使ってボッコボコでしたよ。私、この目で見ましたもん」
千年の時を生きる九尾永久から明かされる驚愕の真実に解の甘い思い出は崩れていく。
ドラキュラ伯爵といい、昔の物語は人間都合で改変されている。悪人は案外、人類なのかもしれない。なんてこったである。
「フフフ。解さんも永久ちゃんも別世界から来たんですね」
マユがさもありなんという顔でシレッと聞いてくる。マユの勘の良さを考えれば当然である。
「ああ、そうだ。だからこの世界にない理の中で生きている。マユだけにはもっと早くちゃんと伝えとくべきだった。ゴメン」
解は答えることを迷わなかった。頃合いなのだろう。
「キビ村での土蜘蛛退治に使った術でわかってましたよ。私も関係あるんでしょ。最近、よく知らない世界で暮らす夢を見るんです。ちっちゃい解さんがいて……」
マユは思い切って夢の話を口にする。嫌いな夢じゃない。だけど目が覚めるといつも枕が涙で濡れている。気相が繋ぐそんな話である。
「そうか、落ち着いたら、知っていることはすべて話す」
解の生み出した我流六気操術でマユの気は『創気』。世界への霊的干渉力が高い。この異界での出会いも偶然なんかじゃない。必然なのだと解は感じていた。
「師匠、これで本気出して戦えますね」
永久がにかっと笑った時だった。
ドサ!
森の中から黒い影が飛び出してきて解と永久のウィンド・バイクの行く手を塞ぐように倒れた。
二人は急停止して前方を眺める。
「師匠、狼ですね。けっこう大きいです。魔獣でしょうか?」
「いや、気相から推察するに永久と同じ半妖怪だな。おそらく人狼。帝都の剣術魔法学園の図書館の本を片っ端から読んだときにあった」
「師匠、なんか血だらけですよ」
血生臭い匂いが森の奥から漂ってくる。
人間とは比べ物にならない嗅覚を持つ永久は、その不快さに顔をしかめた。
「マユ、治療できるか?」
「もちろんです」
三人はウィンド・バイクを下りて息絶えようとしている狼の元に走った。




