04-21 学長の椅子に座るのも悪くない
一方、こちらはアラン・グラント学長室。
年に一度の剣術魔法学園の一大イベント都市対抗チーム戦を終え、一息つく間もなく観戦に来ていた城塞都市チーバ現領主、城塞都市サーイ領主と打ち合わせ中の学長。
「エレーナ・チーバ伯爵、チーバ領内の政務は順調かね?」
アラン・グラント学長は長く伸びた白い顎髭をさすりながら尋ねる。
「はい、アラン・グラント学長と陰で支えてくださる城塞都市サーイ領主ご指導のお陰でチーバの貴族たちの反乱もなく順調です」
エレーナ・チーバ伯爵の声には自信がこもっている。ちょっと前まで剣術魔法学園の生徒だった彼女の急成長を見て学長は白ひげを撫でながら頷く。
「早く引退したいのだが……。しばらくは引退できそうもない。はぁ~」
ため息交じりの学長。
「城塞都市ヨーコチームの鬼化の件ですな」
白いタイツにかぼちゃパンツを着こなす男、城塞都市サーイ領主ガンダール・サーイ伯爵が追い打ちをかける。
そこへ、剣術魔法学園の職員が飛び込んでくる。
「たっ、大変です。学園の生徒会室でボヤがでました。魔導士教員の水魔法で消し止めましたが、その……」
職員の顔が徐々に青ざめていく。
「どうした、はっきり言え!」
またまた問題発生。イライラが募る学長。
「その、火事の直後に生徒会室から出ていくケン・ムラーイ帝都皇帝陛下のお姿を見たという女生徒数人の目撃情報が……」
「「「っ……皇帝陛下!」」」
アラン・グラント学長はギリギリと雑巾を絞るような鈍い胃痛に襲われた。
そこへ、別の職員が駆け込んでくる。
「今度はどうした。全く次から次へ、忌々しい」
日頃は温厚なアラン・グラント学長の眉は吊り上がる。
「城塞都市サーイチームの学生たちがお会いしたいと……」
「学生が学長に会いに来たのに何をビビっているんだ?」
そういうアラン・グラント学長の膝も微かに震えている。
全く持ってかわいそうな、引退まじかの年でようやく栄誉職と言うチートを使ってS級となった学長。
受付の職員が居なくなったことをいいことに、学長室に堂々と入ってくる城塞都市サーイチームの学生たち。
「俺たち三人は今日を持って剣術魔法学園を退学するからよろしく」
「「「えっ……」」」
居合わせた城塞都市チーバ現領主、城塞都市サーイ領主、共々、開いた口が塞がらないアラン・グラント学長。
「「「お世話になりました」」」
ペコリと頭を下げる解、永久、マユの三人。
「えぇー、何言ってんですか!?お師匠」
ゴリラ顔を歪ませるボブ・アーレン男爵子息。
「せわんなったな。ボブ、今のお前なら剣術魔法学園の城塞都市サーイの学生たちの力になれるだろ」
死地を何度も食らった特訓の勲章、全身の木刀傷が男爵子息の背筋を伸ばす。
「ちょっと、勝手に決めないでよ」
動揺が隠せないアヤ・サーイ伯爵令嬢。
「アヤ、城塞都市サーイの次期領主の器、期待してるよ。ボブと二人、いい仲間を作ってサーイの庶民の暮らしを守ってくれ。おっと、化粧はちょっと控えてな。お前、すっぴんでの方が断然かわいいしな。民を率いる為には大事なことだ」
解はちょっとイケメン顔を晒す。
「っ……」
ロングネイルバリバリ、ピンクの縦巻き髪のアヤ・サーイ伯爵令嬢は頬を赤らめて俯く。
初めて解に褒めてもらった気がする。嬉しくて涙が目じりに溜まる悪役伯爵令嬢。
居合わせた白いタイツにかぼちゃパンツを着こなす男、城塞都市サーイ領主ガンダール・サーイ伯爵はそっと娘の肩に手を置いた。
「初めまして、私、城塞都市チーバ領主、伯爵家のエレーナ・チーバです。ついこの間まで、学園の生徒だったのでアヤさんとは何度も顔を合わせているのですが、お話しするのは初めてですね。都市対抗チーム戦での活躍、拝見しました。私にはあれほどの力はありませんが、政治の方では切磋琢磨できるかと思います。よろしくお願いします」
頭を下げて手を差し出す城塞都市チーバ新領主。
「っ……」
背中をそっと押すガンダール・サーイ伯爵。エレーナ・チーバは振り向いて父の顔を見て覚悟を決める。
二人はがっちりと握手を交わした。
若い者が育っている光景を見て、アラン・グラントはもう少し帝都トキオ剣術魔法学園の学長の椅子に座るのも悪くないなと思った。




