04-07 鼻ピアスも耳ピアスも消えたその顔は年相応
その日の夕方、解と永久、マユの三人は帝都トキオ剣術魔法学園の中を見て回っていた。
石畳と石作りの校舎、闘技場など、まるで現世のギリシャの街が目の前にあるような荘厳さである。
一流彫刻家が彫った彫像があちこちにはめ込まれている。
「師匠、やっぱり城塞都市サーイや城塞都市チーバと違って手が込んでて凄いですね」
「こんなの初めて見ました。石像がまるで生きているみたいに美しいです」
永久とマユの首は右へ左へ落ち着かない。完全なおのぼりさんである。
解は前方の闘技場陰に隠れる五人の集団の子供じみた邪気を検知する。
「なるほど……。世界が違っても人の世はかわらないか」
小さく呟き、丹田に力を込める。
我流六気操術の六芒星が右手の平に光り浮かぶ。
『解』の文字が大きく光って発動し、解はこぶしを握る。
「ぐふふ。師匠、もうこれ現世の転校生あるあるですね」
解が気が集約される空気の微妙な振動を感じ取った永久が悪い顔になり、そ知らぬふりで歩む。
「ようよう、見慣れない制服だな。転校生か?両手に花なんてずいぶん贅沢じゃないか」
リーゼントヘアの腰履きモブがヤンキー座りで三人を見上げて絡んできた。両手のメリケンサックを見せびらかす。
「痛い目見たくなかったら嬢ちゃん、二人とも置いて回れ右しなよ」
カシャ。
横に控えるモヒカン腰履きサル、三匹モブが立ち上がり飛び出しナイフの刃を舌で舐める。
「そっちの色男はあたいが貰うんだから逃がしちゃだめだよ」
紅一点、スカート超ロング吊り目、ピアスジャラジャラ女子モブが立ち上がって太めのクサリを振り回す。
「だ、そうた。残念だったな。顔は傷つけんなよ」
リーゼントヘアの腰履きモブが立ち上がる。こいつがこのチームのリーダーなのだろう。
全員、トキオ剣術魔法学園のブレザーのエンブレムは木の街、城塞都市ミート、現世気相は茨木である。
「師匠、教育指導しましょうか」
永久が五人と対峙する。身長差が半端ない。
「永久ちゃん。暴力はダメだよ」
マユが永久の前に立つ。両足が微かに震えている。
そんなマユの勝気さに解は、現世の子供時代の繭を思い出してちょっと可愛いなと思った。
「マユ、永久。下がってろ」
解は左手で永久とマユを後ろに下げてファイティングポーズ。
「そう来なくっちゃ。女子を傷ものにしたら後が楽しめない。おらっ!」
ブン、ブン。
リーゼントヘアが吠え、メリケンサックの拳が空をきる。
ブン、ブン。
ブン、ブン。
ブン、ブン。
モヒカン腰履きサルサル三匹の飛び出しナイフを振り回す。
ジャラ、ジャラ。
スカート超ロング吊り目女子のクサリが解の足を狙って石畳を叩く。
解はヒョイヒヨイと適当にそれを躱す。
「遊んでいる暇ないんだけど、挨拶代わりにちょっと面白いマジックを披露しようかな」
ふっ。
解が小さく息を吐くとメリケンサックと飛び出しナイフ、クサリの鉄製金属部が光に包まれ粉となって風に散る。
「「「「「なっ……。無詠唱……」」」」」
木の街、城塞都市ミート学生、モブ五人組は得物の消え去った自分たちの手を見つめる。
「便利だろ。指定したの物質の繋がりを解くマジックな」
解は五人を睨みつけてから、永久とマユの背中を押して歩き出す。
「「「「「逃げるんじゃねえ……」」」」」
男四人と女一人の声が後ろでハモる。
解は振り向くことなく、右手を上げて後ろに向かって手を振る。
男四人は腰履き極太パンツのベルトの留め具と社会の窓のボタンの鉄が崩れ去っていることに気付かずに追いかけようとする。
ドサッ!ドサッ!ドサッ!ドサッ!
動いた拍子に極太パンツは見事に足元までずり落ち、それぞれの足を絡めとった。ブリーフ姿の尻を持ち上げて石畳につんのめる四人。
ギャグ漫画並みの間抜けさである。
紅一点は留め具の消えた超ロングスカートを押さえて立ち尽くした。鼻ピアスも耳ピアスも消えたその顔は年相応に幼く見えた。
「師匠、なんで服ごと消さなかったんですか?」
永久の言葉にマユの顔は赤らむ。
「ああ、有機化合物など複雑な分子は難しくてさ」
解はニカッと笑った。




