04-01 ちょっと調教してきていいですか
人の街、帝都トキオ。他の城塞都市とは比べ物にならないほど広大な壁に囲まれた街。
道は石畳で舗装され、各所に設置された公園には緑が青々と茂っている。
解と永久、マユの三人は物珍しそうにあちらこちらを眺めながら帝都トキオ剣術魔法学園を目指す。
「師匠、とうとう来ましたね。文明レベルは低いですが本家東京並みに活気があって嫌いじゃないですよ私」
「そうだな。色々な気が混じって混沌としている。どうしたマユ」
「あまりに人が多くて、ちょっと眩暈がして。私、キビ村から出たことなくて。ちょっとびっくりです」
解は土蜘蛛の贄として育てられたなら、家族と共に逃亡の恐れがある以上、旅行など夢物語だろうとマユの育ちに眉を顰める。
この異界は一歩壁の外に出れば魔物に食われる世界。人間は弱肉強食の頂点じゃない。それが当たり前の日常。
「迷子になって解さんに迷惑をおかけしたらいけないので、すみません」
マユが解の制服の上着の裾をチョコンと遠慮がちに摘まむ。
永久はそれをみて一瞬複雑そうな顔を浮かべるが、直ぐに気持ちを切り替えてニッコリとほほ笑む。
「ハイ」
解の手をとり、マユの手を包み込むようにしっかりと握らせる。
「師匠、師匠の仕事はマユちゃんの護衛ですよ。ちゃんとしてくださいよ、もう」
ふくれ顔で解に抗議する。解とマユは下を向き互いに赤くした顔を隠した。それでも二人は手を離さない。
ヤバ、二人ともメチャ、ウブ可愛い!ちょっと胸キュンの永久だった。
こうして三人のおのぼりさんはワチャワチャ会話しながら石畳の通りを歩く。
前から肩で風を切って歩いてくる紫の下品な背広を着たいかにもナンパ顔のチンピラ男が解に肩をぶつける。
ガッシャーン!
紙袋に入ったワインの瓶が石畳に落ちて砕ける。観光地などで高額ワインと偽って弁償させる古典的な詐欺である。
「よう、兄ちゃん。彼女とデートもいいが、ちゃんと前向いてあるかんかい!このワインは年代もん……、っ……メッチャ上物」
マユの顔をみて男の動きが止まる。一瞬の隙で永久は男の背後に回る。
「ぐっ、いてててて。なっなんなんだ。このガキ」
ナンパ顔の男の腕をとりグイッと捻り上げる。
「えへへ。師匠、私、こういうシーン、大好物です」
ナンパ顔の男の袖から書きかけの桜と龍の刺青がチラリ。
「桜龍会を舐めるなよ」
グギ!
「うぐっ」
半端入れ墨男の肩が捻りに耐え切れずはずれた音。男の顔は苦痛に歪み、顔から血の気が引いていく。
グキ、グキ!
「舐めねえよ。猫じゃないし。コン」
「うっがー!」
半端入れ墨男は耐え切れず口から泡をはいて崩れ落ちる。
「師匠、ちょっと調教してきていいですか。ほら私たち身寄りもないし、協力者は多いに越したことないし、でしょ」
解はあきれ顔で永久を見つめ、悪い顔で行って来いと顎で示す。
帝都トキオには門番はいるが交番みたいなものも見当たらないし、金持ちは用心棒としてギルドの冒険者を雇うが、庶民は野放しらしい。
通りで騒ぎが起きても誰も駆けつけてこない。行きかう街人は遠巻きに散っていく。
永久は嬉しそうに半端入れ墨男の手を引きずって路地裏に引き込んで消えた。
「永久ちゃん……。解さん、大丈夫なんですか?」
信じられない展開に戸惑うマユ。
「大丈夫じゃないだろうな~。桜龍会が……。可愛そうに永久のパシリか……。まあ、でも街での行動は楽になるし。行こっか」
解は何事もなかったかのようにマユの手を引いて歩き出した。
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帝都トキオの街の路地裏。
パシ!
永久の平手がナンパ顔男の頬に飛ぶ。
パシ、パシ、パシーン。
「起きろ、チンピラ。だれが寝ていいって言った!」
うぐぐぐ。
もとナンパ顔男は両頬をパンパンに張らして覚醒する。
「なっなんだ?」
平手打ちで前歯が二本折れ飛び、ナンパ顔が歯抜けのコミカル仕様。
「落とし物だ」
永久は落ちた前歯を指で示す。
「俺の歯が……」
もとナンパ顔男はプラプラしている右手を押さえながら左手で折れた歯を拾う。
紫の下品な背広は石畳でズタズタの残念仕様。最初の勇ましさはみる影もない。
「さてと。桜龍会って所に連れて行ってもらおうか」
「分かった、分かったから!」
コミカル顔の半端入れ墨男は心の中で二ヒヒと笑った。
このバカガキ。調子こきやがって。桜龍の親分は元B級冒険者。
素行が悪くてギルドを追放されたが、C級魔獣のオークを素手で倒した経歴を持つ猛者だ。
帝都トキオの貴族には捻じ曲がった嗜好の貴族も一定数いる。このガキ、顔は悪くない。
後であの超可愛い少女と合わせて売りさばけば相当な臨時収入になる。
こうしてコミカル顔の半端入れ墨男は、大人しく永久を案内して街を牛耳る桜龍会のアジトへ向かうのだった。




