03-13 だから師匠、チョコを出してください
ガンダール・サーイ伯爵卿は解と永久がこの世界の何処かではなく、かつての勇者のように別世界からの訪問者であることをほぼ確信した。
明らかにこの世界の子供たちとかけ離れた力、そして大人びた発想。
「学校と言えば、ひとつ、面白い話がある。聞いてみるかい?」
「何でしょう。伯爵卿」
「君の大事な女性が遠方で暮らしていて病気にかかり命が危ないという知らせが来たとする。君の住む場所にはその病に効く特効薬があるとする。当然、君は彼女に薬をと遂げようとするだろう。君が彼女に向かって必死に走っている時にたまたま川で溺れている女児がいたとする。その子を助けていたら君の大切な女性は病気が進行して危ないかもしれない。さて解君ならどうするかね」
「……。女児を助けて彼女の元に向かいます。女児は今助けなれば命はありません。彼女は「危ないかもしれない」であって間に合う可能性が十分あります」
「そうか。結果、もし彼女の病気が思いのほか進行して亡くなってしまったとしよう」
「……」
「君は仕方がなかったと諦められるかい?罪の意識を抱かずに生きられるかい?」
「この問題には答えはない。だが前提条件をちょっと変えれば解決できることもある」
「仲間を増やせってことですね。それで学校ですか」
「そうだ。どんなに力があっても、知恵があっても一人じゃ解決できない場面があるってことさ」
「師匠は大丈夫ですよ。最強、無敵の、この永久様が付いてますもんね。だから師匠、チョコを出してください」
「お前なー。まあ、いいや、ホレ」
解はお馴染みのファスナーを引いてチョコを永久に渡した。
チョコをほお張り幸せそうな永久。それを見守る解。
こうしてみると幸せそうな普通の姉弟なんだけどなー。ガンダール・サーイ伯爵卿はどちらが本当の彼らなのか分からなくなった。
「ところで人の街、帝都トキオはどんな街ですか?」
「金の街、城塞都市サーイや土の街、城塞都市チーバとは比べ物にならない巨大都市さ」
「そうですか」
「貴族や豪商などはお抱えの用心棒を各都市のギルドから招いているので安全だ。しかし、平民の命は安いものさ」
「騎士団はどうしているのですか」
「彼らは基本的に都市間の戦争や紛争解決と対魔人向けだな。魔人は魔獣と違って知恵が効く。人間と同じで組織的に襲ってくる」
「地方ギルトでは難しいと」
「戦略と戦術を駆使した戦争は、ダンジョンでのモンスター退治とは別物だよ」
「そうですね。わかります」
「ところで、帝都トキオの平民にも彼らを守る暗黙知みたいな組織があるにはある」
「自警団ですか?」
「いや、いわゆるマフィアってやつさ。都市には一定数、やんちゃをする子供たちがいるし、そう言ったものを受け入れる非合法組織も必要になる。商店や企業などからみかじめ料を取ったり、大規模なイベントなどで稼いでいるが、末端のチンピラはある程度野放しになる。平民の地方出身者はカモにされる恐れが高い」
「ぐふふ。師匠、よくわかる話です。お江戸の街もそんなん必要悪はありました」
「お江戸……」
ガンダール・サーイ伯爵卿は聞きなれない街名に反応する。
「君たちが暮らしていた街かい?」
「……。そんな感じです」
冷や汗を垂らす解。
まさか、その隣でチョコを頬張る童女が九尾の血を引く半妖であるなど、伯爵は知る由もなかった。
「そうか、なら話が早くて助かる。君たちは心配しないがマユ君を頼む」
「「わかりました」」
元気よく返事をする解と永久。
しかし、この話から二人が想像を絶する手段を思い浮かべていることをガンダール・サーイ伯爵卿は知らない。




