03-12 気相が繋ぐ現世と異界
それから二週間が経ち、ガンダール・サーイ伯爵卿と解と永久は金の街、城塞都市サーイへ帰る馬車に乗っていた。
「ガンダール・サーイ伯爵卿、ずいぶんと時間がかかりましたね」
「ああ、解君。一つの街の組織体制をそっくり入れ替えたんだ。これでもかなり早い方さ。心得ておくといい」
「そうですね……。戦って、はい勝ちました。終わりって言うのは物語りの世界だけですね」
「何事も事後処理の方が大変だ。今回で言えば失脚した大臣とその家族や関係者の感情の処理とかな」
「師匠、難しい話ばかりじゃダメですよ。ガンって食らわせて、ドーンと花火ぶち上げて、バーッてやってやるんですよ」
「……、すいません。こいつは食う事しか頭にないんで。永久、大人の話に口を挟むな」
解は永久の頭に軽く拳骨をみまう。
ガンダール伯爵卿は「解君も十分子供なんだけど」と言う言葉を飲み込んで続ける。
「……。永久君、君の言うのも最もだ。言い方は微妙だけど要は勢いとスピードって言いたいんだろ」
ガンダール伯爵卿は、この娘は変なところで鋭いと感心した。案外、政治に向いているのかもしれない。
「ほら師匠、私の勝ち!」
永久は二へへと笑う。
「話は変わるが解君、君はサーイの街へ戻って何をするんだ」
「城塞都市チーバで十日ほどブラブラしていたら退屈で死にそうでした。帰ったらキビ村の温泉でのんびりするつもりでいたんですけどね。どうやら僕にはのんびりは向いていないみたいです」
「解君、永久君。君たちは幾つになった」
「歳ですか。俺は十八です。永久は、せん……、えっーと十歳くらい?」
「何言ってんですか、師匠!私は十四歳です」
「「……」」
ガンダール伯爵卿は永久の全身を眺めてちょっとむせる。
「そうか。君たち人の街、帝都トキオの剣術魔法学園に通ってみないか?ちょうど十名ほど空きが出た」
「エレーナ・チーバ伯爵卿と城塞都市チーバの運営に加わる学友の分の穴埋めですか……」
「それもあるが、君たちを見ていると私でもちょっと不安になる。無敵と言ってもいい力、大人顔負けの知識と行動力。若さと呼ぶにはあまりに力と心のバランスが歪に思えてならない。解君、永久君、君たち学校にちゃんと通ったことがないんじゃないか?」
ガンダール伯爵卿は、瘴の消え際に解の発した「青臭いかもしれないけど、人だったものを斬らずに済むように俺は最強を目指すんだ」を思い浮かべる。この子たちは誰かに甘えたり、頼ったことがないのではと。
「「……」」
「まあいい、沈黙は是と考えよう。暇つぶしでかまわない。どうかな?」
「学校かー、師匠、私、学校、行くんだって。フフフ」
「分かりました」
永久の嬉しそうな顔に負けて解はそれを受けた。
「それでは帝都トキオ剣術魔法学園アラン・グラント学長に伝えるとしよう」
「よろしくお願いします」
「そこでだ。君たちに一つお願いしたいことがある」
「……。何でしょう」
「君たちが解決してくれたキビ村の土蜘蛛の件でね。他所から来た君たちは知らないと思うが、この世界にはギフトと呼ばれる風習があってね」
「ぐふっ、キター!テンプレど真ん中!」
「永久、真面目な話に水をさすな」
解は永久を睨みつけて黙らせる。
「……?帝都の聖女が各地を回り十三歳になった子供たちに魔力覚醒の儀式を行う。そこで有望とされる子供たちは特別な教育を受ける権利を得られるんだ」
「まじ、まんまです」
解は永久の口を押えて黙らせる。
「これはちょっと大人の話で申し訳ないが、キビ村は土蜘蛛の贄となる女子候補をギフトの儀式に出さずに隠していたんだよ」
「……」
「我々がドラキュラ伯爵城で茶番を演じていた頃に、今年の覚醒儀式がたまたま行われてね。隠す必要のなくなった女子の中に一人、回復師として覚醒した娘が出たんだ」
「……」
「回復師は数万人に一人覚醒するかどうかと言われ、金の街、城塞都市サーイにとっても貴重な宝なんだ。彼女も帝都トキオ剣術魔法学園に入学させるので力になってやってほしいんだ。いや、正しく言おう。彼女を守ってほしい」
「そっちがメインですか?」
「ありていに言えばそうなる」
ガンダール伯爵卿は解の顔を見てニヤリと笑う。
「分かりました。そう言っていただいた方が俺には落としどころになる。で、その娘の名前は」
「マユ君と言う」
マユ……。解の現世の幼馴染、吉澤繭。孤児院で共に暮らし、解が現世総理の冨士岡洋に引き取られて別れ、明菱高等学校3年2組の同級生
として再開したクラスメイト、吉澤繭。
「っ……」
解はゆっくりと瞼を閉じた。置いてきた過去の記憶が解の頭の中を目まぐるしく巡る。
気相が繋ぐ現世と異界。物語は新たな局面へと動き始める。




