03-09 何だと、そんなバカな
「さあ、腐れ死ね」
瘴の振るう妖刀、鬼神瘴を解は妖刀、鬼神解を抜いて受ける。
力は拮抗し、目にも止まらぬ刃と刃の応酬の嵐が、火花と共に三十分も続く。
しかし、紫色の瘴気が鬼神解に纏わりつき、徐々に業のモノと呼ばれる裏国宝の刃を蝕んでいく。
「ははは、その程度か、天乃解。ほらほら、どうした。鬼神解がサビて朽ちるぞ」
刀を伝った瘴気が解の両腕を腐らせていく。少しずつ皮膚が爛れ、血が滲む。
「っ……」
解は闘気を両腕に集めて力任せに鬼神解を振り切って後方に飛び、瘴との距離を取る。
サビの浮いた鬼神解を鞘に戻す。鞘に纏わりつく地龍がうねり狂う。
「さぁーて、次はどんな手を見せてくれる。楽しみだなー」
「創気神、一柱建立、天」
解が丹田に力を込めると、足元に六芒星が浮かび上がり「創」の文字が光る。
「あぁー、残念。それは既知だ」
瘴はその六芒星を妖刀鬼神瘴で断つ。
「おやおや、回復もままならなくなったな」
瘴は油断することなく妖刀鬼神瘴をかまえる。
「ぐふっ」
解は口からどす黒い血を吐き出した。
「クククッ。この部屋を満たす瘴気の毒がようやく効いてきたかい。刀はボロボロ、体もボロボロ。内臓もボロボロ。さあ、どうする」
「げほ、げほ。ハアハア」
解の顔が青ざめていく。それでも力を振り絞って鬼神解を再度引き抜き刃を交える。
しかし、やがて動きが鈍くなり、妖刀鬼神瘴が解の皮膚を裂き始める。
そこに瘴気が集い蝕む。呼吸が荒くなるほど毒が回り、肺を焼き内臓を焦がす。
「げほ、げほ。げほ、げほ。ハアハア、ハアハア」
ついに解の動きが止まる。
見開かれた両の目玉は赤く染まり、とうとう顔からこぼれ出る。鼻から蛆がわき上がり、腕の筋肉は腐り落ち白い骨がのぞく。
「ハハハハハ。さっそう、ゾンビだな」
解の体は朽ち果て土となって落ち、小さな山となる。
残ったのはその土山に突き立つ妖刀鬼神解。
「けっ、骨まで土になっちった。やり過ぎだったかな。これじゃ、死霊奴隷にすらできない」
グサッ!
「えっ」
瘴の右胸から刃が突き出る。
「お前の心臓も狂戦士邪と同じで右なんだろ。死霊使瘴。如月創の影」
瘴の背中から解の声が響く。
「お前が戦っていたのは如月創の影の影、瘴の幻影体さ」
「何だと、そんなバカな」
瘴は目の前の土山に突き立つ刀を見る。瘴の視界がぐにゃりと歪む。
「き、鬼神邪だと……」
「抜き身だと姉妹刀だけあって鬼神解も鬼神邪そくっくりだろ」
解は得意顔で解説する。
「いつから俺は偽物と戦ってたんだ?」
「この部屋に入った最初からさ。知りたかったんだろ、俺の能力を。だから教えてやる」
鬼神邪の横に姿を現す月夜の桜の着物を纏ったショートカットの女児。
「幻影体は我流六気操術の妖気神、化の得意分野だ」
解が妖刀鬼神解を後ろから引き抜く。瘴の右胸は真っ黒い穴となって広がっていく。
「妖刀鬼神解は特定の原子を分解するんだ。今回は炭素な。お前の鬼神瘴と似てるだろ」
解は瘴の肩を掴んで振り向かせ、妖学迷彩マントを脱ぎ捨てる。
体が粉になって崩れ落ちる中、瘴は解の顔がマントに隠れたタイミングを見計らう。
自分の小指を食いちぎって、解に気付かれないように玉座の後ろに吐く。
粉となった瘴の体は光の粒となって妖刀鬼神瘴に吸い込まれていく。
その陰で瘴の小指は芋虫のように這いつくばり、やがてさなぎとなり、蛾となって飛び立つ。
裂けた空間から顔をのぞかせていた永久が式神、雪花を変化させた冷凍虫スプレーを取り出す。
今まさにその蛾にスプレーをふり掛けようとする永久を解は制する。
「式神、蝶花の意趣返しだ」
妖気神、化が鬼神邪を引き抜き解に手渡した。
「ありがとう、化」
化はコクコクと頷き、解の足元に浮かんだ六芒星へと帰っていった。
これで六振の姉妹刀の内、鬼神解、鬼神邪、鬼神瘴の三振が解の元に揃った。
この後、瘴の小指だった蛾はダンジョンを抜け、土の街、城塞都市チーバの主城へと向かうのだった。




