01-02 六気操術はご都合主義の斜め上
荒野を半日ほど歩き続け、ようやく木々に囲まれた森が見えてきた。
「師匠……さすがにお腹すきました。あの森、イノシシとかいませんかね」
九尾永久は腹を押さえながら言う。
天乃解は足を止め、振り返った。
「普通はな、ああいう森を見たらどんな化け物が出るか心配するもんだ」
「……全然です。本物の化け物が目の前にいますから。むしろ森の木々ごと一刀両断しないか心配です」
「人を破壊神みたいに言うな。……いや、でも確かに。その方が安全に歩けるか?」
解は腰の妖刀『鬼神解』の柄に手をかける。
「ちょ、ちょっと待ってください! 本気にしないで!」
慌てて止めに入る永久。
人間の暴走を止める半妖怪。この組み合わせ、絵面的に完全におかしい。
「冗談だ。あの森からはちっぽけな邪気と妖気しか感じない。それより……、鳥居があるな」
木々の隙間から、朱色の鳥居がのぞいていた。
「ってことは……。この世界にも人がいるんですかね」
二人は鳥居を目指して歩き出した。
けもの道を進みながら、永久はクナイを投げ、巨大なカエルやバッタを手際よく仕留めていく。
「食べ物は何とかなりそうですけど、その前に水ですね」
永久が掲げた袋の中では、捕らえた獲物が蠢いていた。
「俺はそれは食わんぞ。狐じゃないしな。あと、泥水も遠慮したい。デリケートなんだ」
「でも師匠……コンビニも鉄塔も見当たりませんよ?現代的な食事を期待する方が無理じゃ……」
「ほれ」
解はペットボトルを放った。冷蔵庫から出したばかりのように、ひんやりしている。
「……え? それ、どこから……?」
解はブレザーの脇についたファスナーを引き、もう一本、同じペットボトルを取り出した。
「……マジシャンですか。制服のブレザーのそんなところにファスナー、ついてませんよね?」
「便利だろ。これをな……」
「えぇー、引き手が取れた?」
解は永久の戸惑いを無視して、木の幹にファスナーのつまみを当て、引いた。
ジジー。
空間が布のように裂け、その内側に、マンションのようなゴージャス空間がチラリとのぞく。
冷蔵庫、キッチン、風呂、トイレ、エアコン。下手な都会のアパートより、よほど豪勢だ。
「これがあれば、妖魔とか神獣を何日でも追える。しっかり休むのは『元気』の基本だからな」
「はあー。一人でふらふら準備もなしに手ぶらのピクニック感覚で妖魔狩りに行く理由がわかりました」
「さっきのような知性の低い妖獣でも、次元をねじるくらいはできる。それを応用して『時空の狭間』に部屋を作っただけだ」
チートすぎて、あきれて言葉も出ない。
知性の低い妖獣とか言っているけど次元大蛇は陰陽師数人がかりで『異界送り』にするのがやっとだった。
戦闘力だけでも規格外なのに、生活基盤まで完備とは。
「まあ、ファスナーがなくても開けれるんだが……。見た目がカッコいいだろ?」
解がつまみを外すと、入口は即座に消えた。
「……師匠、金持ちなんですね」
「一応、特殊国家公務員だったからな。特別手当込みで、まあそれなりだ」
永久は微妙な表情になる。英雄の裏にある、社会の現実を垣間見た気がした。
彼女は袋いっぱいの獲物を、無言で草むらに放り捨てた。
「……師匠。お昼ご飯、出してください」
「そうだな。『気』は補充できても腹は減る」
解は超高級カップラーメンを二つ取り出す。
「永久、お湯を頼む」
ミネラルウォーターを放り投げ、解は妖刀に手をかけた。
ビシュー。
容器は一瞬で断ち切られ、水が球状に浮かぶ。
「狐火!」
永久の術で炎がまとわりつき、瞬時に沸騰。解の指先に導かれ、カップラーメンの二つの容器へと収まった。
三分待つ間、永久は狐水の術で指先から水流を飛ばして遊んでいる。
「師匠。陰陽術で作った水って、なんで飲めないんですか?」
「期限付きだからだな。術が解ければ、体の中だろうと消える」
「……なるほど。飲んでも意味ないと」
「世の中、そんなに都合よくはできてない」
「師匠だけには言われたくなかったです」
グゥー。
その直後、永久の腹が盛大に鳴った。
好むと好まざるとにかかわらず始まった、二人の異界旅行。
この世界で……。
我流六気操師・天乃解の『ご都合主義の斜め上』な無双は、まだ始まったばかりだった。
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坂井ひいろ




