01-01 瘴気の森で初無双する
人の背丈をはるかに超える巨大なキノコが群生し、それが一斉に火山の噴煙のように胞子を吐き出す異界。瘴気の森。
地面には、形状すら判別できない異生物の白骨死体が転がっていた。
キノコの笠が陽光を遮り、薄暗い森の中に天乃解と九尾永久は立っている。
「師匠……。この瘴気、普通の人間なら一呼吸で即死ですよ。よくそんな平気な顔で立っていられますね」
永久は人の姿を捨て、狐耳がピーン、モフモフの九尾を持つ妖狐の姿へ戻っていた。
それでも眉をひそめるほど、瘴気は濃い。
「永久……。お前、狐なのに狸顔だよな」
「なっ……!今それ言います!?」
白い毛に覆われた頬の下で、確かに顔が赤くなっている。
「冗談だ。まあ、瘴気の森に放り込まれたって時点で、俺はかなりツイてる」
「どこがですか!?メチャクソ、最悪の環境なんですけど!」
解は肩をすくめる。
「俺の六気操術ってのはな、『気』を操る我流の技だ。陰陽師の技とは格が違うんだよ」
ヘソの下、丹田に力を込めると、目の前の空間に金色の光が走った。
創
/ \
妖 闘
│ 人 │
邪 瘴
\ /
解
『妖・創・闘・瘴・解・邪』
六つの文字を頂点に持つ六芒星。
陰陽師が使う五芒星とは異なる、金色のヘキサグラムが浮かび上がる。
「ほら、陰陽師は五角形。俺のは六角形。角が一個多い」
「っ……、師匠。角一個で格をキメタ!?」
永久は唖然。
「『気』は万物をつかさどるエネルギー。だから、瘴気も例外じゃない」
六芒星の中央に『人』の文字が灯った瞬間、『瘴』の文字が巨大化し、森に満ちる紫の霧を吸い込み始めた。
「はえ……?」
永久は素っ頓狂な声を漏らす。
瘴気は光へと変換され、奔流となって解のヘソのあたりから体の中の丹田へと流れ込む。
キノコはみるみる萎れ、遮られていた空が現われる。青空がのぞき陽光が差し込んだ。
「森一帯の瘴気を……全部、奪ってる!?」
永久はデタラメな能力に呆然。瘴気が消え失せ人の姿へ戻る。
「満タンには程遠いけどな」
「欠伸しながら、数十万人は殺せる毒でエネルギー補給とか……。もう完全に悪魔じゃないですか」
「半妖怪に言われたくはないな」
解は笑って、永久の頭を大きな手でワシャワシャと撫でた。
可愛がっているわけではない。狐耳がどこに消えたのか気になって仕方のない解。
そんなことは知らずに撫でられる永久。
っ……、そんな爽やかな顔を年頃の女子に向けるなんて、ずるいんですけど。
そう思ったことを、永久は口にしなかった。
「うーん?狐耳はまあ許すとして、尻尾はどこに消えたんだ。てか、尻尾が生えた時点で服が破れないのか?」
解は永久のお尻をマジマジと見つめる。
「師匠、どこ見てんですか!セクハラですよ」
「穴があるかと……」
「くっ、あるわけないでしょ。女の子のお尻眺めて言うことですか!」
永久は顔を赤くする。
「俺は戦士じゃなくて、どっちかと言えば研究者だからな。アニメの狼男とか、戦隊ものとか変身のたびに服はどうなったんだろって気になって物語りに集中できやしない」
「……。そこ気にします?」
「なんで、気になるだろ」
「尻尾も狐耳も実体ある妖体だから、穴なんてなくてもいいんですよ。だから、もう、お尻を見詰めないでください」
「なるほど。じゃ、狼男は毛の下、戦隊ものの変身は鎧の下に服が普通にあるのか」
解はポンと手を叩く。
「ところで永久、俺は千年妖狐の大先輩を弟子にした覚え、なんてないんだけど。俺、まだ十八なんで」
「妖狐の百年は人の一年みたいなものなんです!誤差みたいなもんですよ。今が熟れ頃なんですよ」
「千と十八は、さすがに誤差じゃない」
解の視線が、永久の足元からフラットな胸元で止まる。
「……十歳。小学生かよ」
「いちいち癇に障るんですけど!」
その時だった。
永久の背後の空間が歪み、巨大な口と二つに裂けた舌、刀ほどの長さの牙を持つ毒蛇の顔が現れた。
ズサッ!
永久が振り向くより早く、妖刀『鬼神解』が閃いた。
首を落とされた蛇の頭が、地面に転がる。
「……容赦ないですね師匠。それ、江戸期に陰陽師総出でも倒せなかった妖獣『次元大蛇』ですよ?」
光の粒となった死骸が集まり、こぶし大のサイズの『魔石』へと変わって地に落ちる。
「あれっ、現世と違って、成仏して消えるだけじゃないんだな」
解は魔石を見つめてしげしげと眺める。強力な妖気を感じる。
「最高だな、この世界。どうなってんだ、これ」
解は魔石を拾い、掌で転がした。
「まじかよ。『気』を封じ込めた携帯エネルギー源だぞ。俺の六気操術との相性、抜群だ」
一人、悦に浸る解に向かって永久は問う。
「我流六気操術……その術、どうやって編み出したんです?」
「ナイショ」
解はウインクひとつ。
「普通の高校生が作れる代物じゃないですよね。もしかして師匠も、千年くらい生きて……ます?」
解は答えず、苦笑いを浮かべて歩き出した。
その背中を見つめながら、永久は小さく息を吐く。
中二病みたいにベラベラと自慢させて、術の秘密を聞きだしたかったのだが、そうはいかないらしい。
・二話目です。プロローグはちょっと硬めでしたが本文はこんな感じです。基本的に会話文中心でサクサク読めるエンターティメント作品を目指してます。ゴールデンウイーク中の時間つぶしにお読みいただけたら嬉しいです。しばらくは毎日更新予定です。
面白そうだなと思っていただけたら『ブックマーク』をお願いします。
五話までお読みいただけたらきっと引き込まれると思います!よろしくお願いします。
坂井ひいろ




