03-06 賄賂と貢物は人を狂わす
キラキラとした瞳でブランドショップを見て回るエレーナ・チーバ伯爵令嬢と永久。
解はこういう煌びやかさも必要なんだと少しばかり反省する。
「師匠。いくら温泉地と言っても、キビ村のお土産はベタ過ぎませんか。今時、コケシトとか竹カゴとか……」
すかさず永久に突っ込まれる。
「ちゃんと陶芸家の育成とか、茶の湯だとかも……」
負け惜しみを口にする解。現世の養護施設の児童たちの未来を考えた政策を口にする。
「ワビサビの世界だけじゃ、女子は集まりませんよ。可愛い女の子が喜ぶから鼻の下を伸ばした男子が集うってものです」
「っ……。そう言うのは専門外で……」
「せめてネイリストとかタトゥー師、最悪でもヘアカラーリストの育成ですね」
解の苦手を知り尽くしたうえで、心を読んでマウントを決め込む永久。
「なに、なに。へー、それ、メッチャ可愛いです」
現世のファッショントレンドを意識したネイルやハートのタトゥーを見せびらかす永久。
千年妖狐の妖術は、耳や尻尾を隠すだけではなく、身体にまとうファッションさえ自在に生み出せる。
それに反応するエレーナ・チーバ伯爵令嬢。
「若い二人に我流六気操師も形無しですな」
ガンダール・サーイ伯爵卿の生暖かい目から視線を逸らす解。
少なくとも永久は若くない。それに俺だってまだ十八歳。十分すぎるくらい若いんだが……。
いけいけギャルになった吉澤繭の姿がちらっと頭に浮かんで首を左右に振る。
ガンダール・サーイ伯爵卿はさり気なく伯爵夫人への贈り物をエレーナ・チーバ伯爵令嬢に見繕ってもらっている。
大人の男のダンディズムに自分の青さを見せつけられる解だった。
「解さんはお土産を選ばないんですか。誰か心にとめている人でもいるなら私が選んで差し上げましょう」
「いゃ、その、えっと……」
顔を赤くしてエレーナ・チーバ伯爵令嬢の申し出にタジタジとなる解。
「師匠は戦闘なら最強なんですけど、そういう事は最弱なんですよ。ヘタレ・ボッチ・オタクだから」
楽しい会話を交えて店を出る三人。お土産の紙袋をこれでもかと持って後を追う解。
噴水前のオシャレなカフェ。贅を尽くしたその店の特別客だけが入れる個室に落ち着く。
メイドがお茶と茶菓子を置いて去った後。
「父の目もありますのであのようにふるまいましたが……」
エレーナ・チーバ伯爵令嬢は解の脇おかれた紙袋の山に目をやって、
「ガンダール・サーイ伯爵卿。折り入ってお願いがあります」
と急に真顔になって切り出した。
「父のかつての親友として、あの父を殺すことを手伝てください」
深々と頭を下げるエレーナ・チーバ伯爵令嬢の瞳からポツリと涙が落ちた。
紅茶の芳醇な香りだけが室内をゆっくりと満たしていく。
「ガンダール・サーイ伯爵卿。あの父は本当に私の父でしょうか」
「と、言うと」
「以前から賄賂と貢物のランクで態度を決める様な所はありましたが、志もありました」
解は抱えていた紙袋をそっと床に置いた。
「それが段々とイエスマンの大臣だけを侍らすようになり、黒ローブをまとった男を迎え入れてからはもう別人です」
ガンダールの眉間に深い皺が寄った。
「死霊奴隷が急激に増えて、チーバ街は見違えるように豊かになりましたが、街の外のスラムは膨らむ一方です」
「「「……」」」
「父はあの不気味な黒ローブ男、死霊使を利用していると言ってますが、駒のつもりが駒にされているのは父の方だと感じられて仕方がありません」
「なるほど、しかし領主を失った街は混乱し、今以上に悪くなる。君にそれを統べる覚悟はあるのかい」
「既に政治を引き継ぐ若手の有志は集まっております」
扉があき、先ほどのメイドを先頭に魔気を開放した若者たちが入室し、ガンダール・サーイ伯爵卿の前で片膝をつく。
「私の学友と城外の診療所や孤児院を通じて繋がった者たちです」
冷めきった紅茶に手を伸ばし、一口すすって静かに息を吐くガンダール・サーイ伯爵卿。
「先ずは見極めだな。情報が無ければ為政者としての判断を誤る」
ガンダール・サーイ伯爵卿がもう一口紅茶を口に入れた時、
「っ……」
永久の目から赤い血が流れ出て、頬を伝る。
「どうした永久」
「黒ローブの男を追った式神、蝶花の羽が城塞都市チーバのダンジョンの奥で切り落とされました」
「大丈夫なのか」
「尻尾を失ったトカゲに変化して岩の奥深くに潜ませました。重症ですが生きてます」
「っ……」
こうして、永久と解の二人は城塞都市チーバのダンジョンに潜入することになった。




