03-02 条件は境界の火種の一掃
「やあ、君たち。変わった格好をしているね。どこから来たんだ」
イケおじ紳士風ドラキュラ伯爵は黒マントを翻して、牙をちらりとさせながら笑顔を浮かべる。
「いきなり襲ってこないだけの分別はあるんだな」
解は妖学迷彩の下に隠した妖刀『鬼神解』の柄を握りながら居合斬りのスタンスをとる。
「俺に人間の武器は効かないぞ。ニンニクも銀の銃弾も十字架も聖水もな。陽光含めて克服した」
ドラキュラ伯爵は構えるわけでもなく余裕で立っている。
「それより俺の大事な娘たちが怖がる。その透明なマントを取ってくれないか」
「伯爵様~!大丈夫ですか~」
ニンニク畑でこちらをうかがう二人。ドラキュラ伯爵登場で完全に安心しきっている。
「トランシルヴァニアの田舎伯爵がこんな所で何をしているんだ?」
解は永久に合図して妖学迷彩マントを外すが、戦闘態勢は解かずに妖刀『鬼神解』の柄をチラ見せして尋ねる。
鞘にまとわりつく龍がうねるような闘気を発している。
「これは参った。君たちあっちの住人か?妖刀持ちか。陰陽師の子孫か?」
ドラキュラ伯爵は額をポンと叩く。気の抜けた動作の裏に目だけは笑っていない。伯爵の額に一筋の汗が垂れる。
「いや、我流六気操師だ」
「ほう、今はそういうのが流行っているのか?」
解はその問いに答えず、質問を続ける。
「こっちは長いのか?」
「キリシタンに紛れて長崎の出島に入って江戸観光さ。江戸の陰陽師隊と一戦交えて追放された」
「師匠と同じですね。江戸の陰陽師隊は最強でしたけどね」
永久が横から軽口をたたき込む。質問の応酬に飽きたみたいだ。どうも永久は緊張感が足りないのが欠点だ。
「そちらは有名な九尾狐さんですね。江戸では、ご高名をちらほらと伺いましたよ」
「でへへ。師匠、私、有名人だってさ。狐だけど」
承認欲求が満たされてご満悦の永久。
「城塞都市チーバのA級魔導士はどうした」
「ウルちゃん、アヤちゃん、ノアちゃん、ヒヨちゃん、スズちゃんの五人組かい。時々、血を分けてもらっているよ」
「くっ……、眷属にしたのか?」
解の顔が曇る。一度、妖魔となったものは元には戻せない。
「誤解してもらっては困るな。彼女たちは人間のままだ。吸血鬼は人族の淑女の血がないと生きられないものでね」
ドラキュラ伯爵はニヤニヤしながら続ける。
「動物を殺して生きる罪深き人間に比べたらよほど慈悲深い種族と思わないかい?」
「拘束しているのか?」
「いや、五人でアイドルユニット作るって城で特訓している。血を分けてもらうお礼に若さと活力をちょっと分けてるし」
「そうか。なら、なぜ嫌われる。追放される」
「フフフ。管理できない過ぎた力を権力者は嫌うだろ。我流六気操師さん。君もそうなんじゃないか」
言い当てられて解はふっと息を吐き緊張を緩める。
「師匠、ガンダール・サーイ伯爵卿から森をもらう条件って吸血鬼退治ですよね」
「そうだ。境界の火種の一掃だ」
「ぐふふ。退治したことにして全員キビ村の温泉リゾートで雇いましょう。ダンジョンのショーに派手な魔法を使う魔導士が欲しいってゴウさんも言ってましたし」
「もらった森に引っ越しさせるってことか?詐欺だな。まあ、あの五人が本当に望んでいるならなそれもありか」
「どうせ、城塞都市チーバのカッペーノ・チーバ伯爵なんてクズに決まってますよ。名前がもう……ぐふふ」
「城塞都市チーバのダンジョンはどうするんだ。アンデッド系魔物は刀剣で戦う冒険者じゃ不利だろ」
「もう、城塞都市サーイには変身ベルトや魔法ステッキがあるじゃないですか。それを売ればいいんですよ。共同経営者でしたよね師匠も私も」
途端に悪い顔になる解と永久。
その後、城塞都市チーバのA級魔導士五人組を交えて和気あいあいと一芝居の準備は進められたとさ。




