03-01 女性たちの理想郷
林の中を進む永久と解。
「師匠、チーバに入りました」
「永久、何でわかるんだ?お前、千葉の気相を感じられるのか?」
「気相なんてわからなくても分かります」
「ほら、蕁麻疹が……」
永久は解に赤いポツポツのできた腕を見せる。
「っ……」
そこまで嫌わなくても……。
「師匠、埼玉県民感情、なめてもらったら困ります」
付き合い切れないと解はあきらめる。
「しかし、開けた土地ですね。吸血鬼はお天道様が嫌いなはず……。てっきりうっそうとした森の中かと思いました」
「場所はあっているみたいだぞ。ほら」
解の示した先、畑の中に絵にかいたようなドラキュラ伯爵城。ただし、三角屋根に違和感が……。
「師匠、屋根に十字架ついてますが……」
「そうだな、キリスト教にでも改宗したんじゃないか」
「そんなわけないでしょ」
「まあとにかく、こんな開けた場所では目立ちすぎる。農作業している人もいるみたいだし、永久、これを着ろ」
解は永久に握った手を差し出す。
「はあ?何もありませんが」
「透明マントだが」
「いやいや、いくら何でも見えなすぎって、うっそ、なんかありますよ」
目を凝らしても何も見えない空間に、永久が手を差し伸べると確かに布のような感触がある。
「漫画や映画の魔法世界では必須アイテムだろ」
「そうですけど、ポイって渡されてもですね。何ていうかチートすぎません?どこから手に入れたんですか?」
「妖気を使った妖学迷彩だ。我流六気操術の理論をああして、こうして、それで、うんぬんかんぬん」
師匠は頭が良いのは理解できるが、こと我流六気操術のこととなると空気が読めなくなる。
そんな難しいことを説明されても永久には知らない呪文かお経にしか聞こえない。
狐の耳に念仏状態の永久は右の耳から左の耳にひたすら流す。
「と言うわけで、できたんだ」
「ようするに有名な漫画の光学迷彩のパクリってことですね」
「永久、すごいな。さすが千年妖狐だな。妖気理論をそこまで知っているとは。その通り」
当てずっぽうがドンピシャみたいでちょっと引く。
二人は妖学迷彩をまとって、修道女衣装の若い女性が作業している畑道を歩く。
「あれまっ、ウメさん。立派なニンニクが育ちましたね」
「えぇ、えぇ。キクさん。ここは日当たりがいいですからね。ドラキュラ伯爵様の好物ですからね」
フフフと笑い合う二人の女性の顔は華やいでいた。
「そういや」
解と永久はドラキュラ伯爵城の横にある一本杉まで歩いて陰に隠れ、妖学迷彩のフードを取る。
「話が違いますね。これじゃ十字架もニンニクも効果なしですね」
永久はポケットに隠し持っていた割りばしで作った即席十字架と朝市で買った新鮮ニンニクをポイ捨てする。
「懐中電灯も銀のナイフもダメだなこりゃ」
解はピーカンの青空を見上げる。
「永久、あの二人の犬歯に気付いたか?あの二人の女性は吸血鬼の眷属だぞ。気の流れも人とは異なるし、百歳を超える妖魔に近い」
「師匠、マジすか。お肌真っ白でピチピチ美人でしたよ。吸血鬼の眷属は若い女性で不老不死って話ですよね」
「土の街、城塞都市チーバ。アンデッド系魔物が巣くう土地は作物が育たないと聞く。口減らしの姨捨山の風習があってもおかしくない」
「じゃ、ドラキュラ伯爵は若い女性を襲ってガブってやったんじゃなくて、捨てられたおばあちゃんをカプッてやって若返らせてると……」
永久は頭を抱えて混乱する。不老不死に若返り。すべての女性の願望じゃないか。
「メッチャいい人じゃないですか。てか現世の女性が知ったらみんな陰陽師に頼んで移住してきますね。チーバですけど」
「「ギャー。化け物!」」
畑から、とどろく悲鳴。
妖学迷彩のフードを取って頭だけしか見えない永久と解。
ぷかぷか浮かぶ二つ頭を見つけたウメさんとキクさんの叫びだった。
途端に天を覆う蝙蝠の大群。瘴気が渦巻き気温が下がったかのような緊張が走る。
それらが集結し、人型となって永久と解の前に黒マントの西洋イケおじ紳士が立っていた。




