02-14 私の師匠はお人よし、でもそこがいいんだな~
「では君たちに来てもらった本題に入ろう」
ガンダール・サーイ伯爵は、執事に巻き手紙のようなものを持ってこさせて真面目な顔で切り出す。
「解君。サーイのダンジョンは当分、強力な魔物は現れないと考えて良いのか?」
「おそらく、ダンジョンスタンピードで魔力を使い果たしたと思われます」
解は率直な感想を述べる。
「魔力がダンジョンに満ちるまでは時間があると言うことだな」
「はい」
「私の為にちょっとばかり調査に行ってほしいのだが」
「どのような案件次第かで考えてもよろしいですか?」
「もちろんだ。強制は好まない」
「ありがとうございます」
「では、この場だけの秘密と言うことで話を聞いてくれ」
ガンダール・サーイ伯爵は側近を残して、メイドなどの人払いをする。
「隣接する土の街、城塞都市チーバの領主、カッペーノ・チーバ伯爵卿から協力依頼があってな」
ガンダール・サーイ伯爵は巻き手紙を開いて見せる。
「サーイとチーバの境界付近にドラキュラ城なるものが一夜にして築かれてな、アンデッド系の魔物らしいが少し勝手が違うらしい」
「ドラキュラ城……」
解と永久は顔を見合わせる。現世ではあまりに有名なルーマニアの不死者。
「知っているのか?」
「ええ。こちらのものと同じとは限りませんが。おそらく、同じものかと思います。吸血鬼と呼ばれてます」
ガンダール・サーイ伯爵は勇者の伝説を思い浮かべる。彼もまた非常に物知りだったという。
「吸血鬼……。なるほど、血を吸って眷属を増やすと書いてある。間違いなさそうだな」
「チーバの冒険者では手に負えないと?」
「A級魔導士が全滅したそうだ……。と言うより事態はもっと深刻だ。魔物の眷属にされたらしい」
解の頭の中に現世での苦い思い出が過る。
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ズサッ!
妖刀『鬼神解』が闇夜にきらめく。
邪気に惑わされ、人を捨て妖怪となったばかりの男を切り裂く。もう人には戻れないのだから……。仕方のないこと……。
これが十六歳となって我流六気操術を得た天乃解の仕事。
わかっている。天乃解にしかできない自分の役目。
しかし、人の肉を断つ感覚。血臭に染まる自身の姿。人外と呼ばれる力。
「繭ちゃん。ゴメンな……。俺、もうこんなに汚れちまって……」
天乃解は赤く染まった手に向かって呟いた。
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「城塞都市チーバのギルドも仲間だったものを手にかけることに抵抗があってな」
解はきつく唇を噛み締めて吐き捨てる。
「そうですか。勝手な理由ですね」
「そうだな。冒険者たるものの覚悟が足りないか。解君の言う通りだな」
「師匠、この依頼、断りましょう」
永久は解の過去を知っているからこそ助言する。
しかし、解は止まりたくなかった。だからこそ、放置はできない。
「永久、受けよう。で、ガンダール・サーイ伯爵卿、報酬はどうなるんだ」
「君は何を望むかね」
「どこの城塞都市からの干渉を受けずに、ひっそりと暮らせる森を一つ」
「森か……。わかった。キビ村のそばの森でかまわないか?」
ガンダール・サーイ伯爵は顎に手を当てながら尋ねる。
「それでいい」
「ちょっと待ってくれ。城塞都市チーバの領主、カッペーノ・チーバ伯爵はくわせ者だ。罠と言うことも……」
解の答えに水をさすサーイのギルド長ヨウは苦い顔をする。
「その可能性は高い。しかし、サーイの境界付近である以上放置もできない。魔物にこちらの都合など通じないからな」
「ですが、閣下。サーイとチーバでは住民感情の変な対立もありますし、下手をすればこちらの戦力が削られるだけですぞ。先方の見返りは……」
「ヨウ、聞いているぞ。サーイのダンジョンやキビ村を観光拠点にしたいんだろ。それ故の布石でもある」
「師匠、現世の埼玉と千葉の立場が逆転しますね。ぐふふ」
永久の子供じみた笑いに集合気相の根深さを感じる解だった。




