02-12 ダンジョンは必要悪でした
城塞都市サーイに戻ると街は活気に沸いていた。
前例のないダンジョンスタンピードの恐怖から一転、十万個におよぶ魔石フィーバーで冒険者だけでなく市民もメイン通りに繰り出してどんちゃん騒ぎ。
冒険者ギルド本部執務室に入ると通称髭マッチョことギルド長ヨウは、ギルド職員が積みあげる山のような書類に目を落として決裁に苦悶していた。
「やってる、やっている、二ヒヒ。ざまあみろ」
永久は笑いが止まらない。
「まあ、あれでも現世では総理だし、基礎能力は高いんだから大丈夫だろ」
解は手をひらひらさせながら続ける。
「しかし、まあ。現世の日本は大丈夫だろうか。冨士岡総理、ストレスが溜まってブチぎれてたりして」
二人は顔を見合わせる。その後ろに隠れるD級冒険者ライセンス保持の強欲商人ゴウ。
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その頃、現世の総理官邸の地下に作られた妖魔対策本部。
陰陽師頭領、村井健は冨士岡総理にこってりと絞られていた。
「たかが唐傘妖怪、一匹で渋谷のスクランブル交差点が結界で封鎖されるとか前代未聞だ」
「そっ、総理。妖魔対策が進まないのは、ひとえに九尾永久が裏切ったせいで……」
「お前、それでも村井家の総領なのか?よりによって半妖怪のせいにするとか。恥を知れ!」
「くっ、しかし……」
「日本の妖魔対策本部では手が足りず、ヴァチカンのエクソシストやら各国のシャーマンやらに、幾ら税金を陰で使っていると思うんだ」
冨士岡総理の顔は怒りで赤黒くなる。
「このままでは、日本は関東大震災などなくても、低級妖怪で滅ぶぞ。日本の陰陽師は世界中の笑いものだ」
「くっ……」
村井は歯を食いしばる。あと少し、あと少しで、この老害やろうは失脚する。そうなれば……。
我流六気操師、天乃解と妖狐、九尾永久を失った現世は混乱していた。
陰陽師頭領、村井は何やら企んでいるようだが、それはまだ先の話。異界に話を戻そう。
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「解、戻ったのか。ダンジョンはどうだった」
「吹っ飛んでました」
「はあっ?」
「魔物が揃って飛び出すには穴が小さかったんですね。もぬけの殻でした」
解の報告に髭マッチョは頭を抱える。
「解、お前はこの街に来たばかりで知らないだろうが、魔石経済ってものがあってだな。この城塞都市サーイにとって必要悪なんだよ、ダンジョンは」
「気の流れは辛うじて残っていたので、時間が経てば魔物は復活すると思いますよ」
解は心得てますとニヤリと笑う。
「で、ここにいる超優秀商人のゴウさんが、ダンジョンを管理してエンターテイメントに変えるアイデアがあるそうなんですよ」
「だ、だんな。何、言ってんですか?」
いきなり矢面に立たされる強欲商人ゴウ。冷や汗が背中を一筋タラリ。
「ゴウさん、もう、謙遜とかいいですよ。きっとギルド長だって感動しますよ。なあ、永久。そうだろう」
「しっ、師匠。グフフ。そうですね。私もゴウさんの規格外の構想には、さすがって驚きました」
ニコニコする二人に背中を押されて超優秀商人ゴウは一歩前に押し出される。
超優秀商人?これは独占許可?莫大な利益見込みに強欲商人ゴウの脳内レジスターは吹っ飛んだ。
「超優秀商人さん。ダンジョンはもぬけの殻だったよな」
背中を押しながら耳打ちする解。
「も、もちろんです」
超優秀商人ゴウはゴクンと唾を飲み込んで頷くのだった。
ピエロ男ジャとの戦いを含め一切の出来事は闇へと消えた。
真実は混乱の元となり、混乱は邪気を生む。解はあえて語らず伏せた。
こうして十万個の魔石を資本に城塞都市サーイは冒険者によるダンジョン配信と地下バトルフィールドでの魔物対冒険者のリアル対決などエンタメ都市へと進むのであった。
さすが現世では、内閣総理大臣を務める冨士岡洋の願望の具現化、通称髭マッチョのヨウ。理解力も発想力も半端ない。
山のような書類と承認印をギルド職員に放り投げて押し付ける。
ギルド長は超優秀商人ゴウの企画の不足を補い、段取りを構築していく。
現世の総理の資質が、異界では別の形で開花した。
「師匠、やっぱり餅は餅屋ですね」
「まあな、政治家のサガだな。有権者や対抗政党にいちゃもん付けられず都市計画なんて魅力的な仕事ができる。パラダイスだろうな」
「それじゃ、気相でつながる現世の総理の欲求不満が解消されちゃうんじゃないですか」
「そうでもない。現世より魅力的な異界の存在。永久ならどっちを頑張る?」
悪い顔でグフフと笑う二人。
「おい、そこの二人。こっちは猫の手でも借りたいくらい忙しいのだが、手伝おうとは思わんのか?」
髭マッチョが声をかける。
「俺は戦闘専門なもんで」
「私は猫じゃなくて狐なもんで」
「永久、腹減らないか?」
「師匠、そうですね。お昼も、夕飯もまだですもんね」
二人は連れたって冒険者ギルド本部執務室を後にした。
この世界で人知れず進行する陰謀と、それを操る男の存在、如月創。
解を導く運命とは。その答えを『解くもの』は、まだ知らない。




