02-10 よくも、よくも師匠を
解とピエロ男が闘技場の中央で向かい合う。
解は妖刀『鬼神解』を引き抜き下段に構える。
「っ……。師匠が構えをとるの初めて見ました」
永久は解の本気を知る。
「クククククッ。いいね。ゾクゾクしてくる。それじゃ僕も。妖刀『鬼神邪』を使うとしよう。触れたものを戦闘狂にする一振りだ」
ピエロ男は笑いを堪えながらマントを翻して、手品のように一振りの刀を取り出す。
「クククククッ。驚いたかい、この刀は六振りの姉妹刀として作られたんだよ」
「……」
「改めて自己紹介だ、天乃解。僕の名前は、狂戦士の邪。お前と同じ、如月創の影さ」
ピエロ男は構えもせずに笑い転げる。
「クハハハハハハ。あぁー、おかしい。おかし過ぎて涙出たわ」
ピエロ男の仮面に描かれた涙が赤く染まる。
「さあ、時間も押しているし、時間オーバーで反対側の耳を切り落としたくもないので終わりにしようか」
二人は同時に体内の『邪気』を爆発させる。
一瞬、闘技会場が膨れ上がったかのような錯覚を覚えるほどの『邪気』の嵐は、渦を巻きながら収束して二人の周りをドーム状に超高速で巡る。
その中で掬いあげるように切り上げた解の刀は、鏡ように動く邪の刀と激しく斬り結ぶ。
その速さは異常だが、見た目は武芸の達人レベル。人外と呼べるべきものではない。
「永久さん。なんか、ちょっと……」
拍子抜けしたような顔をするゴウの横で永久はブルブルと震え始める。
「あっし、これでも冒険者の端くれ。助太刀しますわ」
ゴウは懐からナイフを取り出し、邪の視界の陰から投げ放つ。
「無駄なのに……」
永久が止める間もなくナイフは邪に向かって一直線に飛ぶ。
シャ。
「えっ」
空中で一瞬にして消え去るナイフをみて驚くゴウ。
「見えないだけで『邪気』の嵐の中で二人は戦ってる。外部からの干渉なんて神でも不可能なレベルの……」
「っ……」
ゴウの顔からゆとりが消える。
「刀がぶつかった時に、互いに押し合い残像が見えるのは力が拮抗しているって証なんだ」
「くっ……」
ゴウは目をこすって戦っている二人の姿を観察する。確かに滲むように輪郭がブレている。
「体幹がブレてないからゆっくり動いているようにしか見えないけど、その間に数万もの斬撃を加え、いなし、また紙一重で避けている」
「くはっ……」
聴いているだけで眩暈がする。
「さらに数万の対極魔法弾をぶつけ合って相殺する」
「永久さん、もう限界です……」
「弾け飛んだ邪気で嵐の濃度が上がっていく……。音も衝撃も引き込まれてこぼれ出ない空間……」
ゴウは口から泡を吹いて気絶した。
解の頬を鬼神邪がかする。斬れた頬から一筋の赤い血が舞う。
「さあ、狂え、ハハハハ。さあ、もっと、もっと。ハハハハ」
ピエロ男が仮面の下で笑う。
「おあいにく邪神と融合した時点で戦闘狂なんだ」
解の顔が歪んだ笑いを浮かべる。
「鬼神邪の狂気を自らの狂気でいなすとは、狂いきっている。それでこそ如月創の影。フハハハハ」
もはや戦っているというより、踊っているような狂気と狂気の演舞。
ドーム状の邪気嵐が膨れ上がり、バランスを失い弾け飛ぶ。
「まずい!式神、風属性・風花召喚。スキル、花吹雪」
桜の花吹雪が舞い、襲い来る『邪気』を辛うじて受け流す。
『邪気』の嵐の渦をまともに食らった顔のない観客達は一瞬にして骸骨だけになる。
闘技場の石床は『邪気』の嵐で削り取られ、円形の舞台の上に立っていたのは仮面のピエロ男。
男の持つ妖刀『鬼神邪』が解の『左胸』を突き抜け、背中から突き出ている。
ピエロ男の目が永久を捉える。
「師匠ー!よくも、よくも師匠を……」
憎悪の炎が意識の外で永久の心を蝕んでいく。
「クククククッ。九尾永久。最高の顔じゃないか。クククククッ。クハハハハハハ。クハハハハハハ……」




