02-09 永久、床に膝を落とす
解が闘気を纏った光る手の力技で巨大鉄扉を押し開く。中はサッカー場がすっぽり入るような巨大地下スタジアム。
顔のない観客たちが席を埋め尽くしている異様な光景。四隅には不気味な姿の巨大な魔物の石像。
植物系、アンデッド系、海獣・深海系、幻魔系、獣魔系の魔物。
系統の異なるラスボスクラスのモンスターのそれぞれの頭、尻尾、手足をもぎ取って、バラバラのパーツをミックス。
外科手術でむりやり縫い付けたような姿。一目見るだけで吐き気をもよおす悪趣味な造形。
「クククククッ。ようやく来たかー。待ちわびて死ぬかと思ったよ」
スタジアムに響き渡る甲高く耳障りな笑い声。
「ようこそ『狂気』の闘技場へ。クククククッ」
涙マークのピエロの仮面をかぶった紫色の男が一人、中央に立っている。
解と同じくらいの背格好の人型。今までのモンスターとは明らかに毛色が違う。
「だんな、あれがラスボスですかね?なんか普通の人間っぽくて、あんまり強そうじゃないですね」
ホッとして胸を撫でおろす強欲商人ゴウ。
「「……」」
静かに渦巻く『邪気』に解と永久は顔をしかめる。
「クククククッ。さて、ショーには前座ってものが必要だよね」
ピエロがマントを翻す。そのマントは四つの巨大な布となって四方に飛び四つの石像を覆う。
「ぐあああああぁぁぁぁぁ」
マントの下から雄たけびと言うより、苦痛にもがき苦しむような声が響きわたる。
「だんな……」
その一声で生きた心地がしないゴウ。
振り払われるマント。下から現れる縫い傷だらけの異形のモンスター。縫い口から滴る紫色の血が四角い闘技場の石床を濡らす。
「クククククッ。さあ、戦ってくれたまえ。私が作った玩具とね」
ピエロ男の喉の奥で押し殺したような笑いが木霊する。
「狂っている」
解は吐き捨てるように唸る。
「いいねー。最高の誉め言葉だ」
仮面の下から聞こえる声が心をさかなでる。
「師匠!残念だけど、ここで師匠が削られたら、あのクソ野郎まで届きません」
「おい、永久!」
一人、闘技場の中央に駆けだす永久。
「骨くらいは拾ってくださいよ。へへへ」
「クククククッ。素晴らしい師弟愛。ワンダフル。ご褒美が必要だな」
仮面のピエロがマントを翻すと黒い矢が四方のモンスターへと飛ぶ。
シュ!
血だらけのモンスターのそれぞれの片目を正確に射貫いた。
ビシュー。
はじけ飛ぶ鮮血がモンスターの顔を濡らす。
「ぐあああああぁぁぁぁぁ」
猛り狂う四体のモンスターが永久を囲む。
「あぁー。最大火力の焔花を村の守りで置いてきちゃってるし。こりゃ出し惜しみとか無理だわ。全力で行くか」
永久は両手で陰陽道の印をつくり、八本の尻尾を花びらの様に広げる。
「陰陽四行&永久オリジナル全開放」
七本の尻尾が花びらの様に舞う。
「式神、木属性・蝶花召喚。変化、天女蝶姫」
「式神、土属性・豊花召喚。変化、天女豊姫」
「式神、水属性・翡花召喚。変化、天女翡姫」
「式神、金属性・月花召喚。変化、天女月姫」
「式神、雷属性・雷花召喚。変化、天女雷姫」
「式神、風属性・風花召喚。変化、天女風姫」
「式神、氷属性・雪花召喚。変化、天女雪姫」
立て続けに唱えると、それぞれの尻尾は羽衣を纏った天女に変化する。
七人の天女が円状に宙を舞い、四体の異形の魔物に各属性魔法弾を放つ。
まるで夜を彩る花火のような艶やかさが一帯を埋め尽くす。
四体の異形の魔物は『邪気』を含んだ咆哮をぶつけて相殺する。
戦いが拮抗する中、三メートルの白狐と化した永久が縦横無尽に駆け回って顎を振るう。
傷だらけになりながらも、最後に立っていたのは赤く血に染まった白狐だった。
毒々しい色のこぶし大の魔石が四つ転がる。大きさからしてS級魔物に匹敵。
通常ダンジョンのラスボス四体を相手にして、同時に倒した計算になる。
現世で解にしか御せないと言われた、化け物中の化け物の実力を使い果たした永久。
「はあ、はあ、はあ。師匠、残念ですが私の残気はゼロです」
永久は人型に戻って片膝をつく。
「クククククッ。感動だなー。素晴らしいショーを見せてもらった」
貴賓席で足を組んで物見の仮面のピエロ。
「クククククッ。観客の皆さん、彼女に、ククククッ。賞賛を!」
顔なしの観客が一斉に立ち上がってスタンディングオベーション。
拍手の渦から癒しの魔気が流れ、永久を包む。
「だんな、あのピエロ、何がしたいんですかね」
つられて拍手している強欲商人ゴウ。
「遊んでるんだろうな。おそらく奴にとっては全てが娯楽なのさ」
解はボソリと呟き下を向く。
「それよりいいのか、強欲商人。あれ」
解は転がるS級魔石を顎で示す。
「そっ、そうでやすね」
今、気づいたとばかり、ゴウは闘技場をぐるりと駆け回る。
「クククククッ。でも、残念。時間が十分押しちゃいました。これはペナルティーが必要ですね」
ピエロ男は手に持つ懐中時計を懐にしまって、代わりにナイフを取り出す。
全快した永久と解に緊張が走り、一筋の冷や汗が背中を伝う。
ザリッ。
仮面から唯一露出している自分の片耳を切り取って解へと投げる。
「クククククッ。痛いなー。でも時間管理の責任は主催者ですもんね。あー、痛い痛い」
戻って来た永久がその耳を拾う。
「クククククッ。分かります?その赤い血。僕も人間なんですよ。頑張れば僕を殺せるってことです」
「師匠。あれ、ゴッホの真似ですかね。ほんとジャンキー過ぎて、完全に行っちゃってます」
「そうだな。狂い切っている。が、ほおっても置けない。永久、何があっても手を出すな。あいつは俺の獲物だ」
解は一人、闘技場の中央へと向かう。
マントを翻して、宙を華麗に舞って解の前に着地するピエロ男。
「クククククッ。メインイベントだね。天乃解。如月創の影……」
ピエロ男は狂ったように笑い転げる。
「如月創?」
「クククククッ。知らないんだったな。これは失礼。でも僕に殺される程度なら知っても意味ないし。ククククッ。さっ始めようか」
切り取られたピエロ男の耳元から赤い血がドクドクと流れているが気にする様子もない。
「付き合ってやるよ。邪気神、一柱建立、狂
解が丹田に力を込めると、足元に六芒星が浮かび上がり『邪』の文字が光る。
その文字から紫の光の柱が立ち上がり、消えた後に紫のゴスロリ衣装を纏った女児が現れる。
「邪神融合」
女児が飛び跳ねて解の首に食らいつくと解の姿がみるみる紫に変わっていく。瞳は赤く染まり、犬歯が伸びる。
『遊び』と言う名の戦いの幕が上がるのだった。




