02-08 我流六気操師、一柱建立です
ダンジョンの一階層、と言っても右内面は底の見えない奈落へ続く垂直の崖。なんなら空さえ見える。
元居た魔獣系魔物はダンジョンフロアごと吹っ飛ばされたと言っていい。
三人は岩壁を左手に幅十メートルほどの道を進む。
グルルルル。
片目がぶら下ったデッドケルベロス。ダンジョンテンプレ度外視のいきなりの中ボスが行くてをふさぐ。
スチャ。
妖刀『鬼神解』を鞘に納める音が微かに響く。
真っ二つ!
ジュブ、ジュブ。ジュブ。
縦二つに分かれたデッドケルベロス胴体が蘇生し、はい、二匹!
ゴゴー。
一匹は冷気、もう一匹は炎を吐いて攻撃してくる。
「切れば切るほど増えるってか。うざいな」
「式神、土属性・豊花召喚。スキル、土壁」
すかさず尾っぽを展開して防衛する永久。
「感心している場合じゃないですよ。どうすんですかこれ」
「解気神、一柱建立、凪」
解が丹田に力を込めると、足元に六芒星が浮かび上がり「解」の文字が光る。
その文字から黒い光の柱が立ち上がり、消えた後に漆黒のワンピースを纏った前髪パッツンの女児。
テト、テト。ポテ。
「こっ、転びましたよ」
「っ……」
グッ。
「あっ、起きた」
ブワッ。
黒いベールが一帯を包み込むように広がる。
冷気を吐くデッドケルベロスも、炎を吐くデッドケルベロスもそのままの形で制止する。
なんなら、その後ろに控える中ボス、マッドゴーレムも制止する。
「何なんですか。時間止めちゃったんですか」
「いや、凪がすべての運動エネルギーを奪った」
「ゲフ」
「ゲップしてるし、お腹膨れてるし……。でも保護欲をそそる可愛さ」
「師匠の式神ですか」
「いや、正真正銘の神だ。本気を出されたら俺でもかなわない。現世誕生からの神だからな。末席だけど」
「八百万の下級神じゃなくて、本物の一柱」
我流六気操術、そもそもの規格が陰陽道と段違い。
「楽勝じゃないですか!」
「そうでもない。リミッター解除したら世界が止まる。子供の姿で扱うのが限界なんだ」
「でも、師匠。『六気』ってことは、あんなのが六柱もいるってことですよね」
「ああ、でもこの下で待つ膨大な『気』は六柱建立しても、戦略無くして勝てるかどうか怪しい」
「おい。強欲商人。やつらの魔石を抜いて回れ」
完全不可逆的に空気と化す腰引けゴウ。
「簡単だ。こうやって体の中央、ヘソからちょっと下の位置に丹田と言う場所がある。そこに手を突っ込んで、ホレ!」
解は冷気を吐きながら止まるデッドケルベロスの体にズブリと手を突っ込み、握りだした魔石をゴウに投げる。
それを受け取ったゴウの中で強欲の炎が燃え上がる。腰ピーン。
ゴウはスタスタと歩いて炎を吐きながら止まるデッドケルベロスの元へ。
「失礼します」
腕をまくってズブリ。
後ろのマッドゴーレムの元まで歩いて、
「失礼します」
ズブリ。
「ゴウ、これやるよ」
解がおなじみのファスナーを引き、中からポーチ大の革袋を取り出し投げる。
「こっ、これは無限収納袋……」
「アッザス」
ゴウはそれを受け取り魔石を回収して回った。
「しかし、だんな。デッドケルベロスとマッドゴーレム、系統の違う魔物が同時に出現するなんてこのダンジョン、ほんま狂ってますわ」
「そうなのか?」
「街道にミノタウルスが出現するとか、ハグレサラマンダーが廃墟城に巣くうとか、最近の城塞都市サーイの周りは少しおかしいんですわ」
「答えはこの下にありそうだ」
解は縦穴を睨みつけて考え込む。
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何はともあれテト、テトと歩く解気神一柱、凪の後ろについて中ボスの魔石を抜き取り、ダンジョン攻略は順調に進んだ。
ように見えるたが……。
「ゲフー」
「凪の腹も限界だな。永久、ここから先は大ボスのオンパレードみたいだし、二人で行くぞ」
解の言う通り、凪の姿は最初に比べてパッパッに太って見える。でも、それゆえにむしろ可愛い。ゆるキャラ感が増している。
「えっ、二柱目とか」
「あんまり手の内を晒すのはちょっとな。おそらく最後に待っているラスボスすら誰かの手下だ」
解はダンジョンの底を睨みつける。
「様子をうかがっているんだよ。こちらの戦力を。遥かかなたの別のところでね」
「師匠と対等の大ボスを使ってですか?」
「気の流れがそう言っている」
凪を六芒星に戻して、三人は駆けた。




