02-06 変身ベルトはいりません
ここは城塞都市サーイを囲む高さ三十メートルの城壁の上。
髭マッチョことギルド長ヨウを筆頭に所属冒険者約千人が立ち並ぶ。
ドドドドドドー!
城壁前の丘を、土煙を上げながら駆け下る津波のような魔獣の群れ。地をかけるもの、這うもの、空を飛ぶもの。十万の軍勢が迫ってきていた。
「よし、全員、変身だ。迎え撃つぞ」
髭マッチョの掛け声で冒険者が一斉に変身ボーズを決める。城壁の上は年末特撮映画の『歴代戦隊ヒーロー大集結!』さながら。
頼もしそうにはしゃぐ童心帰りの強欲商人ゴウの横で解はボソリと呟く。
「うーん。俺、やっぱ変身ベルトいらないかな」
「アイタタ、師匠、私もです」
強欲商人ゴウのレジスターは逆回転。さっきの説明は徒労に終わり、見込んだ売り上げが霧散する。
バッタにカブトムシ、スズメバチに蝶。昆虫だけでなくトラや蛇、サルや牛。カボチャやダイコンなんてものも。それがズラリ千人。
一人一人を見ればそれなりにカッコいいのかもしれないが、コンセプトも何もない集団はもはやハロウィンの仮装行列&ゆるキャラ。
「乱戦にでもなったら敵味方の区別すら危ういな。魔物と間違って同士討ちがおきるな」
もはやあきれ顔の解。
ドドドドドドー!
「師匠、あれだけの数だと、私でもさばき切れませんよ」
ドドドドドドー!
「ダンジョンの状態も知りたいしな」
ドドドドドドー!
「髭マッチョ!九割削れば、残り一万。なんとかできるか」
「一万なら通常のスタンピードと変わらないからな……」
「永久、変身しろ!」
「私、ベルトなんて持ってませんよ」
「妖狐になって、ゴウを乗せろ」
「こんなに派手なら目立ちませんものね」
永久は三メートルを超える真っ白な狐に変化する。尻には八本のモフモフ尻尾が揺れる。
一本足りないのはキビ村防衛に、最大戦力の式神、焔花を置いてきたから。
作り物じゃない本物の造形美に見とれる強欲商人ゴウ。
そんなゴウを口に加えて、ひょいと背中に乗せる。
「いくぞ」
状況が飲み込めないゴウを無視して、解と妖狐は十階建てのビルの高さから飛んだ。
「はえっー」
ザン!
解と妖狐の着地点はクレーターのように凹み、二十センチほどの土砂が吹き飛ぶ。
「いい高さだ。永久、後ろに回れ」
解は居合の構えを取って腰の妖刀『鬼神解』の柄を握る。
丘を下りくる獣魔とその後を飛び迫るボスキャラ、ゴールドドラゴンが一直線上になった瞬間を狙って一振り。
ズザザザーン!!!!!
一陣の風が舞い、十万の魔物を含む、地上三十センチの高さで世界がズレた。
蛇系など高さの低い魔獣は首を失い、ケルベロスなどの中くらいの高さの魔獣は胴体真っ二つ。ミノタウルスなどの高めの魔物はひざ下を失う。
そして丘の稜線から体を出したボスキャラ、ゴールドドラゴンの首はコトリと落ちた。
一撃でスタンピード、ほぼ殲滅。
城壁の上のギルドマスターを筆頭に変身冒険者全員唖然!
「髭マッチョ!戦闘力は削ったから、とどめと魔石拾いをよろしく!」
汗一つかかず、返り血の一滴も浴びず、涼しい顔で振り向いて手を振る解。
「化け物……」
膝をガクガクさせるA級冒険者ヨウ、冨士岡総理そっくりの顔に追い打ちストレス。
「報告書もよろしくね!」
ウインクを一つ飛ばしてから前に向き直る。その顔はいつになく真剣そのもの。永久に緊張がはしる。
「永久、ダンジョンの様子が知りたい。突っ走るぞ」
「師匠、了解です」
シュッ。
ゴウを乗せた三メートル級の白狐姿の永久と解の姿は一瞬にしてかき消えた。
後に残るのは魔獣たちの阿鼻叫喚の地獄絵図と、死に絶え光の粒が集った魔石の山だった。




