02-05 強欲レジスターは止まらない
ガーン、ガーン、ガーン、ガアーン。
城塞都市中に響き渡る鐘の音。
「師匠、何の音ですかね」
「だんな、永久さん。これは不味いですね」
「どうしたんだ。強欲商人」
「ダンジョンスタンピードが発生したみたいです。それもかなり大規模な……」
「ダンジョンから魔物があふれ出して襲ってくるってやつか?」
解はおにぎり魔石を横目で見て唇をかむ。その一瞬を永久だけが見逃さず心にとめる。
「冒険者ギルド総出で防衛線を張ります。だんな方はまだ説明を受けてないと思いますが……」
「師匠、とにかくギルト本部に行きましょう!」
解と永久、ゴウの三人は武器防具屋を出て冒険者ギルドへ走る。
「それぞれの『気』はそれほどじゃないが、十万くらいの『邪気』が……、洪水みたいに……」
「師匠、ヤバそうですね」
「十万なんてそんな。いつもは一万も……。だんな、ギルドはやめて逃げましょう」
方向転換するゴウの首根っこを掴んで引き留める解。
「おっと、お前も冒険者だったな」
「だんな、E級は冒険者って言わないんですよ」
「そうか、じゃ、行っていいよ」
あっさりとゴウの襟を掴んでいた手を放して不敵に笑う。
「……」
商人ゴウの頭の中の強欲レジスターは再びフル回転。
十万個の魔石に埋もれる自分の姿が頭をよぎる。
しかも、目の前には中ボスクラスのB級魔物サラマンダーを瞬殺した男と、同じくB級魔物ミノタウルスを瞬殺した童女。
チーン!
「ハハハハ」
渇いた笑いを浮かべて眼光が戻る。
「あっしがパーティの仲間をほって逃げるわけないじゃないですか」
「師匠、即席パーティ、解散したんじゃ……」
「まっ、いいじゃないか。さっ、ギルド長の泣きべそ顔を拝みに行こう」
「ぐふふ。冨士岡総理の泣きべそですか。現世では一生見れなそうですね。カメラに残せないのが残念です」
「あるよ、カメラ」
無限収納ファスナーを引いて、手を突っ込みスマホ状の板を取り出す。
「くっ、土蜘蛛の魔眼カメラ。いつの間に完成させて……」
「何ですか、それ?」
「ゴウさん、カメラ知らないんですか。目の前の景色を取り込んで記録する機械ですよ」
カシャ!
「ほらこんな感じです」
永久はゴウに画面を見せる。
「誰このブ男?」
「……ゴウさん、鏡観たことあります」
「そんな贅沢品、市民は誰も持ってないが……。必要なしい」
「……。そうですね。必要ないですよね……。はあ、平和だわ」
永久は大きくため息して気を取り直す。
「そんなことより師匠、研究なんかしている時間なんてなかったはずですよ」
「永久、時間は作るもんだからな」
「この異常者!そんなチートすぎですよ。何なんですか我流六気操術。時間を自由にできる術でもあるんですか?」
「……。どうかな。万能ではないけどな……」
「うっそ!あるんですか?」
永久の開いた口は塞がりそうにない。
「師匠、人間やめてますね。それじゃ泥棒し放題……。それより時間止めて、永久にいやらしいこと……したとか」
大通りで市民が逃げ惑う中、顔を赤くしてジト目で解を見上げる永久。
「するか。無限収納ファスナーの中は『時空の狭間』だって説明しただろ。こっちで言う魔力、現世では気。その力で空間だけじゃなく、外界との時間もコントロールできるんだよ」
「マジっすか!」
「漫画やアニメじゃ扱いが雑なんだよ。入れたものが腐らないとかテンプレ化しているし。ちなみに昨晩の熱々ラーメン、あれな一年前に出前したやつだ」
「作者も師匠だけには言われたくないんじゃないですか……」
黙って横で二人の掛け合い漫才を聞いている強欲商人ゴウ。
頭の中の強欲レジスターの回転はもは、やとどまるところを知らず。
チーン!
チーン!
チーン!
「だんな。あっしには、だんなしかおりません。人生かけてお供いたしやす」
「師匠、そんなことより妖怪百鬼夜行見物じゃなくて、えっと、ダンジョンスタンピードに行かないと美味しいとこ髭マッチョのギルド長に全部さらわれますよ」
「そうだな。せっかく現世の冨士岡総理の欲求不満を募らせたのに、派手に活躍されて解消されたら面白くない」
魔石の『気』が互いに引き合うなら、この世界の魔石のバランスを崩せば『歪み』の本質辿りつく……。
「やるしかないか」
解はこぶしを握り、小さく呟く。
三者三様の欲望をたぎらせて、ポンコツパーティの面々は城塞都市サーイのギルドに向かって走り出した。
ガーン、ガーン、ガーン、ガアーン。
城塞都市に鐘は鳴り響く。
ドドドドドドー!
城門の方から聞こえ始めた地響き。阿鼻叫喚で逃げ惑う人々。三人を除いた危機感のボルテージは上がっていく。




