02-03 変身ベルトはちょっとカッコいい?
翌朝、再びギルドへと足を運ぶ解と永久。昨日と違って冒険者達でごった返している。
「だんな、置いてきぼりって、そりゃあんまりですよ」
昨日、次元大蛇のS級魔石を金貨に換金し、さらなる欲望を抱いて朝一番からギルドの出入口を見張っていた強欲商人ゴウ。
「商人にはもう用はないけど」
解に軽くあしらわれる。もう慣れたとばかり、めげずに食らいつく。
「あっし、これでもD級冒険者ライセンスもってまして。スライムとかコボルトなんてギッタギタですわ」
「ふーん?ミノタウルスでビビって気絶したくせに」
「あんなダンジョンの中ボスクラスは普通、街道なんかに現れないんですよ。ギルドで護衛雇っても商隊全滅ですわ」
「……」
この男を連れていれば、世界を知るのに少しは役立つかもしれない。金さえ払えば何でもやりそうだし。使いっぱには持ってこいかも。
解は悪い顔で笑った。
「師匠、もう何でもいいですから、早くサラマンダー退治に行きましようよ」
クエスト掲示板に向かって走り出す永久。
「ジャーンプ」
張り紙をチェックする冒険者の人垣を飛び越えて垂直の壁に土足で着地したかと思うと、ペリっと一番上の変色した紙を剥がしてぴょーん。
一瞬で戻ってくる。サル並みの身体能力。狐だけど。
「師匠、サラマンダーの張り紙ゲットしました。とっとと受付しましょう」
受付の冒険者の列の最後に並び飛び跳ねて元気に張り紙を振る。
「ギャー!ギルド長~。来ました。お願いします」
昨日の受付嬢、顔面蒼白。
ひょい。
男に襟をつかまれて引き上げられる永久。
「離せ。この脳筋……、えっ、嘘!なんでー。冨士岡総理……」
「フジオカソウリ?知らんな。俺はギルド長のヨウだ。通称髭マッチョ。お前か、大切な案山子を消し去ったっていうのは」
「ふへへへ。ぶった切ったのはあちらで……」
永久はすかさず解を売る。
永久は現世で内閣総理大臣、冨士岡洋が大の苦手だった。
忘れたくてもトラウマになるような、いかつい顔と恐怖の針金無精髭、そして名前が同じ『ヨウ』。
『気相』なんてわからなくても完全一致で脳が警告をならす。
ジョリ、ジョリ。
チク、チク。
「ぬぐっ……。髭刺さってるから、もう頬ずりやめてー、現世と同じじゃん」
「親父……、はあぁ」
ため息ついて項垂れる解。傲慢で自分勝手。現世の総理と繋がる『気相』。
「おっと失礼、二人とも、どこかで会ったような気がしてつい。この街で唯一のA級冒険者、ギルド長のヨウだ。よろしく」
差し出されたいかつい手を見て戸惑う解。顔は同じだか現世の総理は脂肪たっぷんのいかにも体系だった。
多少偉いみたいだが、ギルド長では現世と比べて『格』がちっさい。
内閣総理大臣、冨士岡洋の内在する願望の具現化だとしたらどんな意味が……。
「俺も行こう。お前らの実力を確認したいし、久しぶりのB級魔物退治、正義の心が疼く」
勝手に解の手を取って、がっしりと握手する。やっぱり現世同様に暑苦しい。
と、言うことで解、永久、ギルド長ヨウとおまけで雑用係りの強欲商人ゴウ。
土蜘蛛退治でAランク冒険者を失った城塞都市サーイのギルドに久しぶりのA級冒険者即席パーティが誕生したのだった。
通称髭マッチョのヨウはニコニコだった。これで他の城塞都市のギルドに高い金を払ってA級冒険者を借りずに済む。
しかし、会ってみてその若さに愕然。未成年に童女とあっては自分の目で実力を確認しないわけにはいかない。
ギルド長のヨウはぬか喜びで済ますほど、無責任じゃなかった。
城塞都市から歩いて半日。打ち捨てられた古城の中でハグレサラマンダーと対峙する三人。柱の陰で怯える一人。
「もう、既視感とか超えて、完璧実写版アニメですね。まんまですもん」
緊張感ゼロの永久。
ぐおぉぉぉー。
口から火炎を吹き出し威嚇するB級魔物。
そこへ髭マッチのギルド長がいきなり前に出る。
「いくぞ!変身」
革ジャンの上着をまくると腰に巻かれたぶっといベルト。中央に設置された魔石の中で風車が回る。
「くっ、有名すぎる特撮ヒーロー……。師匠、中二病ですよ、ギルド長は……」
唖然とする永久。
毎日のようにテレビのニュースに真面目顔で登場する冨士岡総理を知っている永久にとってコメディーというより、もはや恐怖。
その横で冷静に分析する解。
冨士岡洋。『よう』の字の別の読み方は……。ポンと手を叩く。
「同名コンプレックスかよ」
あの堅物が、子供じみたヒーロー願望を持っていたなんて、グフフ。
それはさて置き、極太ベルト、よく考えれば理にかなっている。
我流六気操術の基本は『気』。『気』はヘソ下十センチほどの『丹田』に溜まる。
その生命の根本、経絡の中心である『丹田』への経路で一番太いのが胎児に栄養を運んだ『へそ』
変身ベルトの魔石の位置は正に、そのヘソの真上だった。子供向け特撮ヒーローと侮っていたが……。
ギルド長の姿は、あのヒーローを模した様なカブトムシみたいな昆虫的フォルムの全身着ぐるみに。ちょっとかっこいいかも。
ぐおぉぉぉー。口から火炎を吹き出し威嚇するB級魔物。
いゃ、違う。あの二本のギザギザの牙は……、ノコギリクワガタ……。
ぐおぉぉぉー。口から火炎を吹き出し威嚇するB級魔物。
いゃ、あの襟首のハリ出し、もしや、ミヤマクワガタ。くっ、芸が細かいじゃないか。
ぐおぉぉぉー。口から火炎を吹き出し威嚇するB級魔物。
「うるさいなー、もう。今、考え中なんだよ」
スチャ。
妖刀『鬼神解』を鞘に納める音が微かに響く。
「「「へっ」」」
永久もギルド長も強欲商人も二の句が継げない。
一瞥もせずにB級魔物サラマンダー、真っ二つ。
十メートル以上離れているのに頭から尻尾まで綺麗に二等分。完全、モブモンスター扱い。
サラマンダーが光の粒となって小石大の魔石に変わる中。
「よし、俺も帰ったら変身ベルト作ろっと」
解の呟きだけが古城内に響くのだった。




