第26話 ジオラマの列車
「ジオラマでは、蒸気機関車による最後の試運転が終わり、これから主役の列車が登場します!列車の運転時刻はジオラマ前に掲示しております。電気機関車と、紅いディーゼル機関車の長年に渡る活躍の最後を飾り、ジオラマでも列車が走ります!」
と、しおりさんがSNSに先ほどまで走っていた蒸気機関車D51のオイラン列車をアップする。
最も、アップしたのは留置線に入る入換中のD51で、これから走るのはEF15電気機関車の貨物列車だ。
爺さんの鉄道模型屋から借りて来た物と、自前の列車と多数の列車が走るとなれば、ジオラマ内の留置線にはとても収まり切らない。そこで、またも自分のジオラマには不要な部分の活用だ。
ジオラマのメインの駅の、コールサックトンネルへの上り急勾配の反対側に本線と別に、白鳥座X1ブラックホールのホーキング輻射を模したトンネルがある。設定では、コールサックトンネルから白鳥座X1ブラックホールのホーキング輻射までは見えない区間としているが、これを流用し、ホーキング輻射のトンネルを、車庫線や準備線と言った、ジオラマの裏舞台に通じる回送線として、ジオラマの中の留置線に留置しきれない列車を、ジオラマの外の留置線や準備線へ回送するために使用した。そして、ここから客車を回送する際に蒸気機関車を走らせる。
午前中。例のさよなら列車が来るまでは2時間程ある。その2時間の内1時間は完全に自分の趣味の列車だが、残りの1時間はDD51重連とEF64重連、EF65。例の列車が来たらDD51とEF64のプッシュプルとなる。
プッシュプルに関しては、今日の列車に何号機が就くかによって決めるが、DD51に関しては842である事は既に確定しているので、分からないのはEF64の方だ。
EF15の貨物列車、EF57の普通列車(旧客)、EF58の急行列車(12系客車と10系寝台車、スロ62)を前座として走行させ、店に来たチビッ子たちは(何これ?)と言った表情を浮かべながらも、列車を見てキャッキャと言っていたのを見ながら、DD51重連をジオラマの機関区で入換し、EF57の普通列車に使用した旧型客車と連結し、EF57を機関区の扇形庫に入れ、EF58の急行列車と入れ替わりで走らせ始めようという時、嫌な奴等が来たのが見えた。
「何か言ってきても、毅然とした態度でね。そもそも、蒸気機関車のイベントじゃないのだから。」
「それを言われると、自分の趣味全開の前座も―。」
「電気機関車なのだから、問題ない。」
「売り言葉に買い言葉?」
「違う。拡大解釈よ。」
等と、しおりさんと笑い合いながら、DD51重連を走らせ始める。
紅いディーゼル機関車の重連は、自分の作った銀河鉄道の世界へ向かって走り始める。その様は、町の裏の水道山から見た、街の灯りの中から星空へ向かって行くDD51のように見えた。
「あっいたいた!りのちゃんだ!」
と、頭のおかしな男が店内を走り、ジオラマを見ていたチビッ子たちを押しのける。チビッ子の1人は跳ね飛ばされて転倒してしまったが、謝りもしない。
「遊びに来たよ!りのちゃん!」
別の逝かれた男。
大体、親しくも無いのに、「ちゃん」と呼ばれる事が気に食わない。そもそも、「りのちゃん」なんて、自分が一番嫌う呼び方だ。
それを聞き流しながら、次の列車に関する入換作業だ。
EF65による、混結客車の列車なのだが、これは先ほどまでEF58の急行列車だった客車との入れ替わりになり、EF58は機関区に入り、一部の客車は車庫線に入る。
車庫線からD51蒸気機関車がやって来ると、D51は逆引きで急行列車の10系客車と12系客車の混結編成から、10系客車を切り離して車庫線に持って行く。その様を見て、うるさい事をいう連中は蒸気機関車が走っている事を確認したのだが、後から来たうるさい教師は納得していない。
「なぜこちらに蒸気機関車が居ないのだ。」
と、グズグズ言い始めた。
でかでかと、「電気機関車とディーゼル機関車のさよならイベントなので、蒸気機関車はあまり走りません」と案内しているのだが、バカには見えないようだ。
「朝は走っていたのですがねぇ。」
と、自分は面倒臭いと思いながら言う。
それでもまだグズグズ言い始め、終いには「今すぐ走らせろ」等とバカげたことを言う。それに怒って自分は何か言おうとしたが、それよりも先に、それまで黙っていたしおりさんが、
「前橋理尾鳴のジオラマにケチを付けないでくれませんか。」
と言った。
「このジオラマは、「ベーカリーステーションレンガ」と「JR東日本」「犬童模型店」の共催により、前橋理尾鳴さんが制作した物です。そして、そのコンセプトは、「紅いディーゼル機関車の列車が走る銀河鉄道」というコンセプトです。このジオラマはJRの紅いディーゼル機関車や電気機関車のさよならイベントに合わせて作ったものであり、そこに蒸気機関車が入り込むのは、場違いと言うものでは無いでしょうか?」
「いや、あんたの話はどうでもいい!とにかく蒸気機関車をだな!」
「では、ディーゼル機関車と電気機関車のさよならイベントに合わせて作ったジオラマなのに、どうして蒸気機関車でなければならないのでしょうか?」
「銀河鉄道の夜の列車は蒸気機関車だからだ!」
「なぜ銀河鉄道の夜になるのでしょうか?そして、銀河鉄道の夜のどこにそのような事が書いてあるのでしょうか?宮沢賢治本人も、作中で「この汽車は石炭を焚いていない。アルコールか電気だろう。」と言っております。銀河鉄道の夜の列車は蒸気機関車ではないと言うのですよ。」
「とにかく君は引っ込んで―。」
まだぐちゃぐちゃ言う。
もうイベントが始まる時間で、JRの職員も売店の準備をしようと店内にやって来ているし、お客さんも増えて来ている。なのに、こう怒鳴り散らされて、喧嘩になってしまっては、さよならイベントが最悪の形にされてしまう。
どうするかと思った時だった。
「ごちゃごちゃうるせぇよ!機関車トーマスを見たいなら、大井川鉄道か富士急ハイランドに行け!」
と、誰かが怒鳴った。
「なんだ?あんたらジオラマ製作者の学校の教員か?まったく教員って野郎はどいつもこいつも、テメエの主義主張を押し付けて、それが通らなきゃ暴言や暴力で押し付ける。共産主義者や社会主義者の温床だな。ここは共産主義国家でも社会主義国でもねえんだ。俺は気が短いからな。5秒以内に出て行かねえと、テメェら全員ぶっ殺すぞ!おらぁ!1、2の、3!」
「3」の段階で椅子を蹴飛ばすと、ズコズコと、教師と頭のイかれた連中は店を出て行った。
「すみませんでした。変な場面になってしまった挙句、手を煩わせてしまって。」
と、自分は、そのお客さんに頭を下げる。だが、妙だ。どこかで会ったように思うのだ。
「いやぁ、こっちも見ていて頭に来たので。それに、自分がやらなかったら、相方の女の子が何するか分かったものでは無い状態だったので―。」
お客さんは横目で、眼鏡を掛けたお下げ頭の女性を見ながら言う。
先程までは物凄い殺気を放っていたらしいが、今は落ち着いた様子だ。
(あれっ?)
と、自分は思った。それは、昨日、都会の駅の機関区に居た女性だったからだ。
「紅いディーゼル機関車ことDD51は、あいつも好きな機関車でして。なので、今日と明日のさよなら運転は見たいと。ただ、今日は電気機関車が先行なので、先にこちらのイベントを見て、後から近くの鉄橋で撮影しに行こうと。」
男女のカップルらしい客。だが、この場合、男性が鉄道好きで女性が付き合わされている事が多いが、このお客さんはその逆らしい。




