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第25話 イベントの日はさようならの日

 イベント前日、自分はかなり強引な行程で、都会の駅まで行く。


 都会の駅に行き、改札を抜け、機関区が見える場所まで歩くと同じ事をしている人達がいた。


 ネットの情報を見るとDD51は今日、都会の駅の側線での入換作業をしていて、その入換仕業を終えて、機関区の端の留置線に戻って来るDD51を狙う。


 引退と言うが、旅客列車から引退というので、事業列車や構内の入換機関車としては残る可能性はあるが、それもGV‐E197系気動車の重連で賄えるし、元はと言えば、事業列車用にGV‐E197系は誕生したのだから、その可能性はゼロと言え、用途不要になる事に変わりない。


「ゴゴゴゴゴ」と、ディーゼルエンジンの音が聞こえ、DD51が留置線に戻って来た。DD51‐895号機だ。だが、DD51‐842の隣の留置線に一瞬だけ止まった895は、短い汽笛を鳴らして、自分が撮影している踏切の方へやって来る。


 踏切警報機が鳴り、踏切を通過するとそこで止まり、操車係がポイントを操作。


 それは、検修庫に入る線路だ。


 895号機はそのまま、検修庫に入る線路に入り、検修庫に完全に入り切る手前で一旦停止して、そのまま検修庫に入ると、踏切が開いた。僅かにいた同業者は、その線路に集まる。

 見ると、女性もいた。それも、小汚い地味な女ではなく、お下げ頭に可愛らしい眼鏡娘だった。隣には、その彼氏と見える男もいた。


「あっ。」


 と、眼鏡娘が言う。

 そして、自分はファインダー越しに見たくない物を見てしまった。


 検修庫の中で、DD51‐895から、都会の駅の機関区に所属している事を示す札が抜かれ、代わりに、回送札が挿されたのだ。そして、回送される日も一瞬見えた。それは、来週の夜だった。


 検修庫のシャッターが降りる。895号機は見えなくなってしまった。代わりに、留置線で842号機が、明日と明後日のイベントに向けて準備している様子が見え、自分は帰路に着く。


(ああ。本当に、もう終わりなんだ。)


 と、思った。


 都会の駅に戻る際、機関区沿いの公道を歩いていると、後ろから紅いスポーツカーと紺と青の中間のようなブルー系の色のスポーツカーがやって来た。

 同じ形に見えるが、よくよく見ると紅い方はTOYOTAなのに、ブルーの方はSUBARUだった。面白い事に、ナンバーを見ると、紅いTOYOTAは51‐842。ブルーの方は64‐1001だった。


 2台は近くの新幹線の高架下のラブホに入って行った。横目で見てみると、紅いTOYOTAは先ほどの眼鏡の女性がドライバーで、ブルーのSUBARUの男性ドライバーも一緒なのだが、眼鏡娘が無理矢理、嫌がっている彼氏を引っ張り込んでいるようだった。


(コスプレなのか、或いは偶然なのか。そして、逆だよな。男が女を連れ込むって場面で、逆に女に連れ込まれる男ってね。)


 と、自分は苦笑いを浮かべた。


 翌朝、自分は朝の陽ざしを浴びる川の畔を歩いて、駅前のパン屋に向かう。

 川向うの商店街の中には、先日、しおりさんと一緒に行った銭湯がある。


(いよいよか。)


 銀河鉄道の夜の世界を再現して製作した自分のジオラマをお披露目するという事で、楽しみにしていたイベントの日。だが、それが終われば、EF64電気機関車、そして、紅いディーゼル機関車DD51は旅客列車から引退してしまう。


 鴨が川の水面を泳ぎ、その下を鯉が泳いでいる。

 クッキーを餌として川に投げ込んでやると、バシャバシャと鯉や鴨がそれを食べる。

 用水路と川の本流が分岐する堰を通過し、通りを歩いて駅前のパン屋に着く。

 自分の家からなら、メインストリートを爺さんの模型屋の前を通って行く方が近いのだが、なんとなくだ。


 出勤時刻の15分前に出勤し、着替えてタイムカードを押すと、しおりさんが既に来ている事に気付いた。


(しまったな。)


 と思った時、


「だぁーれだ?」


 と、背後から目隠しされる。紅いディーゼル機関車の汽笛のような声で直ぐに分かったのだが、


「分からないです。胸が大きな美人の年上女性。」


 と、ふざけて見せた。


「リオナ。おはよ。今日はイベント!頑張るよ!」


 と、しおりさんは笑顔で言う。昨日、自分がDD51‐895が用途を失った瞬間を見たのを知っているかのようだった。


「はい。えっと―。」

「じゃあ、商品棚に焼けたパンを陳列!」

「はい!」


 しおりさんが指示を出し、商品棚である大きな木のテーブルに焼きたてのパンを並べて行く。

 それが終わると、開店だ。

 手を洗って、自分はしおりさんや他のスタッフと、店の奥のイベント用スペースにジオラマを設置する。そして、予め持って来ておいた車両を用意し、パワーパック等の必要機材とジオラマを接続し、電源を入れる。


「ジオラマに関しては、りおなが詳しいでしょうから、りおなが見ていてね。あと、イベント列車が来たらブログ用とSNS用の写真もね。それから、自分用も。」


 と、店長のおばちゃんは言い、


「しおりちゃんもジオラマ担当よ。」


 と、しおりさんが自分の助手として付くと言った。


 店内の有線でベートーヴェン交響曲第6番「田園」第1楽章が流れている中、自分は早速、ジオラマに蒸気機関車D51によるオイラン列車を走らせる。ジオラマの線路は単線のため、一度に走らせる事が出来る列車は1本だけ。そのため、ジオラマで運転する列車の時刻表をしおりさんに頼んで作ってもらった。こうすることで、時間によって様々な列車を走らせる事が出来る。


 ちなみに、序盤に蒸気機関車を走らせるのは、しおりさんが考えた目くらましだ。こうすることで、後でうるさい奴等が「なんで蒸気機関車がいない!」とか言ってきても、「朝は走ってました。」と言えるからだ。


 天気は良い。

 今日はそれなりに人出があるだろう。



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