第24話 イベント前週
「要らない部分なのに?」
と、しおりさんは首を傾げる。
「ええ。要らない部分だから、ふとアドリブみたいな形で思い立ったことをやってみようと思うのです。それに、失敗してもどうせ要らない部分なので、自分の世界は崩れません。」
閉店の2時間前。
ほとんどのパンは売り切れ、観光客も少なくなった今、自分は、碓氷峠をテーマにした歌を口ずさみながら、ジオラマに手を付けて行く。
「ジオラマ担当ブログ担当スタッフりおな。ジオラマの製作中。何か思いついたようです。EF63と歌っていますが、さて、どうなるのでしょう?来週のイベントで公開になりますので、お楽しみに!」
と、しおりさんがSNSにその様子をアップした。
それを横目に、自分は、不要な部分にEF63と189系特急「あさま」を置く。
特急「あさま」は自前の鉄道模型だ。
「えっ?」
と、しおりさん。
「不要な部分ながらも、トンネル手前に碓氷第三橋梁を模したレンガ造りのアーチ橋梁があり、ここを天の川がキラキラと光りながら流れています。しかし、ここを走る列車の姿が無いのは、あまりに寂しいなと思っていた所、このような光景を見ました。」
自分は、昨日撮影したDD51重連が虹のかかる鉄橋を渡っていく写真を見せる。
「今から、ジオラマを作り直すことは出来ませんが、一箇所、余計な部分がありました。それが、不要な部分。つまりコールサックトンネルへの急勾配区間です。設定上、この急勾配があるため、蒸気機関車はこの世界にはほとんど居ないということにしてあります。実際には違いますが。しかし、不要な部分で負のイメージがあっては、自分の世界も暗くなってしまいます。だったら、狩勝実験線では無いですが、ふと思い立ったことを試す場に転用しようと思い、このように手を加えました。」
「ふーむ。紅いディーゼル機関車もここには重連でも入れないから、客車列車はEF62が牽引し、EF63の力を借りる。電車や気動車も同じくEF63の力を借りる。その設定は崩していないけど、ちょっとさ、「あさま」ってのがねぇ。EF62は無いの?」
「本当なら、そうしたいのですが、EF62は所有しておりません。ジオラマに置いてあるのは、EF62もEF63も全部、爺さんの模型屋からの借り物です。」
「ここさ、単線区間でしょう?」
「ええ。」
「で、「あさま」は2両しか見えない。だったら、「あさま」の必要があるここ?碓氷峠を模しているってことで、「あさま」にしたのでしょうけど。」
「-。」
「そもそも、ここ単線で、傍から見たら上りか下りか分からないでしょう?確か、碓氷峠を通る列車の場合、補助機関車が峠の下に来るように配置される。つまり、峠を降るならEF62の前にEF63が連結されるけど、峠を登るなら、EF62がEF63の前に来るよね。リオナの今の感じだと、要らない部分を走れない紅いディーゼル機関車のDD51重連の代わりにEF63の重連を、星の光で輝く天の川の橋の上に置いたって事だよね?だったら、なにも「あさま」にこだわる必要はある?」
「-。」
「ほらまた世界観崩した。」
「-。」
「で、また黙ってばっかり。少し反論しなさい。それも出来ないの?」
「碓氷峠を再現したジオラマではなく、銀河鉄道を模したジオラマです。しかし、昨日見たDD51重連が虹のかかる橋を渡る光景を、銀河鉄道の世界に活かせないかと思い、今回、このような試みを行いました。」
「峠のシェルパ歌ってた時点で、嫌な予感がしたけど―。そもそも、碓氷峠じゃないのに、EF63を入れたのは、うるさい奴等対策。私言ったよね。うるさい奴等に占拠された、リオナの世界なんか見たくないって。まぁ、今回の「あさま」に関しては、リオナが考えたからいいけど、でもこの世界において「あさま」である必要はあるのかを考えて。確かに、昨日見たっていう紅いディーゼル機関車が虹のかかる橋を渡る写真は綺麗だよ?でも、無理にそれを再現して、変な事になったら、意味ないじゃん?まぁ、再現して失敗しても大丈夫な部分がEF63の場所だったっていう事で、そこにDD51重連を入れなかったのは偉いし、最低限、世界観を守ってはいたけど。」
「少々、考えが甘かったです。」
と、自分は肩を落とす。
ジオラマの事で、しおりさんに怒られるのはこれで2回目だ。
「甘すぎ。でも、アイディアとしては良い。私ならこうする。」
と、しおりさんはEF63重連に12系客車を連結し、橋の上に置く。EF63の反対側はトンネルになっており、客車列車はEF63に押し上げられてトンネルに入って行くように見える。
「客車列車の多い世界でもあるのでしょう?」
と、しおりさん。
それに自分は頷いた。
「なら、これが良いと私は思うけどどう?「あさま」が良いならそれでいい。決めるのは、リオナ。」
「-。この方が良いです。」
自分はそれを見て頷いた。
「世話が焼ける。」
と、しおりさんは苦笑いを浮かべた。




