6-5
オレリアスは、クイを椅子に座らせながら、
(そうか、少しは俺が怖いのか。)
と思った。
けれど、そうだからといって、別に落胆まではしていない。
(腰が抜けるほど怖がらせてしまったのに、「少しだけ」とは、なんて気丈な女性なんだ。)
オレリアスは、改めて、クイに感心していた。
クイは、結婚相手として申し分ない。
ただ、クイと同じ灰色の目をした不審な男の存在だけが、オレリアスの心に影を落としていた。
(あの男は、クイの何なのだろう?)
それを明らかにしなければ、先に進めない気がする。
ちらりとクイを見ると、彼女はまだ、うつむいている。落ち着きなく、自分の手を握ったり離したりして、なんとか自分を取り戻そうとしている。
オレリアスは、椅子を引き寄せてクイのそばに座ると、覚悟を決めて、
「クイ。私は、君に話していないことがある。」
と、切り出した。
「?!」
すると、クイは、ぱっと顔を上げた。
灰色の目が、オレリアスを見つめている。
(何の関係もないと言ってくれ。)
オレリアスは、祈るような気持ちを隠して、
「クイ。細身の、灰色の目をした男を知らないか? 君がウテリア領に来た日から、外界を荒し回っているんだ。」
と打ち明けた。
「!」
クイは、驚いた表情を見せると、いくらか目を泳がせて顔を伏せた。
(……ああ、知っている。クイはあの男を知っている。)
その確信に、胸が焼けた。
(あの男は、クイの何なんだ?!)
だが、クイは、黙ったまま、何も言い出さない。膝の上の手をきつく握り、体を小刻みに震わせて、必死に何かを考えている。
(そんなに大切な人なのか?)
すると、クイが再び顔を上げた。
「私! 全部お話します。でも、その前にお願いがあります!」
「お願い?」
「はい。私と剣の手合わせをしてください。」
「は?」
「私と戦ってほしいんです!」
「……え?」
「あの! 私、いろいろと足りていないんですけど、その辺も全部ひっくるめて、オレリアスに知ってもらいたいんです!」
「……何が?」
全然意味が分からない。けれど、クイは、
「着替えてきます。」
と、勢いよく立ち上がった。
「待て! 逃げる気か?!」
「いいえ! 私は逃げたりはしません!」
また、あの強い目。
「本当に、逃げないんだな?」
「はい! 全部を知ってもらうまで、私はどこにも行きません!」
オレリアスは、小さく息を吐くと、
「……分かった。」
と、こちらが折れることにした。
たぶん、今のクイは、逃げたりはしない。
オレリアスは、クイを伴って会議室を出ると、隣接した部屋の物置から、小さめの兵士の服を取り出した。何をしたいのかわからないが、これなら、ローブよりも動きやすいだろう。
そして、仮眠室に誰もいないことを確認してから、
「ここで着替えてくれ。」
と、クイに服を手渡した。
「はい、少し待っていてください。」
仮眠室の扉が閉まると、オレリアスは、事の成り行きを見守っていた二人の兵に伝令を出した。声を潜めただけで、兵たちに緊張が伝わる。
「今から、ゴドウィンとスフィアを訓練所に呼んできてくれ。訓練所には、兵を潜ませて待機。ひきつづき、この辺り一帯を厳重に警戒してほしい。」
「分かりました。」




