第7話 化けの皮
【文久三年 八月十日】
勘吾と同期入隊した佐々木愛次郎は、島原で知り合った女性、あぐりと交際し京の町を歩いていた所、芹沢と連れの佐伯と出くわす。芹沢が
「いい女じゃねえか。俺によこせ。」
と詰め寄ると、佐々木が
「おなごが嫌がってますので・・・」
と手を繋ぎ二人で走り去って行く。芹沢が
「あの小僧!平隊士のくせに生意気な!」
と怒りだし、佐伯に
「又三郎!奴を殺して女を俺の所へ連れて来い!妾にしてやる!」
と指示を出す。だが佐伯は
(芹沢局長には悪いが、あの女は俺が頂く。)
と一人企んでいた。
後日、佐伯は佐々木に
「芹沢局長があぐりを狙っている!早く隊から離れろ!」
とそそのかすが
「それでは脱走で切腹ですよ?」
と断ると
「助勤の俺が何とかしてやる!早く行け!あぐりが殺されてしまうぞ!」
と唆すと、佐々木は取り敢えず朱雀小路にいるあぐりの所へ行く。
何とかあぐりが無事だとわかり、
「芹沢局長がそなたを狙っている。早くここから逃げよう!」
とあぐりの手を引く佐々木だったが、藪の中に何故か佐伯と新見、平間がおり、佐伯が
「こいつ!脱走する気だ!」
と大声で叫ぶと、佐々木が
「違う!あんたが逃がせと・・・」
と言ってる間に佐々木が佐伯に
「黙れ小童!天誅!」
と斬り捨てられてしまった。それを見て卒倒しそうになるあぐりだったが、新見と平間に
「あとはお前がやれ。」
と言い残し去って行くと、佐伯が
「へっへっへっ、ようやく邪魔者がいなくなったぜ。お嬢さん、俺とやろうぜ!」
とあぐりを強引に引っ張って連れ出し、朱雀の藪の中であぐりを押し倒すと、あぐりは舌を噛み死んでしまった。
「ちっ!芹沢の前に楽しもうと思ってたのによ!」
と藪の中にあぐりを置き去りにし去って行く。だが、この様子を偶然見ていた新入隊士の川島と宿院が近藤と土方、山南、そして芹沢と先に帰った新見にいち早く報告する。すると芹沢が
「あの屑が!」
と激昂する。近藤と土方は、佐々木の師匠である松原にも報告すると
「愛次郎の奴!・・・俺に殺らせてください!」
と頼むが、土方に
「落ち着け!私闘は隊規違反だ!愛次郎の死は無駄にはしねえから堪えろ!」
と説得し、松原をなだめる。
そして佐伯が屯所に戻ってくると、芹沢が
「佐伯い!」
と佐伯に対して怒り出す。すると佐伯が
「ちょ!ちょっと待って下さい!何故俺が?」
としらを切るが
「おめえあぐりをやったそうだな!」
と激昂し佐伯に襲いかかると、近藤が川島と宿院を連れて
「こいつらが全部見てたぞ。おめえ愛次郎を殺ったそうじゃねえか!」
と佐伯を蹴飛ばし、土方も
「局中法度も覚えてねえのか?このさぼり魔が!切腹だ!」
と追い詰めると、佐伯が
「た、助けてくれえ!」
と稽古中の勘吾達に泣きつこうとするも
「てめえ!忠司の弟子に何てことしやがった!」
「汚ねえ手で忠司に触るな!」
「呆け茄子が!」
「恥を知れ!」
「武士の風上にも置けん!」
「壬生浪士組の面汚しが!」
「稽古もさぼって散々威張り腐りやがって!」
「平の俺達に泣きつきやがって!それでも助勤か?!」
と散々に言われ、一目散に逃げ出す佐伯に土方が
「全員追え!絶対捕まえろ!壬生浪士組の恐ろしさを思い知らせてやれ!」
と勘吾達に命令すると、勘吾が狩って持って来ていた束に縛っていた無銘の刀一本を佐伯に投げ付けると、佐伯の左肩に命中。出血しながらも逃げる佐伯を勘吾達平隊士達が追いかける。すると佐伯は何故か通りかかったとある浪士と出くわし泣きを入れていた。
「久坂さん!どうかお助け下さい!奴らは気違いばかりで・・・」
と話している所を勘吾や助勤達総勢二十名に見つかり、
「あ!いや、これはだな。その・・・」
と言い訳していると、今度はその浪士を見た島田が
「こいつ!長州の久坂玄瑞!てめえ!長州の間者だったのか?」
と言って佐伯を林達別動隊に任せ、勘吾達は佐伯が言い訳していた隙に逃げた久坂を追う。だが、久坂を取り逃がしてしまった勘吾達だったが、林達も
「佐伯が鴨川へ飛び込んで逃げやがった。」
とこちらも取り逃がしたようだった。指揮を執っていた藤堂が
「両方とも探せ!俺達まで切腹させられるぞ!」
と二手に分かれて京を探索し始めた。すると、勘吾達がいる組が鴨川の方でずぶぬれの血まみれになった佐伯が浪士数名に殴られているのを目撃する。
「貴様等!何者だ!」
と原田が叫ぶと、浪士達は逃げていった。近づくと佐伯は既に死んでいたが、奥沢がその時浪士達が発していた台詞をしっかりと記憶し
「この役立たずが!芹沢の腰巾着も勤まらんのか!」
と言っていたと話す。佐伯の死体を戸板に乗せ、屯所まで運ぶ勘吾と林、川島、奥沢。この事を別の隊に報告しに走る山野と別れて取り敢えず佐伯の死体を近藤と土方、芹沢の所へ運んでいき、顛末を伝えると
「こいつも間者だったのか!して、久坂は?」
と勘吾達に聞くと
「今、林や原田先生、藤堂先生方別の隊で行方を追っています。顛末は山野が報告しに走りました。」
と報告すると、近藤が
「もうよい。全員連れ戻せ。今回はこいつだけでいい。」
と久坂を追っていた林達を呼び戻すよう川島を走らせた。まだ壬生浪士組は、久坂を捕らえる程の力を持っていなかった。この様子を楠達がにやにや笑いながら見ていると土方が
「貴様等!何故出動しなかった?原田や藤堂達助勤も出動したんだぞ!」
と問いただすと荒木田が
「俺達国事探偵方ですから。俺達の仕事じゃないんで。」
と開き直るが
「貴様等の任務は長州を筆頭とした不逞浪士の情報収集と偵察の筈だ!久坂が出て来たと言うのに何故動かん?!お前ら今まで何やって来た!」
と怒鳴り散らすが新見に
「こいつらにはこいつらのやり方があるんだよ。その辺にしとけよ副長さんよ?」
と荒木田達を庇う。そして
「土方君。君は副長。私は局長。何か問題でもあるのか?」
と藪睨みすると土方は
「ほお、ならば聞くが、奴等六人がこれまで上げてきた報告は?俺も山南も近藤も何一つ聞いていないが?決定権はあんたにあるが、人事は俺達副長の仕事だ。奴等がそれ相応の働きをしないのであれば、国事探偵方は廃止にして只の平隊士として扱わせて貰うぞ?こないだの初稽古でうちの平隊士に勝てた奴があの六人の中で一人でもいたか?それすら出来なきゃ奴等は平隊士より下の下郎や茶坊主でもいいのだが?弱くて仕事もしねえ輩はこの壬生浪士組にいらねえからな!」
と凄むが新見は
「たったの一回勝っただけだろ?次やれば・・・」
と話している間に土方は
「次はねえ!言い訳している間に今日久坂を取り逃がしたんだ!てめえの指示不足のせいでな!俺達は浪士だ!明日がねえ事くらいわかってるだろ?次なんて言ってる間に殺されるのが弱い浪士だ!あの佐伯の屑みてえにな!」
そして土方が
「じゃあその次ってのはおめえさんだな?新見。おめえが刀持って暴れてた姿なんて見たこともねえがな!おめえらの中でまともに刀握って戦ってんの、芹沢局長と平山だけだろ?野口は稽古してっから許せるが、おめえと平間のじじいはどうなんだ?まさかうちの平隊士より弱かねえよな?」
と詰め寄ると
「俺は局長の仕事で忙しいんだ。お前らとは訳が違う。」
と逃げようとすると、新見は屯所に残っていた沖田、永倉、斎藤、井上に囲まれ
「因みに局長の仕事ってえのは何ですか?芹沢局長は交渉や接待、近藤局長は隊をまとめていらっしゃる。あんたの仕事は?」
「あんた神道無念流の道場に「通ってた」だけで「習得した」訳じゃないんじゃねえですかね?」
「・・・実は刀で人を斬った事すらねえだろ?見りゃわかる。」
「どうなんですかい?芹沢先生!新見先生は刀で人斬った事あるんですかえ?」
と四人で詰め寄ると芹沢が
「?ねえよ。そいつは御託並べて手を汚さねえんだ。道場の片隅で弁達者で利用出来そうだったから連れて来た。それだけだ。」
と正体を暴かれる。それでも新見は
「じゃあ俺と勝負しろ!誰でもいい!」
と話すと沖田が
「だから毎日稽古やってるじゃないですか?あんたが勝負しに来ないで逃げてるだけだろ?」
と図星を突くと
「ええい!今に覚えておれ!」
と言い残し逃げようとするも斎藤に
「・・・さっきの沖田の話の答え、まだ聞いてませんけど?あんた弁でも逃げるおつもりですか?」
と静かに睨むと
「俺の仕事は局長!それだけだ!」
とどんどん答えがなくなっていくと土方に
「つまり名前だけの局長とでも?芹沢さん!こいつこのまま局長に居座っててもいいんですかね?!あんたと同格だとほざいてますよ?」
と芹沢に振ると
「新見。今からお前は平に降格だ。この役立たずが!」
と局長自らの命で降格させられるのであった。
史実では新見は勘吾が入隊した頃には平に降格していますが、ずらしています




