第6話 大坂相撲との乱闘
【文久三年 六月三日】
勘吾達新入隊士が入隊して早二ヶ月の月日が経っていた。楠や馬越の仇、松永達六人は、近藤から国事探偵方として京を離れていた。また、永倉から
「奴ら六人は神道無念流を使っている。恐らく水戸か長州の可能性が高い。芹沢に付いているのは水戸者を装っているようにも見えるが、そちらの方言で話してはいない。やはり長州者なのでは?」
と近藤や土方、山南に伝えていた。
その日の夕方、大坂での任務を終えた芹沢鴨、平山五郎、沖田総司、永倉新八、原田左之助、、井上源三郎、野口健司、山口一から名を改めた斎藤一が、酷暑の中勤務していた為、夕涼みをしようと小舟に乗って淀川を下っていると、斎藤が突然
「腹が痛い。」
と申し出た為、芹沢が
「ちっ!この足手まといが!しょうがねえ、何処かで休むか。」
と鍋島河岸で舟を降りると、一人の力士と芹沢の肩がぶつかる。その男は大坂相撲の力士で、小野川部屋の熊川熊次郎であった。その熊川に対し芹沢が
「どけ!側に寄れ!」
と威嚇するも
「何だと?俺様に対して寄れとは何だ!」
と反論する。芹沢が鉄扇で熊川の肩や身体を払いのけると
「貴様!何をする!」
と巨体の熊川が芹沢に襲いかかると、芹沢が何と熊川を斬ってしまった。芹沢が
「おら!どけよ豚野郎。」
と出血する熊川を殴り倒すと、沖田、永倉、原田、井上が
「芹沢さん。やり過ぎですよ?」
「たかが道の譲り合いでガキみたいに。」
「相手は相撲ですよ?」
「何も斬らなくても。」
と文句を言うが、野口が
「すみません。俺が代わりに謝りますから。」
と四人に頭を下げると原田が
「俺達に謝れても、この相撲どうするんだ?血だらけだぞ?」
と野口に問うと平山が
「俺達で何とかするから先に行け。芹沢さん何するかわからねえぞ。」
と四人は小舟から斎藤を降ろし、芹沢の後に付いていくと、平山が野口に
「よし、行ったな。後はあいつらのせいにすればいい。」
とニヤリと笑う。舟を降り、再び大坂の料理屋で休もうと北新地の蜆橋を渡っていると、また別の力士が芹沢と遭遇し
「またか豚野郎!どけ!」
と威嚇すると、その力士は芹沢に襲いかかる。今度は熊川より巨体の力士だったが沖田達四人と平山、野口が全員がかりで力士を止めようとすると、
「おめえら、しっかり押さえてろ。」
とその巨漢の力士に馬乗りになり、ボコボコに殴打する。
「芹沢さん!もういいじゃないですか!相手は動けませんよ!」
と沖田が説得すると芹沢が
「豚共が!以後、我ら武士に無礼すなと伝えよ!」
と言って伸びている力士に唾を吐き捨てる。
それから四十分後、北新地の住吉楼で酒を飲んでいた八人だったが、その住吉楼の周辺が騒がしい。夜風に当たろうと体調の悪い斎藤が障子を開けるとそこには、血だらけの熊川と角材を持った小野川部屋の力士達三十人が住吉楼を包囲し
「貴様等!熊次郎達に何をした!」
と完全に怒っている。芹沢が斎藤を除いた七人に
「行くぞ。」
と睨み付けドスの利いた声で命令すると、平山と野口が
(・・・しょうがねえ。)
と刀を持ち芹沢に付いていくと、野口が
「すみません。あんたらも加勢してくれませぬか?お願いします。」
と四人に頭を下げると永倉が
「どうしてお前が謝るんだ?」
と野口に尋ねると
「俺は下っ端ですし・・・昔からああいう人なんです。俺達にも止められません・・・」
と諦めた表情で沖田達に頼む。すると永倉が
「お前も不本意にやらされてんだな・・・しょうがない。行くぞ。だが芹沢の為じゃない。頭を下げたお前の為だ。」
と四人は芹沢の所へ加勢しに行くと、既に芹沢と平山で角材を持った力士四人を斬ってしまっていた。だがその背後から
「てめえら!何者だ!」
と沖田に襲いかかるも、沖田達は鞘から刀を抜かずに残りの力士二十四人の頭に面を撃ち込む。住吉楼の門前で倒れる二十八人の巨漢力士達。芹沢が逃げていく二人の力士に対して
「俺達は誠忠浪士組!京の治安を守る俺達に無礼であるぞ!」
と言い放ち、持っていた瓢箪を倒れている力士に投げ付け、酔っ払いながら去って行く。一緒に付いていった平山も振り返りながら沖田達に無言で頭を下げると沖田も
「あいつも野口と同じか・・・面倒な奴に無理矢理付き合わされてんだな」
と察し、沖田と永倉はその後、芹沢一派との橋渡し役をやろうと心に決めた。この事件は
【大坂角力事件】
と呼ばれた事件である。この大坂角力事件に対して大坂西町奉行所が動き出し、内山彦次郎という人物が現れる。後に壬生浪士組と因縁を持つ人物である。この内山という人物は、倒幕派志士と結託して米価や油の値を吊り上げているという疑いをかけられてると大坂へ出張していた沖田達の報告が入っていたため
「無礼打ちでしょう。」
と丸く収めようとするが、内山は近藤や土方に対し高圧的な態度で
「この田舎侍共が!」
とあくまで小野川部屋側の肩を持つような、或いは壬生浪士組を悪役にするような見下した目線で詰問し、取り合わない。すると、小野川部屋の親方が弟子達と共に金五十両と酒樽を贈って謝罪しに来ると、芹沢が開き直り
「我らは京の治安を守る誠忠浪士組!この金を献上物としてもらい受ける!」
と言って金五十両をその場で横取りし、八木邸の奥へ引っ込んでしまうと沖田と永倉が
「局長が無礼をして申し訳ない。ここは一つその酒で酒宴といきましょうぞ。」
と提案すると、力士達も渋々乗り、和解の証として手打ちの酒宴が開かれて壬生浪士組隊士達と飲み明かす。この様子を見ていた勘吾は
(俺だったらあんな横暴な芹沢の為になんか頭下げられねえな。この力士達も可哀想に。沖田先生も永倉先生もあんな奴の為によく・・・)
と思いながら酒を飲んでいると、馬越が勘吾のとっくりに酒を注ぐ。
「蟻通君。何をお考えで?」
と尋ねると勘吾が
「何であんな奴の為に沖田先生達が頭下げてんだ?おかしいだろ?」
と馬越と話していると、平間が
「ただ酒だあ!おめえら!じゃんじゃん飲め!」
と勘吾と馬越の身体に千鳥足でもたれかかると
「貴様!」
と怒りそうになる勘吾を馬越が諫めようとすると、平間が
「よお、俺にも酒注いでくれよ。お嬢ちゃん。」
と腕で馬越の肩を寄せようとすると馬越が払いのける。すると平間が
「んー?お前いい匂いがするではないか?それにこの華奢で柔らかい身体。お前もしかして・・・」
と話してる間に勘吾が怒りだし
「馬越から離れろ!糞じじい!」
と喧嘩腰になると、八木邸の奥で既に酔っ払っていた芹沢に
「いいぞ!やれやれ!」
と煽り出す。勘吾は平間に殴りかかろうとすると、林、尾関、安藤に止められ
「馬鹿野郎!手出したらお前が切腹だぞ!」
「堪えろ!蟻通!」
「奴は酔ってるだけだ!挑発に乗るな!」
と制止されると、勘吾は手を緩める。すると沖田が
「こいつは俺の隊の奴なんでね。俺が謝りますよ。」
と名乗り出る。沖田は芹沢のお気に入りの隊士である。勘吾は
「何であんたが謝るんだ?!無礼を働いたのはこのじじいだぞ!」
と再び怒り出すと沖田がボソッと
「いいから黙ってろ。俺達も同じ気持ちだ。」
と勘吾を諭すと永倉も芹沢に
「さあさあ、奥でゆっくり飲みましょうや。」
と八木邸の奥へ芹沢を連れて行く。遠くでは阿部や佐伯、馬詰親子、楠達六人がこの様子を見てへらへら笑っている。勘吾も沖田に連れられ別の場所へ移動し、飲み直していると
「芹沢達は近いうちに何とかする。だから奴らの一派が何を仕掛けようが堪えてくれねえか?」
と勘吾に小声で頼むと
「あいつらもですか?」
と勘吾も小声で阿部達をちらっと睨むと
「ああ。約束する。だから堪えろ。土方さんや山南さん、俺達助勤に任せるんだ。」
と説得すると、勘吾が
「わかりました。それより明日あんたと立ち会いたい。俺の隊の組長がどこまで強いか知りたくてね。」
と沖田に挑戦したい旨を話すと沖田はにやりと笑い
「面白い。乗ってやる。だが馬越との稽古でわかっていると思うが、俺は手え抜かねえぞ?」
と勘吾に釘を刺した。
翌朝の稽古でその勘吾が沖田に挑んでいた。それを観ていた土方や助勤達に
「ほお、面白い奴だな蟻通は。あの総司に一歩も引かぬとは。」
山南も
「いい隊士がこっち側に入って良かったですね。根性も座ってるし今後が楽しみだ。」
と感心してるものの、勘吾は沖田の三段突きに素手で挑んでいた。沖田に
「竹刀持てよ!素手で俺に勝てると思ってんのか?!」
と怒鳴られるも
「あんたの刀狩れなきゃ話にならねえんだよ!来い!」
と言って沖田に向かって行くのであった。そして遂に沖田の三段突きの三の突きを真剣白羽取りで奪い、沖田から一本取ると、それを見ていた近藤や土方、一緒に稽古していた隊士達に
「御見事!」
と一同拍手する。沖田も
「お前は俺の組から離さねえからな!頼むぞ!壬生浪士組の刀狩り!」
と賛辞を送るのであった。




