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第4話 壬生狼左右の牙

 入隊早々新入隊士二十五名は、局長近藤勇、副長土方歳三や他の副長助勤達も交えて早速稽古に入るが、芹沢鴨、新見錦は高見の見物をしている。勘吾は気に入らなかったが、近藤勇と一緒に素振り等の稽古に励んだ。そして、一組ずつ立ち会いを行う事になった。土方や山南、副長助勤達が新入隊士二十五人に自ら相手をする。


先ずは藤堂平助と川島勝司


「何だそれは?もっと脇を締めろ!」


続いて井上源三郎と宿院良藏の壮年対決


「ほお、歳の割りに腕は鈍ってないようだな。」


と評価を受ける。次は山南敬助と山野八十八


「貴公、筋がいいな。だがまだ修行が足りぬ。精進せい。」


と厳しめの評価を受けるが勘吾は


「へえ、副長相手になかなかやるじゃねえか。」


と感心している。続いて島田魁と尾関雅次郎の剛腕対決に全員が見入る。あの巨漢の島田を相手に一歩も引かない尾関に土方が


「それまで!尾関!この島田と力で渡り合えるとはな。貴様を旗持ちに任命する。励め!」


と高い評価を受け、早速壬生浪士組の肩書きをもらった。更に続いて林信太郎と永倉新八


「相当やるな。だが永倉は浪士組きっての使い手だ。励めば副長助勤も近いぞ。」


とまた高い評価を受ける。次は河合耆三郎と隻眼の平山五郎。芹沢一派だがこの稽古に加わっている。


「何だそのへっぴり腰は!相手は片方見えねえんだぞ!」


と尻を叩かれる。続いて安藤早三郎と芹沢一派の野口健司。これは


「野口!貴様副長助勤だろ!相手が壮年とはいえ新入隊士にそのざまはなんだ!!」


と逆に怒られていた。今度は奥沢栄助と原田左之助


「剣では及第点だ。だが原田の本職は槍だ。せめて剣では原田に勝てるように励め!」


とそこそこ評価を受ける。次いで尾形俊太郎と土方歳三


「ほお、貴様もやるではないか!だがまだまだ!続けて相手してやる!次の者!前に出でい!」


土方は続けて立ち会うようだ。中村金吾が前に出ると


「甘い!」


と速攻でいなされると、佐々木愛次郎が


「こんなもの軽い!軽い!」


と笑いながら弄ばれると、弟の蔵之介も


「貴様等兄弟揃って修行が足りん!次!」


と簡単にやられる。次はその弟子をやられた松原忠司が前に出る。すると土方が


「貴様は柔術だったな。竹刀は好きに使えい!柔術も使って良い。」


と言い放つと、松原が


「きええい!」


と竹刀を振り下ろすと、土方が軽く交わす。すると松原が竹刀を捨て、土方もまた竹刀を捨てると、松原の三角締めが土方に決まる。


「それまで!貴様相当やるな。よし、貴様は次の出動で手柄を立てたら副長助勤にしてやる!励め!」


と新入隊士の中で最高の評価を受ける。次は勘吾と山口一。勘吾は確認として


「俺も松原みたいに竹刀途中で捨てますよ。」


と確認を取ると、土方が


「いいだろう。ただし言っておくがこの山口は「壬生狼・左の牙」とこの壬生で呼ばれている強者だ!油断するでないぞ。」


と忠告を受け竹刀を構えると、山口の様子が異様な事に気付く。


「ほお、あんたは左利きか。山口先生。面白い。来い!」


と勘吾は山口と同じく左利きの構えに竹刀を持ち代える。


「あいにく俺は両方出来るんでね。遠慮しないで来い!」


と勘吾が挑発するが、山口はゆっくりと勘吾を見定めているようで動こうとしない。両者睨み合ったまま全く動かないこと二十分が経過。ここで一匹の蠅が二人の間を横切ると同時に、勘吾と山口両方の竹刀が互いの胴を突き、両方とも倒れる。


「もう一回だ!今のはあいこだ!もう一度立ち会え!」


と両者構え直す。そして土方の掛け声と共に山口が勘吾の面に竹刀を振り下ろすと、勘吾は竹刀を地面に突き立て、山口の竹刀を真剣白羽取りで奪った瞬間竹刀を拾い、二刀流で山口の喉元に罰の字に当てると


「それまで!」


と声がかかる。周囲は


「すげえ・・・あの山口から剣を奪うとは・・・」


と勘吾に脱帽する。だが土方は


「確かに山口から剣を奪ったお前は凄い。だがその戦い方は隊をまとめる副長助勤は勤まらない。余りにも無鉄砲過ぎる。実力は買うがまだまだだ。精進せい!」


と釘を刺された勘吾だったが、ここでようやく山口が勘吾に話しかける。


「・・・俺は壬生浪士組三番隊組長・山口一。まさか左で俺と互角に渡り合えるなんて思っても見なかった。・・・貴公の持って来た刀を一本俺にくれ。友の証として使ってやる。」


と言って勘吾の担いできた大量の刀から一本脇差しをもらった。


「あんたも相当の達人じゃねえか!よろしく頼む!あんたとは長い付き合いになりそうだな。これは俺の勘だけどな。」


と握手を交わす。実際にこの山口とは長い付き合いになっていった。


そして馬越三郎と沖田総司が立ち会う。立ち会い前に沖田が


「これが天然理心流・平清眼の構えだ。」


と竹刀を横に寝かせると


「来い!」


と馬越を誘う。馬越は沖田に向かっていくと、簡単にいなされてしまう。沖田が


「刀で斬るな!身体で斬れ!」


と馬越を怒鳴ると、馬越が鋭い突きを入れようとする。だがその前に沖田の必殺技・三段突きが馬越の胴を勢いよく突き、馬越が倒される。土方が


「それまで!まだまだ修行が足り・・・」


と話していると馬越が起き上がり


「まだまだあ!」


と沖田に向かっていく。何度も沖田に軽く返される馬越だったが、その度に簡単に身体中叩かれ、美男子の身体がみるみる腫れ上がっていき、土方や近藤が制止しようとするも何度も立ち上がる。土方が


「もういいと言っているだろ!」


と言っても


「まだまだあ!」


と叫んで聞かない。沖田も


「稽古熱心でいいじゃないですか?好きなだけやらせてあげましょうよ。」


とへらへら笑いながら馬越の竹刀を簡単に返してしまう沖田だったが、沖田が倒れて起き上がろうとする馬越の「何か」に気付き、馬越の突きを食らう。だが沖田はびくとも動かず


「気が済んだか?」


とわざと馬越の突きを食らったようで


「わ!私を舐めるなあ!」


と今度は沖田の額に面を食らわす。沖田が


「これで終わりでいいだろう?」


と額から血を流しようやく馬越が納得する。勘吾や林、尾関が


「馬越!お前そこそこ強いな。」


「見直したぞ?」


「あの沖田さんから一本取るなんてな。大した根性だ。」


と小兵の馬越を抱えようとする尾関に


「触るな!一人で歩ける!」


と手を払う。勘吾が


「馬越?どうした?」


と心配すると、馬越はよろよろ歩き、井戸で顔を洗う。土方が


「壬生狼の右の牙と呼ばれる総司にあそこまで向かっていくなんてな。大した奴だよ。」


と話していると勘吾が


「ああ、なるほど。右の牙が沖田先生で左の牙が山口先生か?」


と納得していると沖田の様子がおかしい。土方が


「どうした?総司。稽古じゃ手を抜かないおめえが珍しく遠慮しやがって。」


と尋ねると


「あ、ああ、いいや。何でもねえっす。」


と何か感づいたようだ。その沖田が感じた「何か」が後に勘吾と壬生浪士組を揺るがす事になる。


 一方、この稽古で立ち会いに参加していない新入隊士達がいた。彼らに土方が


「おい!そこの九人!何で稽古しねえんだ?」


と問いただすと


「芹沢局長からやらなくていいって許可もらってますよ?」


と取り合わない。すると沖田が


「ふっ、おめえらこの馬越に負けるのが怖いんだろ?まあ、こいつらの足下にも及ばねえんだろうな!」


と挑発すると、その九人が


「無礼であるぞ!貴様等のようなひよっこ相手に用はないと言うことだ!」


と反論すると、勘吾達他の新入隊士達が


「無礼であるのは貴様等だろうが!幹部の皆様に何て口叩きやがる!」


と激昂すると、土方に


「俺達新入隊士の中から九人選んで下さい。こいつらと対抗試合がしたい。これは稽古だ。私闘にゃ入りませんよね?」


と提案すると


「いいだろう。お前ら!この中から九人選べ!これは命令だ!それとも貴様等、士道に背く気か?」


と追い詰めると渋々


「・・・まあいいでしょう。やりゃいいんだろ?」


とふて腐れた態度でのそのそ前に出る。そして選ばれたのは奥沢、中村、山野、宿院、河合、川島、佐々木兄弟、そして馬越。どう見ても馬越は戦える状態ではない。そしてこの九人は先程の稽古で安藤を除いて叱責されていた九人だ。その中でも馬越を指名したのは阿部十郎という何処かきな臭い男。その馬越を指名した阿部に対して


「阿部とか言ったな。俺の勘通りやっぱりお前はこの中で一番最低だな。」


と言い放つと


「稽古なんだろ?だから弱そうな奴らを選んで俺達が特別に相手してやろうと思ってるだけだ!」


と上から目線で言うのであった。


山口一は後に斎藤一と名前を変える人物で、現在は山口一で通しています

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