↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/25

第24話 軍師の囁き

【元治元年 八月上旬】


 新撰組は池田屋事件と明保野亭事件、そして禁門の変の恩賞金を京都守護職・松平容保から賜る。勘吾は池田屋の一軒で二番目に到着した為、金十七両を賜った。一方で一番に到着したにも関わらず、ろくに大した働きをしなかった武田や浅野は二十両貰っており、屯所の警備をしていた尾関や山野は貰えなかった。落胆していた二人に勘吾は


「まあ、そう気を落とすな。この金で今日は俺が酒奢ってやるからよ。」


と二人を祇園に誘った。勘吾に取って報奨金を稼ぐということは自分の為ではなく、強引に身請けさせられた冴に仕送る事である事を二人に伝えた。尾関や山野は


「そういう事だったのか。お前も色々大変だな。」


「だったらお前はもっと稼がないとな。身請けって相当な額だろ?」


と同調していた。だが、それ以上に不満を持っていた者達がいた。二番隊組長・永倉新八である。永倉は一番に斬り込み、玄関先で大きな声を上げて何もしない武田や、裏庭の木陰で怯えていた浅野の様を全て見ていたのだ。更に武田は隊内の立ち振舞いは弁が立ち近藤や土方に対する媚びへつらう様子があからさまで、永倉達一部の隊士から目の敵にされていた。そしてある日、近藤に対して


「局長。貴殿の家来共はいい働きしてますなあ!」


という言葉を耳にした永倉達六人は


「武田の野郎!」


と怒りを募らせていた。その時いた面子は永倉、原田、斎藤、島田、葛山、そしてここにいる尾関である。尾関から


「永倉先生らあが連名で建白書を容保公に提出する話がありまんのや。山野と蟻通もどや?武田にむかついとんのと違うか?」


と話を持ちかけられるが勘吾は


「俺は近藤局長より土方先生に付いて行ってる状況だからなあ。」


と断り、山野も


「近藤先生は騙されやすいって前に藤堂先生が言ってたろ?だから真実を知るまで俺も乗らないなあ。」


とこちらも断った。


【元治元年 八月下旬】


 江戸に藤堂や中島を残し、尾形を連れて先に京へ戻った近藤だったが、武田に隊士は家臣として局長を慕っていると吹き込まれ、この時期辺りから天狗になり始めていた。実直で騙されやすい近藤は武田の囁きにまんまと乗せられてしまったのである。最近では大坂新町にある料亭「折屋」の遊女、深雪太夫を身請けするという噂が広まり、その為に金が必要と勘定方の河合や酒井が困り果てていた。こうした近藤の我が儘な振る舞いが目立つようになると、これを遺憾とした永倉や斎藤、原田、島田、尾関、葛山は、脱退覚悟で近藤の非行五ヶ条を守護職・松平容保へ訴え出る。発案者は元会津藩出身で顔が利く葛山。


「これで近藤局長も気付いてもらえればいいが・・・」


と六人で京都守護職の置かれている金戒光明寺へ赴くと、後日近藤が呼び出され、咎められた。


「芹沢程ではないが、貴公も同じ墓穴を掘る訳ではあるまいな?」


「新撰組はあくまで会津藩御預かりの隊であって一国の殿様気分で励んでおっては困る。局長である貴公がそんな事でどうする?悔い改めよ!」


と広沢や秋月に叱責され、最終的に容保の取り計らいにより近藤との和解となった。だが、この一件は後を引くことになる。


【元治元年 九月六日】


 この一件を提案した葛山が切腹させられる。介錯は同じく建白書に同調した斎藤。まるで見せしめのようなこの裁きに新撰組隊士達は震え上がった。山南は


「そこまでしなくても良いのでは?」


と庇うが土方に


「平隊士が上に背いた罰だ。勝手に訴訟をするなと法度に背いた。本当なら全員切腹だが、今回はこいつの腹だけで許してやろうという事だ。この新撰組は烏合の衆だ。それを今までまとめてきたのは近藤さんだろ?」


という言葉に山南はぐうの音も出なかった。山南は他にも


「葛山君は会津の侍だから何事も起こらなければいいが・・・」


という別の懸念も持っていた。この葛山の切腹を見ていた勘吾は


「・・・全く永倉さん達は回りくどいんだよ。」


とぽつりと呟いた。そして他の五人は謹慎を言い渡された。


【元治元年 九月二十六日】


 永倉達五人の近親が解けた朝稽古での出来事。相変わらず反省の色もなく、後ろで大声を出し、威張り散らしている武田に勘吾が


「おい!坊主組長!俺と立ち会え!まさかまた逃げるわけじゃあねえよなあ?」


と因縁を吹っかける。武田は


「誰にものを言っている!私は五番組ちょ・・・


と話してる間に勘吾は武田の口の中に竹刀を突っ込み口を封じ


「能書きはいいから竹刀持てよ。組長さんよ?」


と挑発すると、沖田が


「その勝負受けねえと組長の名が泣くぞ!」


と煽ると、土方も


「平隊士はお前にとっちゃ家来同然なんだろ?ここじゃ私闘は禁じてるが稽古で組長を負かす事は禁じちゃいねえぞ?」


と武田に竹刀を渡すと勘吾が


「本気でやってやるよ。来い!糞坊主!」


と左太刀の構えに変えた勘吾が武田の斜め前に体をずらしながら腕を削ぐような太刀筋で思い切り斬り裂くと永倉が


「これは!柳生心陰流奥義の之太刀の一つ、添截乱截・・・!」


更に流れるような動きで竹刀を後ろに構え、目にも止まらぬ速さで左袈裟に斬りつけると斎藤が


「・・・!これは二天一流の・・・虎振!」


そして強烈な縦への一撃を武田の頭から爪先まで竹刀をズバン!と振り落とすように斬ると原田が


「げっ!今度は卜伝流の一之太刀!蟻通、お前何処で覚えて来たんだ?」


武田は勘吾の剣術に完全に遊ばれぼこぼこにされていった。勘吾の一之太刀を食らい、武田は大の字になって倒れ気絶してしまった。


「・・・ますます君がわからなくなってきたよ。蟻通君。」


と山南が言葉を失う。すると沖田がげらげら笑いながら


「ぎゃははははは!最高じゃねえか!蟻通君!流石我が一番隊の一本槍!だから壬生狼は止めらんねえんだよな!」


気絶した武田に永倉ら建白書を提出した者や、平隊士達が井戸水をがんがんぶっかけ、沖田の笑いに釣られ、大笑いしている。気がついた武田は周囲の笑い者にされている事に気付くと、勘吾が


「おい!坊主組長!次皆に横柄な態度取ったらまた俺が苛めてやるよ!もっともおめえの隊に付きてえ奴がこの中にいると思うか?てめえは俺の女の尻を散々撫で回したそうじゃねえか?もしおめえがこの新撰組を裏切るような事があれば是非ともその不細工な生首と汚え両手を俺の刀でぶった斬ってやるからな!」


と竹刀を倒れている武田の目の前に威嚇するように突き刺すと、武田は


「い、今に見ておれ!」


とずぶ濡れになりながら走り去っていった。その一部始終を見ていた近藤は


「おい!助勤たる者、平隊士にやられてやり返さねえのか?」


と腕を組みながら鬼の形相で立ちはだかると


「もう一勝負取ってこい!」


と怒鳴りつけられ、戻ろうとすると、勘吾以外の隊士が


「次は俺にやらせろ。」


「その次は俺な。」


と全員が睨み付け、が


「おーい!順番だぞー!一列に並べえ!」


と仕切っている始末。武田はその後、一人ずつ立ち会いをやらされ、近藤に


「お前、誰かから一本取るまで勤務から外すからな!」


とどやされ、武田hその日一日を稽古に費やされた。そして最後に残ったのは三浦啓之助。その前に近藤周平からも一本取れなかった武田がようやく一本取る。時間はもう夕刻を迎えていた。へとへとになり地面に這いつくばると、武田の周りに鴉が数羽やって来て武田を突っつく。そして土方に


「おい!いつまで寝てるんだ?おめえ今日死番だろ?」


と言われ


「はい!ただいま!」


と飛び起きる武田を見て勘吾達は


「いつも稽古さぼってる罰だ。大体一番弱いガキにあんなに手こずりやがって。」


と笑い者にされながら死番に向かった。一緒に見廻る松本、宿院、万太郎が


「何でこんな雑魚と?武田さん。足引っ張らないで下さいよ。」


と溜め息を付かれ、この日から武田が大声で威張り腐る事は減っていった。


 勘吾はそんな武田の姿を土方や沖田と見ながら


「お前のやり方が正当だよ。わかってきたじゃねえか。ここは力が全てなんだ。お前もその口で讃岐から出て来たんだろ?」


と言われ


「やっぱり建白書とか性分じゃないんですよ。気に入らなかったら目の前で叩き潰せばいいじゃないですか?」


と返すと土方が


「お前のおかげで全員目が覚めたよ。何か奢ってやるから来いよ。」


と言われ勘吾は


「それならうどんがいいです。俺はうどんだけは目がなくてね。」


と三人で上手い讃岐うどんを食わせる店へ向かった。



勘吾の剣術は古今東西あらゆる剣術をマスターしており、エピソード序盤では居合いを用いた刀狩りを使っていましたが、先の河上玄斎との戦いで限界を感じ、剣術へシフトするという展開に落ち着きました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。