↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

第22話 幕末最強の人斬り

【元治元年 七月十八日】


 次の日の夜、池田屋事件で吉田稔麿等主力を失った長州の過激攘夷派達が遂にぶち切れ、寺田屋という旅籠で密かに会合を開いていた。その話を聞いていたとある女性が、市中見廻り中の勘吾達にその情報を漏らす。勘吾はその女性を見て仰天する。


「馬越?お前まだいたのか?中島と江戸へ行ったんじゃ・・・?」


とびっくりするが、馬越は町娘の姿になり、とぼけながら


「?あたしは寺田屋の冴と申します。よろしゅう。」 


その女性とは、女に戻った馬越であった。今は本名の冴という女だった頃の名前に戻していた。馬越三郎改め冴は


「寺田屋で久坂玄瑞らあ長州藩士達が何か企んでおます。」


と勘吾達にのんびりした口調で情報を伝え、見廻りをしていた勘吾達は直ぐさま屯所に戻ると、近藤達は既に準備に取りかかっていた。ここで勘吾がいらいらしながら


「土方先生!冴を、馬越を何とかして頂けないでしょうか?未だに京にとどまってやがる!」


と報告すると土方が


「あいつ・・・今何処にいるんだ?」


と勘吾に聞くと


「寺田屋という旅籠です。長州者の溜まり場だと話しております。あいつ密偵みてえな真似しやがって!俺達に情報流してきやがった!」


と怒りをぶちまけると土方に


「その話は後だ。会津藩から御達しがあった。その長州がこれから御所に攻め入るそうだ。お前等も急いで武具を着けろ。」


と言われ、冴を心配しながら甲冑と鎖帷子を身につけた。


 その頃、寺田屋を出て京へ進軍中の長州軍の一団に戻った久坂玄瑞等長州藩士達は


「新撰組の雑魚共が!貴様等より我等が格上だという事を知らしめてやる!」


と息巻いていた。桂小五郎や高杉晋作等は


「まだ時ではない!稔麿達もやられてしまった。今武力衝突になれば長州藩が朝敵にされる。あくまで朝廷への嘆願として進軍し、戦いは避けるべきだ」


「我々の目的は朝廷に冤罪を晴らす事。戦になればすべて台無しだ。あくまで嘆願という形で上洛するべきだ!」


と久坂達を説得し押さえていたが、長州の豪傑来島又兵衛は


「池田屋で同志が死んだのに何もしないでどうする!武力で京都を制圧して長州の意思を示すべきだ!最早問答無用!仲間の仇を討ち、長州の正義を朝廷に示すには武力しかない!止めるなら俺を斬ってからにせい!」


と新撰組に対して相当ぶち切れていた。久坂も


「桂さん。最早我等を止める事は出来ん!戦闘は俺が指揮を執る!」


と言って聞かない。桂は


「私は今ここで死ぬわけにはいかぬ。長州の未来を残すには、生き延びて時を待つしかない。」


とし長州藩邸に戻った。


【元治元年 七月十九日】


 早朝の五時から長州軍は京都に向け、藩兵約二千人を三隊に分けて、それぞれ進軍を開始した。来島又兵衛隊は西方の嵯峨天龍寺から進撃し蛤御門を攻撃、久坂玄瑞隊は南方の山崎方面から進撃し 堺町御門を攻撃、福原越後隊は東方の伏見方面から進撃し、大手御門を攻撃しながら御所を目指す三方向同時進撃作戦を立案していた。この三方向同時進撃の狙いは、御所の守備兵を分散させて一点突破することにあった。


 対する幕府軍は既に臨戦態勢を整え、薩摩藩は西郷隆盛が率い、京都御所の乾御門や蛤御門周辺等を防衛、会津藩は蛤御門をはじめとする京都御所の主要な門を固め、桑名藩は蛤御門や堺町御門に構える。そして新撰組は京都の南の玄関口であった東九条村の豪農宅等に宿陣しながら待ち構えていた。


 一方その頃、寺田屋では長州藩士達が出たのを確認し、今度は薩摩藩士・大久保一藏達が寺田屋で会合を開いていた。大久保は


「姉小路公暗殺を機に我等薩摩は政権の中枢から外れてしもうした。こいから我等薩摩が政権の主導権を獲得する為には、幕府に連なる勢力を排除するしかありもうさん。京を追放された岩倉卿に話を聞いてみる必要があろうもん。」


「じゃっどん。岩倉卿が我等の話を聞いてくれるだろうか?」


「全てはこの長州の暴動が収まってからじゃ。西郷どんには後から話しょうもん。」


この様子を聞いていた冴は


「この人らあはいずれ倒幕する気だわ!皆に報告せねば!」


と寺田屋を飛び出し、壬生の屯所に向かったが、新撰組は既に出陣しており、誰もいなかった。冴は八木源之丞に


「新撰組は何処に行きなはったん?」


と尋ねるが


「あんさんは誰や?新撰組なら御所の警備や。けったいな事にならはるから行きなさんな。」


と止められるも、冴は急いで御所に走って行った。


 その頃、既に蛤御門を固めていた幕府軍に長州藩の兵が


「仲間の仇を討つ!朝廷に自分たちの正しさを訴える!」


と言い放ち御所の西辺である京都蛤御門付近で長州藩兵と会津・桑名藩兵が衝突、ここに戦闘が勃発した。長州勢は蛤御門に大砲を放ち、当時十二歳の睦仁親王(後の明治天皇)は驚きその場で気絶してしまった。


 始めの方は福原越後隊と国司信濃、来島又兵衛隊は筑前藩が守る中立売門を突破して京都御所内に侵入するも、乾門を守る薩摩藩兵が援軍に駆けつけると形勢が逆転して敗退した。狙撃を受け負傷した長州の豪傑、来島又兵衛はここで自決した。


 真木和泉、久坂玄瑞隊は開戦に遅れ、到着時点で来島の戦死および戦線の壊滅の報を知ったが、それでも御所南方の堺町御門を攻めた。しかし守る越前藩兵を破れず、久坂玄瑞、寺島忠三郎らは朝廷への嘆願を要請するため侵入した鷹司邸で自害した。遺命を託された入江九一は鷹司邸を塀を乗り越えて脱出したが、その際に越前藩士に発見され、槍で顔面を突かれて死亡した。


【元治元年 七月二十一日】 


 新撰組はというと京都・伏見などで大垣藩兵等と共に福原越後率いる長州勢と交戦し、撃退に成功していた。烏丸・日野邸等でも長州浪士らを討ち取り、遅れて到着した久留米藩の指導者の一人である真木和泉は合流に失敗し、敗走しながら兵を逃がし、宮部春蔵ら十七名の敗残兵と共に天王山に立て籠もると、近藤や土方、永倉の二番隊、松原の四番隊、井上の六番隊、藤堂の八番隊、原田の十番隊がこれを追いつめ包囲する。


「真木!観念しろ!貴様等に最早逃げ場等ない!我等新撰組が成敗致す!」


と近藤が叫ぶと真木は


「貴様等雑魚共にくれてやる首級等ないわ!」


と小屋に火薬を仕掛けて新撰組に近づけさせず自爆死して果てた。この爆発前に、池田屋事件で風呂桶に隠れて難を逃れた大沢逸平がその場を逃れ、真木の遺言を高杉晋作や三条実美らに伝える為に長州藩に向かい走って逃げた。


 中立売御門付近では長州藩が放った放火を潜りながら、沖田の一番隊、斎藤の三番隊、武田の五番隊、三十郎の七番隊、安藤不在の九番隊が別の浪士達と相対していた。つい四日前に入隊した三浦啓之助の仇である河上彦斎である。沖田や武田、三十郎が三浦を立てようと


「貴様、肥後の河上彦斎だな?ここは三浦に任せろ!お前等は手を出すな!」


と指示を出すが、河上は相当の使い手であり、三浦が刀を振り下ろすも、河上に簡単に交わされた挙げ句


「ひ、ひい!」


と隊士達の影に隠れてしまう。呆れた一同と、この河上の実力を見た沖田達は河上を取り囲む。その中には勘吾も参戦している。河上は


「我が同志、宮部鼎蔵を殺ったのは貴様等だな?」


とこちらも因縁を持っており、沖田や斎藤、勘吾等総勢十二名の強者を相手に一歩も引かない。その場にいた隊士は沖田、斎藤、武田、三十郎、周平、川島、中村、浅野、葛山、松本、三浦、勘吾。腕が立つのは沖田と斎藤、勘吾くらいで殆どが戦闘力が低い者ばかりで多勢だが無勢であった。それでも果敢に向かっていった中村と松本が河上に斬られ負傷する。不敵な笑みを浮かべる河上に沖田は


「斎藤、蟻通、三人一斉に行くぞ。他の奴等は邪魔だ。下がってろ。」


と指示を出す。勘吾は斎藤に


「こいつに小細工は通用しない。刀を奪うのは無理だ。だからせめてこいつの刀を折る。」


とぼそっと話している間に河上の逆袈裟斬りが二人を襲うと勘吾がすかさず


「一本もらった!」


と河上の刀を派手に折るが、河上は素早く所持していた二本の刀を抜き二刀流の構えを取る。勘吾も脇差しを抜き、同じく二刀流の構えを取り、沖田と斎藤の三人で河上を囲んでいると、三浦が河上の背後から突然飛び出し


「父上の仇!」


と叫んで斬り込んでいく。沖田が


「あの馬鹿!」


とまたもいなした河上が三浦の首を刎ねようとすると、咄嗟に勘吾が割って入り、二刀流で河上に立ちはだかる。河上は小柄で腕力なら勘吾に分があり、力で押し戻そうとすると、一瞬力を抜き間合いを戻そうとする河上の左から斎藤が攻め立てるもも交わされ、更に沖田が必殺の三段突きを食らわせると、両者の刀がぴたりと重なるのを見て


「沖田の三段突きが破られた・・・」


と全員身構える。すると今、勘吾達が戦っている中立売御門付近の家屋が放火され、京の町が火災に包まれ河上と新撰組の間に炎が走った。河上は撤退する長州藩兵達に


「撤退だ!逃げろ!」


と促されるが、四人は炎の中まだ刀を構え、睨み合っている。すると、勘吾が左手に持っている脇差しに火を移し、火炎を纏った脇差しを河上に向かって逆袈裟斬りを浴びせると、河上の羽織に火が付き地面に転がっていく。止めを刺そうと勘吾と沖田、斎藤が向かっていくが、炎に遮られ近づけない。河上が去り際


「俺は肥後脱藩・河上彦斎!命拾いしたな?おめえら!この借りは必ず返す!」


と言い残し長州藩兵達と逃げていく。勘吾は


「俺は新撰組隊士・蟻通勘吾!いつかてめえをぶった斬る!」


と怒鳴り声を上げる。武田に


「お前等!こっちも撤退だ!このままじゃ焼け死ぬぞ!」


と促され、負傷した中村、松本を連れて撤退する。


 新撰組は一旦東九条村に戻り、近況報告を行う。斎藤が


「あの河上彦斎って奴、只者じゃない。俺と沖田と蟻通の三人がかりでも平然としてやがった。それに沖田の三段突きですら通用しなかった。奴は要注意だ。蟻通の咄嗟の機転がなかったら俺達はここまで辿り着けなかった。」


と報告すると、沖田が煙を吸って咳き込んでいた。


「総司!大丈夫か?」


と近藤が心配すると沖田は


「ええ。それよりあの河上って野郎!只じゃ置かねえ!」


と執念を燃やしていた。




序盤に出会った田中新兵衛と中村半次郎、芹沢の一件で出会った岡田以蔵、そして最後に出て来た河上彦斎との一戦でしたが、上記の三人より強敵に書きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。