第19話 狼達が群れを成す夜
【元治元年 六月五日 夕刻】
結局会津藩の援軍は来ず、単独で三条から四条方面の捜索を開始した。
三条を捜索する近藤隊十名
近藤、沖田、永倉、藤堂、武田、万太郎、周平、浅野、安藤、奥沢、新田
四条を捜索する土方隊は更に二手に十二名
土方、井上、斎藤、原田、島田、三十郎、川島、葛山、林、篠塚、三品そして勘吾
土方隊から途中で別れた松原隊十一名
松原、宿院、中村、河合、尾関弥四郎、佐々木蔵之助、酒井、松本、木内、竹内、伊木
屯所の守備は午前中の桝屋で奮戦した
馬越、尾関、尾形、山野、柳田を山南がまとめた
その隙に馬詰勘介・馬詰柳三郎親子は脱走した。
【元治元年 六月五日 夜】
近藤隊と土方隊、途中で分隊を任された松原の隊がそれぞれ旅籠を当たっていたが、乞食に化けていた山崎が近藤隊の元へ走って来て
「・・・池田屋どす。中に中島はんから雪隠を渡され申した。」
と近藤が雪隠を開くと、宮部鼎蔵ら四十三名の過激攘夷派の浪士達が集まっており、古高の奪還を話し合っていると情報をもらった近藤隊十名は直ちに池田屋へ向かい、山崎に
「土方達にも伝えてくれ。」
と山崎を走らせると近藤隊が間もなく池田屋へ到着。近藤が
「主人はいるかあ!新撰組御用改めである!」
とでかい声を張り上げると、池田屋全体が閑散としているのを確認した十名に武田が小声で
「入り口は私と谷兄弟で固める。安藤達四人は局長達が踏み込んだら裏へ回れ。」
と指示を出す。安藤は
(結局てめえは中に踏み込まねえのか?口先だけの臆病者が。)
と思いながら
「局長が踏み込んだら奥まで駆け抜けて壁を壊せ。そこに裏庭がある。」
と奥沢、新田、浅野に指示を出す。奥沢は
(武田より安藤さんの方が的確だ。年期が違う。)
と思いながら奥を見る。すると、のんびりと池田屋の主人、入江惣兵衛が顔を出し、時間を引き延ばすようにゆっくりと
「・・・何か御用でっか?」
と話している間に奥の部屋にいた中島が無言で上を指を差し
(二階です!)
と読唇術で伝えると、近藤と沖田が惣兵衛を突き飛ばし二階の階段へずかずか踏み込んでいく。すると二階の一室の蝋燭が消される瞬間を見た近藤はその部屋の障子を開け、大勢固まっていた浪士達に
「新撰組御用改めである!手向かいする者は容赦なく斬り捨てる!」
と怒鳴りつけると、先頭にいた土佐藩士・北添佶摩が近藤に刃を向け、後方にいなされると、沖田に斬りつけられ、蹴飛ばされて狭い階段を勢いよく転がり落ち、玄関口まで吹っ飛んでいくと、待ち構えていた武田達を見て
「うわあ!」
と互いに向かい合い、北添は血まみれになりながらも逃亡していった。武田が
「何やってる!お前等!追わんか!」
と谷兄弟を叱り飛ばすと
「逃がしたのはあんたのせいだろうが?」
と睨み付け、万太郎は玄関から逃げようとする浪士達を槍で威嚇し中へ追いやった。周平は武田の指示通り北添を追っていたが、そこで土方隊と出くわし
「池田屋です!すみません。一人取り逃がしてしまいましたので追います。」
と報告すると土方が
「そいつは後でいい。池田屋だな?」
と尋ねると周平が
「はい!山崎さんが土方さん達に報告しに走って行きました。」
と告げると土方が
「おめえら!池田屋だ!周平。お前も来い!」
と命令し、池田屋へ向かうと勘吾が道中で
「力さん。林。中は副長達がやるだろうから裏から攻めようぜ。」
と作戦を立てていた。
場所は戻って池田屋では一階を永倉と藤堂、二階を近藤と沖田、玄関口を武田と万太郎、裏庭を安藤、奥沢、新田、浅野が回っていたが、その裏庭に回っていた奥沢が土佐藩士・望月亀弥太に斬られ早くも戦線離脱。この形相に驚いた浅野が
「ひ、ひい!」
と怯えながら安藤と新田を二階から飛び降りてくる浪士達に向かって突き飛ばす。浅野に押された新田が斬られ、安藤が一人奮戦するも上から次々と飛び降りてくる浪士達に上から斬りつけられ、倒れてしまう。その裏庭に、中にいた中島が急遽参戦し、孤軍奮闘する。中では沖田が獅子奮迅で浪士達を斬りまくり、近藤が気合い一閃
「どんどん来いやあ!」
と池田屋内で雄叫びを上げながら仲間を鼓舞し戦う。一階でも永倉と藤堂が近藤の叫びに答え、たった二人で数十名の浪士を斬殺していく。だが、時が経つに連れて沖田が体力を消耗し、永倉が右の親指を斬られる。そして藤堂も大量の汗をかいて鉢金を外して拭おうとした瞬間に左の額を斬られ、それでも戦っている。この四人は満身創痍だったが、ここで土方の率いる勘吾達の組が二番目に到着し、土方が
「後は任せろ!おい!おめえら!派手に暴れろ!」
と指示を出しながら中に入っていった土方や原田、斎藤達を見届けると、勘吾と林、島田は裏庭に回った。すると安藤、奥沢、新田が倒れており、まだ息のある安藤が
「浅野の奴、俺達を盾にしやがっ・・・」
と発し
「わかったから喋るな。皆来たから安心してここは俺達に任せろ。」
と話していると、後から付いてきた三十郎が二階から飛び降りてくる不逞浪士を槍で突くと、その浪士が三十郎の槍に伝って落ちてきて、三十郎の方が
「う、うわあ!」
と槍を落としながら尻もちを付いて驚く。勘吾はまだこの裏庭に飛び降りてくる不逞浪士に向かって
「力さん!両手貸せ!」
と稽古の段取り通りに島田が構え
「良し来い!飛べ!蟻通!」
と叫んで島田の組んだ両手をを踏み台にして、飛び降りて来た伊予松山藩士・福岡祐次郎を斬り、その福岡の刀を咄嗟に鞘から引っこ抜いて奪い二刀流にし、福岡の背中を再び踏み台にして二階にいた二人の不逞浪士の首を刎ねた。
「・・・あいつは鳶か?」
と不逞浪士達は驚くが
「新撰組だ!てめえら!全員ぶっ殺す!」
と怒鳴り散らす。この時勘吾が斬り捨て、空中で刀を奪い、踏み台にしたのは伊予松山藩士・福岡祐次郎。二階から飛び降りようとして勘吾に首を刎ねられたのは二名の土佐藩士・伊藤弘長、越智正之。何れも勘吾と同じ四国脱藩浪士であった。二階に飛び移ると、先の大和屋でどさくさに紛れて放火していた吉田稔麿が横たわっていた。
「お、御主達、こ、このま・・まで済むと思・・うなよ?わ、我らの中にはか、桂小五・・ぐふっ!こ、後進達が無念を・・・」
と話している間に息絶えた。勘吾は
「桂?昼間に山崎が追ってた野郎か?」
と吉田を睨んでいると、直ぐ横に沖田が倒れていた。
「?沖田先生!貴方程の御人が斬られたのか?」
と驚いていると、沖田は喀血し、膝を付いて咳をしていた。二階の奥では近藤達が戦っており
「・・・大丈夫だよ。俺は。・・・それより蟻通、この場を頼む。いいな。他言無用だぞ?」
と笑顔で託すと勘吾は
「・・・わかり申した。沖田先生!」
と決意を固め、さっき福岡から奪った刀で二刀流の構えを取る。
「ここは沖田先生に成り変わり、新撰組一番隊平士!不詳蟻通勘吾がお相手致す!」
と雄叫びを上げる。この大声に呼応し島田が
「林!お前も行け!」
と構えると林が
「承知!蟻通!貴公に助太刀致す!」
と今度は林が島田の怪力で二階まで放り投げられ、見事に着地させる。重傷の安藤や奮戦していた中島が
「凄え。」
と感心していると二階で
「林!お前も上がって来たか。ここは俺達が相手するぞ!」
と互いに背中を合わせ、浪士達を斬って行く。その中に見覚えのある浪士が二人いた。林が真っ先に気付き
「てめえらは!脱走した松井と越後!こんな所で何してやがる?!」
とその浪士は元新撰組で長州の間者だった松井龍三郎と越後三郎だった。芹沢一派粛清の際に林が藤堂と追いかけて取り逃がした男だ。林が
「こいつらだけは俺に殺らせろ!もう逃げられねえぞ!松井!覚悟しろ!」
と怒鳴り声を上げた林に松井が
「歴史を動かすのは我等長州だ!貴様等なぞ塵のようなも・・の・・・」
と言い放ちながら林の突きを食らった松井が崩れ落ちると、越後は二階から手負いながらも逃亡。隣で二刀流を操っている勘吾が大暴れしている。勘吾は二刀流を構え、沖田を守りながら戦っていた。
「てめえら!うちの隊長に何しやがった!新撰組の刀狩りを舐めんじゃねえ!」
と怒声を浴びせながら二本の刀のうち、右手に持つ播磨住昭重を逆手に持って浪士達を次々と斬殺していった。この様子に沖田は意識朦朧としながら
「お前をうちの一番隊に入れて良かった・・・」
と呟きながら気を失っていった。
ここで松原の隊も到着し、土方が
「松原達が来た!ここからは生け捕れ!殺すな!」
と命令が下ると、勘吾と林は刀を引っくり返し、峰打ちで浪士達を落としていった。その内会津の見廻隊も到着してこの池田屋での死闘は終決した。
勘吾と林は一旦近藤達二階で戦っていた隊士と合流。勘吾が
「沖田先生がばてて向こうで倒れています。斬られてはいませんが戸板で運んだ方がよろしいかと。」
と報告し、勘吾と林に
「屯所まで運んでやれ。」
と指示を受ける。他にも藤堂、安藤、新田、奥沢が松原の隊にいた隊士達が戸板で屯所まで運ばれた。奥沢はその時既に死んでいた。勘吾や林が
「奥沢・・・立派な戦いだったぞ。」
「俺もそう思う。お前は勇敢に戦った・・・」
と奥沢の死体を見ながら沖田を運んでいた。安藤は
「あ、浅野の野郎は?あ、あいつお、俺と新田を突き飛・・・ばして・・・」
と戸板の上で話していたが、浅野は木陰に隠れており
「・・・ようやく終わったか?」
とけろっとしている。それを見た島田が
「お前!何処で何してた!」
と叱り飛ばすと浅野は
「あ、ええ。向こうで戦ってましたよ?」
ととぼける。明らかに返り血すら浴びていない浅野を見た勘吾達は
「この卑怯者が!お前のせいで安藤も新田もこんだけ傷ついて、一人で残った中島だって苦労したんだぞ!」
と罵声を浴びせるも
「ちゃんと戦ってたんだよ。信じてくれよ。」
と反省の色もない浅野に対して勘吾達は
「てめえ、後で覚えてろよ!」
と捨て台詞を吐きながら一足先に屯所に向かった。
一方その頃、長州藩邸では久坂玄瑞達長州藩士達が
「壬生狼の奴ら!ただじゃ済まさん!」
と怒りを燃やしていたのを桂小五郎が押さえていた。門前では命からがら逃げてきた北添佶摩や望月亀弥太ら数名の不逞浪士達が長州藩邸の前で門番に止められ、自刃していった。こうして新撰組を世に知らしめた池田屋事件が幕を下ろした。
この勘吾達二番隊の戦闘シーンは完全オリジナルです




