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第18話 監獄ロック

【元治元年 六月五日 午前】


 枡屋喜右衛門を逮捕した新撰組は、屯所の土蔵に喜右衛門を裸にし、吊し上げて武田と島田、三十郎、尾形が拷問をかけていた。ここで武田と三十郎が先程の醜態と鬱憤を晴らそうと喜右衛門を楽しそうに六角棒で何度も殴打するも効かない。更に生爪を剥がし、口の中に割れた陶器を入れて顔面を何度も殴打する。三十郎が縛られている喜右衛門の全身を槍の穂先で突っついて弄んでいる。


「はははは!ほら!吐けよ!」


「ほおら、今度は何処から血を出したいのだ?」


と完全に面白がっている。一緒に拷問をかけていた島田や尾形が


(任務とはいえ、こいつら何でへらへら笑いながらやってんだ?)


(こいつと谷はどう見ても無抵抗な奴をいたぶるのを楽しんでいるようにしか見えない。普段の稽古も疎かにしてるくせに何て奴らだ。)


と武田と三十郎に対して不満を持っていた。次第に枡屋喜右衛門は仮名で本名は近江国の攘夷派の志士で古高俊太郎とだけ答えた。


 一方その頃、何かが気になると三条に残っていた中島と川島が、とある不逞浪士を見かける。その男は宮部鼎蔵とその仲間達。中島は勘吾が匂ってたものを信じ、ここで張っていたのだ。宮部達は勘吾が匂うと感じた池田屋に入っていった。


「あいつ、鋭い嗅覚じゃねえか。」


と勘吾の嗅覚に感心し、自ら池田屋の内部に旅人に扮し、外に川島を張らせて雪隠で情報を流して行くことになる。


【元治元年 六月五日 昼過ぎ】


 四条で山崎が飛脚、浅野が商人、勘吾が乞食に化け、市中探索の現状報告をしていた勘吾だったが、山崎がふいに


「おや?奴は桂小五郎・・・」


と呟くと勘吾が山崎に


「誰だそいつ?」


と聞くと山崎が勘吾の首を片腕で隠し、側の軒先に隠れながら


「長州の大物ですわ。近藤先生や土方先生と因縁を持ってなはる・・・言ってみればわてら新撰組の天敵どす。」


と説明している間に桂はいなくなっており、山崎が


「この事を局長等に知らせてくれなはれ。わては桂を追って見ます。」


と言って走り去っていった。


 京都守護職が置かれている金戒光明寺に向かった近藤、永倉、藤堂の三人は、会津藩士広沢富次郎と面会する。近藤は桝屋から押収した諸藩浪士との書簡を提出し


「近々風の強い日に奴らが何かをしようとしているのは確かです。ここは会津藩と見廻組の応援を要請致し候。」


と相談すると広沢が


「容保公に報告後そちらの屯所へ向かう。それまで待機しているように。して、その桝屋の正体はわかったのか?」


と尋ねると、随行していた藤堂が


「書簡や血判状の宛先が古高俊太郎と記されております。血判状には宮部鼎蔵の他多くの過激攘夷派浪士の名があります故、我等だけでは手が足りませぬ。」


と告げると広沢が


「殿を通し会津藩兵を派遣する。それまで古高に自供させよ。」


と約束し三人は光明寺を去った。


 一方屯所では、武田達がまだ手こずっており、そこに山南と斎藤も加わっていた。土方が


「まだ吐かねえのか?しぶてえ野郎が!」


と苛立っており


「埒があかねえ。何か強烈なモンねえのか?」


と悩んでいると、丁度屯所に報告しに戻っていた勘吾が


「これならどうですか?」


と土方に百目蝋燭と五寸釘を渡す。土方が


「何だこれは?」


と尋ねると


「こないだ山崎から聞いたものです。やり方は・・・・」


と土方に耳打ちすると


「・・・お前等、ほんと敵じゃなくて良かったわ。良くこんな事思いつくよな?」


と言いながら気味の悪い笑顔を見せる二人を見て馬越は


「蟻通君。何話してたの?」


と尋ねると


「お前には話せねえよ。いくら何でもお前には・・・」


土方が


「あとは俺に任せろ。斎藤、お前だけ残って手伝え。」


と話し武田達を退室させると


(お前等結局何の役にも立ってねえよな?)


と強がった顔で土蔵から出る武田と三十郎を勘吾達が睨んでいると、土蔵で土方が


「斎藤、ひっくり返せ。逆さ吊りだ。」


と指示する。古高は逆さ吊りにされ、二階まで縛り上げられる。そして土方と斎藤の二人がかりで足の甲から五寸釘を打ち、貫通した足の裏の釘に百目蝋燭を立て火をつけるという過酷な拷問を受け、古高が


「ぐあああ!がばあ!はひっ、ひっ!ひっ!あぐあああ!」


と断末魔を叫びながら


「い!言うから!や、止め・・・ぎ、祇園祭の前のか、風の強い日をね!狙って御所にひ、火いを放ち、その混乱に乗じてな、中川宮朝彦親王を幽閉し、ひ!ひっとつ橋慶喜とまっ!つ平容保らを暗殺し、こ、こ、こ、孝明天皇をちょ!長州へ動座させる・・・あぎっ!ああああ!ぎゃがあ!」


と土蔵からとんでもない悲鳴が聞こえてきて隊士達が群がってくる。だが、涼しい顔をして土蔵から出て来る土方が


「自供した。全員集めろ。」


と淡々と島田に指示を出す。その間に勘吾は


「さっき山崎と桂小五郎を発見しました。今山崎が追っています。」


と報告すると土方が


「そうか・・・あいつも絡んでやがったのか・・・」


と呟くと、探索に出ている山崎達四人を除いた全員に


「皆聞いてくれ。古高の自白内容は八月十八日の政変後、京を追われた長州人らが六月下旬の強風の日を選んで御所に火を放ち、佐幕派公卿の中川宮を幽閉し京都守護職の松平容保公以下佐幕派大名を殺害し、天皇を長州へ連れ去ろうとするものだった。すでに計画実行の志士が多数上洛、潜伏しており近々市中で同志の集会があることも判明した。会津藩の応援が来るまで陣を張り、待機せよ。」


これにより、尊攘派の浪士らが時を置かずに会合を行うとみた新撰組は、会津藩にこの自白内容を報告のうえ徹底した市中探索を会津藩に提案しに再び金戒光明寺に今度は山南が尾形を連れて報告しに向かった。勘吾も一旦監察に出ている四人に報告しに三条と四条に向かい、山崎と池田屋内に潜伏した中島を残し、川島と浅野を連れ戻して来た。その間、新撰組ですっかり影の薄くなった馬詰親子が


「今この隊は慌ただしくなっている。この混乱に乗じて脱走するぞ。」


と密談していた。それを他所に土方が


「蟻通、川島、浅野。監察は二人に任せてお前等も甲冑付けろ。陣割りを決める。」


と指示され、三人も装備を付ける。しばらくすると山南と尾形が光明寺から難しい顔で戻ってくると


「土方君。どうやら会津は参戦しないらしい。どうする?」


と衝撃の報告を受ける。土方が


「近藤さん。もう日が暮れちまう。俺達だけでやろう。」


と進言すると近藤が


「有無。それしかなかろう。だが、三条と四条の旅籠を片っ端から当たって行くしかないが・・・」


と悩んでおり、山南が


「四条は旅籠が多いから人数がいります。三条は助勤を多めにした少数精鋭ではどうでしょうか?」


と提案すると近藤が


「それなら十人だけ俺に選ばせてくれ。」


と頼むと土方が


「わかった。それとその前に押収した兵器を取り返しに来るかもしれねえ。そっちも残さねえと。」


と心配すると山南が


「それでは私が残りましょう。先程の桝屋で警備していた彼らを残してはもらえないだろうか?」


と馬越、尾関、尾形、山野、柳田に


「あなた達は先程の戦闘で疲弊している。私と残って下さらぬか?」


と話すと全員


「勿論。その御役目確と承った。」


と承諾した。そして近藤から


「俺の隊は先ず総司、平助、永倉、武田、安藤、奥沢、新田・・・」


と指名していくが、三十郎が


「ちょっと待ってくれ。我等谷三兄弟は?」


と口を挟むと近藤が


「・・・じゃあ周平と万太郎。」


と弟達を指名され、三十郎は選ばれず、最後に監察の浅野が指名され、浅野が喜び、三十郎が悔しがる。それを見ていた勘吾達は


(馬鹿か?おめえ今朝馬越達を盾にして案山子になってたろうが。)

(てめえは弱くても真面目に稽古している周平以下だ。)

(へっぴり腰で大声出してたおめえに果たせる役じゃねえんだよ阿呆。)


と白い目で睨みながらも、武田に対しても


(てめえも同じだろ?胡麻擂り野郎が。)

(あん中で一番弱そうだぞ?)

(その坊主頭で頭突きでも食らわせてどたまかち割られてこい。)


と二人を睨んでいる。


 そして近藤隊十名と、土方隊二十四名が夕餉の握り飯を食べながらそれぞれ山南から細部の陣割りを説明されている時、沖田が


「げほっ!ごほっ!けほっ!ごほっごほっ!」


と咳を切らす。近藤や土方が


「大丈夫か?お前。」


と心配するも


「何でもありません。大丈夫です。」


といつものへらへらした表情に戻るも、その顔色は誰の目から見てもおかしい事に気付いていた。その頃、馬詰親子は


「今なら脱走出来る。」


と話しており、柳三郎が白い鎖帷子の上に撃剣の竹胴を着込んでおり、皆が黒い隊服と鉢金や甲冑を着ているのを見ていた八木家の為三郎が


「どないしはったんでっか?そんなん着込んで?」


と尋ねると柳三郎が


「これから皆で京の道場荒らしに出かけるのだ。」


と答えると為三郎は


「?皆こない状況やってわかってんのに、この人らあは何言ってはるんやろ?」


と思った。この混乱に乗じて馬詰親子は新撰組を脱走したが、誰も気付く者はいなかった。


弱い者に強い武田と三十郎。自ら危険な場所へ入った中島。無理してでも戦おうとする沖田、その隙に逃げようとする馬詰親子の対比を書いています。

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